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【ネタバレあり】エラリー・クイーン長編「オランダ靴の秘密」を紹介

「オランダ靴の秘密」はエラリー・クイーンの国名シリーズのなかでは第三弾に該当。この作品をシリーズ最高傑作だと押すミステリー作家も多くいるほどの、隙がなく論理的かつロジックで塗り固められた作品です。そしてオランダは全く関係ないという(国名シリーズはだいたいそれ)。あとエラリー・クイーンの見た目のイメージがブレイクマイケースの祠堂恭耶だったりする。

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目次

「オランダ靴の秘密」のあらすじ

オランダ記念病院の見学席から手術を見守るエラリーの前に運ばれてきた患者。だが、シーツをめくると彼女は絞殺されていた。被害者は病院の創設者である大富豪。目撃証言から、犯行が可能だったのは執刀医だけに思われたが、彼は何者かが自分に変装したと主張する。その言葉通り、犯行に使われたと思われる一足の靴が見つかるが、様々な不審点があり……。
エラリーの論理と分析が冴えわたる<国名シリーズ>第3弾!

あらすじより

全員、容疑者。という言葉が似合うように登場人物の多くに動機があり、アリバイがありません。病院という閉鎖的な建物内での事件も特徴。でもローマ帽子の頃から全員、容疑者。のスタイルだなと思った。

登場人物作中での活躍
エラリー・クイーン推理小説作家(探偵・特別捜査官)
リチャード・クイーンエラリーの父親。ニューヨーク警視。親馬鹿。
トマス・ヴェリーニューヨーク市警。リチャードの部下で現場指揮
ヘンリー・サンプスン地方刑事。
ジョン・ミンチェンオランダ記念病院役員。エラリーの友人。
アビゲイル(アビー)・ドールンオランダ記念病院創始者で大富豪。今回の事件の被害者。
ハルダ・ドールンアビゲイルの娘。ルーシャスとフラーの婚外子で出産手術を受け持ったのがジャニー。
フランシス・ジャニーオランダ記念病院外科部長でアビゲイルの執刀医。アビゲイルを母親のように尊敬している。最有力容疑者だったが二番目に殺される。
ルシール・プライスオランダ記念病院の看護師。ジャニーの助手。
トマス・スワンソン謎の男。本名は「トマス・ジャニー」ジャニーの息子で元外科医。
ヘンドリック・ドールンアビゲイルの弟。ギャンブルで金食い虫。カダヒーに借金している。
ルーシャス・ダニングオランダ記念病院内科部長。ハルダの本当の父親。
ピート・ハーパー新聞記者。
サラ(セアラ)・フラーアビゲイルの世話係件長年の友人。敬虔なクリスチャン。ハルダの本当の母親。
アーサー・レスリーオランダ記念病院外科医でジャニーの部下。
グレース・オバーマンオランダ記念病院の看護師。ドールン夫人殺しでジャニーを目撃。
フローレンス・ペンニーニオランダ記念病院の元産婦人科部長。ジャニーを恨んでいる
イーディス・ダニングルーシャスの娘。ハルダと懇意。
エドワーズ・バイヤーズオランダ記念病院の麻酔科医。ドールン夫人殺しでジャニーを目撃。
モリッツ・クナイゼルジャニーと共同で新合金の研究をしている科学者。
フィリップ・モアハウスドールン家弁護士。ハルダと結婚の噂がある
マイク・カダヒー虫垂炎で入院した患者。マフィア。大物マイク。ドールン夫人殺しでジャニーを目撃。

「オランダ靴の秘密」のストーリー

舞台となったのは1921年1月。後に「ドールン事件」と呼ばれたオランダ記念病院の事件。
エラリーはある事件を抱えていてそのアドバイスを求めて、オランダ記念病院のジョン・ミンチェンを訊ねる。ミンチェンに訊ねた内容は、銃で撃たれた被害者(45)の死後硬直の開始時間が何らかの理由で伸びることはあるのか、というもの。エラリーの話を聞いたうえでミンチェンは自分で確認しないとわからないが、四十歳以上で糖尿病らしき病気を患っていれば、約十分近く死後硬直が伸びることがあると話した。それを聞いたエラリーは電話を借りて検視局に確認すると、被害者は糖尿病を長年患っていたとわかった。そして父親にそのことを報告。

ミンチェンは久しぶりにあったのだからとエラリーを止め、オランダ記念病院の説明を彼にする。優秀な外科医のフランシス・ジャニーや、病院創立者にして稀代の大富豪アビゲイル・ドールンなど。特にジャニーの手術はアメリカ東部一だとミンチェンは自慢し、ちょうど彼が行う手術があるから見ていくと良いと、エラリーを誘う。ジャニーが行う手術の患者はドールン夫人。彼女は真性糖尿病を長年患っていて、インスリン注射の忘れによる胆嚢破裂で手術が決定。親族も集まっているが手術室には立会できず待合室で待機している。オランダ記念病院の制服や、決まり、器具などをミンチェンはエラリーに説明していた。

