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【ネタバレあり】横溝正史・金田一耕助シリーズ!短編集「魔女の暦」を紹介

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今回も前回に引き続き短編を。
横溝正史先生の金田一耕助は長編以外にも短編も多く執筆されています。短編のほうが事件を未然に防いでいるので殺人防御率が高いと言われている。短編作品で有名なのは複数回映像化されている「車井戸はなぜ軋る」「黒猫亭事件」「殺人鬼」の二つでしょうか(両方とも本陣殺人事件に収録されている)。

またミステリー小説、短編集ということで長編のような難解なトリックを連想してしまいがちですが、短編集は登場人物の心情や内面、動機やシチュエーションの突飛さが強めなので、それらを期待すると肩透かしを感じるかもしれません。ただ犯人はわりと最後までわからない短編が多いので、犯人は誰だろうかと考えながら読んでみてもよいかもしれません。

ゆきんこ

今回は復刊された「魔女の暦」に収録されている2つの短編集を紹介します。犯人のネタバレなど満載なのでご注意ください

ありさん

本当は違うのを紹介したかったんでしょ?

ゆきんこ

うん。「堕ちたる天女」をやる予定だった。ただ復刊されていないから手に入らないんだ……!!!!

写真はこちらからお借りしています

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目次

魔女の暦

ぱくたそよりお借りしました

表題作。事件発生は5月8日、紅薔薇座。金田一耕助短編集にちょくちょくでてくる「ストリッパー劇場」が舞台の作品です。作中で「幽霊男」の話が出てきますが、雰囲気は確かに似ていますね。タイトルの「魔女の暦(まじょのこよみ)」はこの事件の犯人が用意したいわば「殺人計画書」です。「ズべ公」「アチャラカ」というあまり聞かない言葉も作中で出てきますが、これは「品性のない、だらしのない女性」という意味です。こういう当時の人が何気なく使用していた言葉もさらっと出てくるのが横溝正史作品の良いところで、個人的に好きな部分です。

今回の舞台になる「紅薔薇座」は男優女優スタッフ含めた入り乱れた関係があるのも特徴です。この事件で登場する関森警部補は次作の「火の十字架」にも登場しますので、地続きになっているなあというのもわかります。

登場人物作中での立ち位置
金田一耕助私立探偵
飛鳥京子紅薔薇座のダンサー。魔女。最初の被害者
霧島ハルミ紅薔薇座のダンサー。魔女。二人目の被害者。
紀藤美沙緒紅薔薇座のダンサー。魔女。
牧ユミ子紅薔薇座の女優。姫役。
碧川克彦紅薔薇座の男優。吹き矢を吹く悪魔役。
岡野冬樹紅薔薇座の男優。勇者役。
結城朋子紅薔薇座の女優。メドゥーサ役。三人目の被害者。
柳井良平紅薔薇座の脚本家。紀藤美沙緒の旦那。
山城岩蔵紅薔薇座の支配人。飛鳥京子のパトロン。
甲野悟郎紅薔薇座の音楽担当。霧島ハルミの内縁の夫
山本孝雄紅薔薇座の振付師

場所がストリッパー劇場とあってか、当たり前のように誰と寝たのか云々の話が出てきます。犯人は挑戦なのか金田一耕助に予告状を送り付けていて、金田一は劇場に足を運んでみていました。

※「魔女の暦」の犯人のネタバレ

飛鳥京子、霧島ハルミ、結城朋子を殺害した犯人は甲野悟郎。しかしハルミを殺す際の共犯に朋子もかかわっている。朋子は甲野が京子を殺そうとしている現場を目撃しそれで強請ろうとしたが、甲野は逆にハルミを殺す計画を彼女に持ちかけた。

ハルミに巨額の生命保険がかかっていて受取人が甲野のため、生命保険金を受け取るために朋子はハルミ殺しに協力したが、そのあと甲野に殺されてしまい首を斬られて「メドゥーサの首」に仕立て上げられた。そんな甲野は遺書も残さず自殺する。

※「魔女の暦」の犯人の動機

甲野が人生をやり直すために内縁の妻の霧島ハルミが邪魔だったから。
甲野悟郎は秀才だったがふとしたことで退廃的な底辺の地獄に堕ちてしまった。甲野はハルミの魅力に惹かれて惚れている。だからこそ表の職業につくためには霧島ハルミが障害になるため、殺しておく必要があった。京子は容疑が自分に向かないため、かつ犯人を碧川克彦や柳井良平に仕向ける為に殺害した。朋子を殺して首を切ったのも「メドゥーサの首」として見せつけ、犯人を柳井に仕向けるため。

甲野はハルミが色んな男性と関係を結んで枕営業をしているのもちゃんと知っている。ハルミ殺しの際、山城と寝たハルミは替え玉で、実際に山城の相手をしたのは朋子だった。

火の十字架

ぱくたそよりお借りしました

殺害方法としては金田一耕助作品の中でも屈指のインパクトを誇る作品です。想像しただけでおぞましいです。作中で「堕ちたる天女」の話が出てくるうえ、「魔女の暦」以前の話です。なので堕ちたる天女→魔女の暦→火の十字架の順で読むのがおすすめです。