ジャニーが行う手術室に、控え室からストレッチャーでドールン夫人が運ばれてくるが様子がおかしい。なにかに気づいたジャニーがドールン夫人を確認し医師や看護師に指示し、自分も人工呼吸器をつけ蘇生を行っている。しかし彼女は息を吹き返なかった。ドールン夫人はすでに死んでいて、首に絞殺された痕が残っていた。凶器は針金だった。

最初の被害者:アビゲイル・ドールン

エラリーの指示で病院の出入り口を閉鎖し、病院内の医師や看護師、ドールン家の親戚のアリバイを確認するが、執刀医のフランシス・ジャニーのアリバイが証明できなかった。ドールン夫人の死亡推定時刻、廊下を歩くジャニー医師を麻酔室にいるバイヤーズ医師とオーバーマン看護師、そして患者のカダヒーが目撃していたため。だが本人も言うように、医師の制服を着て白衣を着用しマスクと眼鏡をすれば自分だと認識してもおかしくない。では誰がジャニーに変装したのか? その謎はエラリーを悩ませることになる。
電話室前で捨てられた白衣や帽子などを発見するなかで、明らかに異様だったのが粘着テープで切れた靴紐を止めた一足の靴としつけ糸で縫われたズボン。エラリーはこれが事件解明の鍵だと、この謎と向き合った。
ミンチェンの助けも有りながら、エラリーは容疑者たちとドールン夫人との関係を露わにしていく。病院側でドールン夫人に明確な殺意を持っている人間はおらず、接点もあまりない。逆に接点がアリアリアリアリな医師はジャニー医師ぐらいで、彼はドールン夫人から息子のように愛され相応の支援や贔屓を受けていた。だからこそジャニー医師に敵意を持っている医師もいて、それが彼のせいで部長から副部長に降格させられた産婦人科医のフローレンス・ペンニーニ女医。彼女はジャニーを敵視しているが、ドールン夫人への殺意はまったくない。ドールン夫人の弟のヘンドリックは肥満体で吃音の傾向がある男で彼女の唯一の血縁者。自分で稼がずドールン夫人の資産を使っている男でドールン家の人間からは嫌われている。
そしてジャニー医師がドールン夫人殺害時刻にトマス・スワンソンという男と病院内で会っていたことが守衛の証言から判明。しかしジャニーはその相手の男がどのような男か決して語らなかった。

旧遺言書・新遺言書

ドールン夫人は遺言書を残していた。ドールン夫人の弁護士のモアハウスは、ドールン夫人が殺害される2週間前、新しい遺言書を作成したいと連絡があったことを話す。ドールン夫人はジャニーの遺贈分について心変わりがあり、新しい遺言書を作りたいとモアハウスに連絡。新しい遺言書はジャニー個人への遺贈分ではなくクナイゼルとの研究資金分を完全に削除するものだった。最初の遺言書は二年前に作成したが、その後使用人や慈善事業への遺贈の追加が生まれた模様。モアハウスは新しい遺言書を作成しておりあとはドールン夫人の署名を貰うだけだったが、貰う前にドールン夫人が殺害されてしまったため、二年前の……最初の遺言書が効力を有していると話す。(ちなみに手術日の翌日に貰う予定だった)
ドールン夫人が出資したジャニーとクナイゼルの研究資金は相当の金額で、換算するとモアハウスを含めた全員が何不自由なく暮らせるほどだったという。したがって最初の遺言書のままならば、ジャニーはドールン夫人の遺言書で個人の遺贈分と研究資金分の二つの遺産をもらえることになる。

謎の男の正体

エラリーとクイーン警視たちは暗中摸索に陥った事件解明の一手として、アビゲイル・ドールン殺しの容疑者としてフランシス・ジャニーを逮捕したと新聞で公表することを決める。警察側はトマス・スワンソンがこの記事を読んでアクションを起こすことを期待。その策は成功し、トマス・スワンソンがクイーン警視のいる警察署に出頭。トマスは本名を「トマス・ジャニー」といい、ジャニーの継子であった。名字を変えた理由は、5年前にトマスはオランダ病院で酒が抜けないまま手術ミスをしてしまい患者を殺してしまった。ジャニーはそれらをドールン夫人に報告し、ドールン夫人はトマスに解雇通知を出した。そのためトマスは医師免許も剥奪。トマスは己の醜聞と過去を詮索されるのを防ぐため、名字を変えてぜんぜん違う業種に就職した。ジャニーがトマスの話をしなかったのは息子がかつて犯した罪が世間に晒されないように庇っていた。トマスが出頭したのも父が自分をかばっているのを知っていたので、逆に迷惑がかかるとおもったから。
直後、エラリーからクイーン警視たちに電話が入る。トマス出頭で様々な情報を得たと喜ぶクイーン警視だったが、エラリーはその父親のジャニーが死んだ、殺されたと話したのだった。