「いや、それがですね。警部さんも今消印を改めていらっしゃいましたが、それ浅草でしょう。浅草だといつかの花鳥座事件ね、あれでぼくの顔も相当あの方面で売れたんじゃないかと思うんです」
「ああ、あの花鳥座の事件ね」
と、警部もあの陰惨な事件を思い出したのか、ゾクリと肩をすくめると、

火の十字架 P215
※※最初の被害者の殺害方法(かなりグロいので注意)※※

ベッドに両手両足を麻縄でくくりつけられ、そのうえで鉄の鎖で拘束。首元にも縄を括り付けている。
被害者の鼻に濡れた脱脂綿をいれて鼻呼吸できなくして、口に塩酸が入った漏斗をつけて流し込んで殺害。

発見されたとき、全身が塩酸まみれで死体の判別が出来なかったほど。

短編での金田一はてきぱき動くので、事件発覚後に殺される予定だった被害者を守っています。でも運送店に依頼してから1時間でつくかなぁ。この事件発生の月日は5月20日朝6時の新宿パラダイスですが、昭和34年(1959年)に起きた事件です。ともいうのも滝本が自分の生まれと年齢を警察に伝えているためです。

「年齢を聞いておこう。この星影冴子というのはいくつかね」
「28と称してましたがね。ただしかぞえ年ですよ。ぼくは満は苦手でね。もっとも本当に28なのかどうか、ほんものの亭主じゃないんで、戸籍を見たことがありませんがね」
「それで、君は……?」
「ぼくは34歳、大正14年6月うまれですから、これは正真正銘というところなんで」
「立花とかいったな、浅草の男は……?」
「ええ、そう、立花良介、年齢はそうですねえ、41,2ってところですかね。脂ぎった男盛りというところでしょう」

火の十字架 P234
登場人物作中での立ち位置
金田一耕助私立探偵
星影冴子大人気ストリッパー女優。劇場を三つ経営している
立花良介浅草パラダイスのマネージャー。冴子の情夫。最初の被害者。
滝本貞雄新宿パラダイスのマネージャー。冴子の情夫
三村信吉深川パラダイスのマネージャー。冴子の情夫で立花の稚児
富士愛子ショーの女優。2番目の犠牲者。
小栗啓三黒メガネとマスクをした男。事件の容疑者
権田平蔵ゴンダ運送店の棟梁
花園千枝子空襲で死んだ人気女優

金田一耕助短編には、等々力警部以外の警部も結構出てきます。個性があって面白いですが割愛してます。

「火の十字架」の犯人のネタバレ

立花良介と富士愛子、そして犯人と目された小栗啓三を殺害したのは星影冴子と滝本貞雄。花園千枝子は死ぬ直前、小栗に向けて狂宴と自分に対しての扱いを赤裸々に記載した手紙を送っていた。それを読んだ小栗は復員後、千枝子を殺したかつての団員に復讐するつもりで冴子に接触したが、逆に殺されてしまった。

小栗という隠れ蓑を手に入れた冴子は滝本と結託し、邪魔な立花たちを殺害していく。なお冴子は三村も殺害した後は隙を見て滝本も殺害するつもりだった模様。三村も殺すつもりだったが金田一が事件を暴いたことで彼に警察が護衛に入ったことで殺せなくなり、また警察が小栗の遺体も発見したため、二人は逃亡したが捕まった。

「火の十字架」の動機

花園千枝子殺害の過去を知り自分を強請るかつての劇団員を全員殺害して解放されたかったから。

星影冴子・立花良介・三村信吉・富士愛子・滝本貞雄・小栗啓三(青木俊三)・花園千枝子は劇団「南十字星」の団員だった。戦争中移動劇団も規制されて工場で働く傍ら、小栗を除く彼ら6人はサイレンの隙間を縫って乱交していた。戦争末期で空襲があり、いつ死ぬかわからない状況故、という前提が必須。

千枝子は団員たちの淫行の果ての事故で死んでしまったが、淫行などが明るみに出れば自ずとばれてしまう。そこで連帯責任として立花が滝本、三村、愛子、冴子と自分の腕に「十字架」を彫った。

金田一耕助短編集のまとめ

ぱくたそよりお借りしました

今回の「魔女の暦」は横溝正史先生没後40年&生誕120年記念企画ということで復刊されたタイトルの一つです。通俗エログロ要素が強いので好き嫌いは出ると思いますが、あの死体のインパクトをぜひとも実際に読んで体感してほしいです。

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ちなみに小説の著作権は死後70年です。2018年までは50年でしたが法律が変わって20年伸びました。このあたりはややこしいので注意が必要ですね。著作権が消滅した文豪の作品の一部は青空文庫に収録されていて無料で読めるので、気になった方はぜひとも青空文庫で見てはいかがでしょうか。

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