二人目の被害者:フランシス・ジャニー

ジャニーは病院内の自室で椅子に座ってペンを握って死んでいて、ミンチェンとの共著の原稿を執筆しているときだった。後頭部に鈍器に殴られた痕があるが、直接の死因は絞殺(殴って大人しくさせて首を絞めた)。ドールン夫人と同じ針金を使用しての首絞めだった。彼の部屋には助手のルシールの机や中庭に続く窓もあった。しかしジャニーは暴漢に襲われた表情ではなく安らかないつもの表情。そのため不審者の殺しではないと解る。ジャニーの死体がストレッチャーで運ばれていくときも、エラリーは彼の後ろに窓があるはずだと叫んだ。しかし部屋の構造上ジャニーの椅子の後ろは何もなく窓は少し離れた位置にあった。

警察署長やハーパーは部屋を出ていき、ジャニーの部屋に残ったのはエラリー、クイーン警視、ミンチェン、ルシール。ルシールは口述速記ができるため警視の依頼で臨時で頼まれた。警視がジャニー殺害の状況を説明しそれをルシールが帳面に書き記していく。ジャニー殺害の発見者はモアハウスであり、ドールン夫人の遺言書の遺留分についてジャニーと話すため病院を訪れた(元々ドールン夫人が研究資金を削除する方向だったので)。電話の交換手がジャニーに繋いだときの声は確かにジャニーであり、モアハウスの事を伝えると少し待っていてほしいと答えた。その後、ジャニーからの連絡もなく怒ったモアハウスは待合室からジャニーの部屋に向かい、ついてきた制服警官とともにジャニーの死体を部屋で発見したという流れ。医師の見解によれば殺害時刻は朝10時~10時5分の5分間。他の関係者のアリバイのうち、サラはダニングに会いに来ていたがダニングは通常勤務を開始していた。怪しいので容疑者として勾留したがモアハウスの弁護士事務所がすぐに保釈品を支払って2人を開放している。何人かは完全なアリバイを証明できないがかといって全くアリバイがないわけではない状態。カダヒーなんて完全に先入観入ってるやろ

回目検討もつかない事件。再び暗中摸索に入ってしまったクイーン警視達警察は、犯人に翻弄されている。検事のサンプソンが同一犯人だと考えるなか、エラリーは犯人が逆に二人いる説を考える。このように狡猾な犯人が、まるで全て同一犯だと指し示す方法をわざと取っているようにも見えると。そして警察に出てきたのはジャニーの仕事の協力者のクナイゼル。彼はジャニーと研究中の新しい金属「ドールンナイト」を狙った犯人だと訴えるが、警察側はあまりにも空想上の机論だと誰も相手にしない。だってどんな金属かわからないしね。研究の完成まで警護を付けてほしいというクナイゼルにエラリー達は了承する。そしてクナイゼルは帰っていった。

事件解決の糸口とは

召使のジューナの叱咤激励で、奮起したエラリーはもう一度調べ直しに病院の現場にやってきた。だが今更新しい発見があるわけないと速攻で諦めかけたエラリーに、ミンチェンが最近見つけた情報が役立つかもしれないと激励する。死んだジャニーが20年以上かけて集めた様々な手術のデータや書類、当時から資料は棚に精査されていてジャニーはその書類を触るのを禁止していた。ミンチェンは共著のため原稿を書いていて昨夜もほぼ徹夜、ジャニーの残った分も担当した。そのときに彼の棚を探していたところ、その中の資料に、20年以上前、自身が執刀した帝王切開の手術で生まれた子供、それがハルダ・ドールンがあった。父親はルーシャス・ダニング、母親はサラ・フラー。この時既にダニングは結婚して子供がいたため、認知できなかった。このことを聞いた子供がいなかったドールン夫人は二人と話してその婚外子ハルダを自分の娘ハルダとして登録。ハルダの出生を知るのはドールン夫人、サラ、ダニング、ジャニーの四人。ドールン夫人とサラの口論は専らハルダの事に関してで(ドールン夫人はハルダを本当の娘のように愛し育てた)、ドールン夫人がサラを解雇できなかったのはハルダの事を吹聴される事を恐れたため(ハルダ本人は生まれについて知らないので)
ジャニーの資料を見たいというエラリーに、ミンチェンはうなづいて資料を取りに向かう。ジャニーの部屋の机の後方に歩き出し、エラリーの後ろの隙間を抜ける。それを見てエラリーはくすりと笑うがミンチェンは頬を赤くして顔を赤らめて、つい癖でと話す。ジャニーが死んだ直後にその棚に収まっている資料が大切だからと机の後方の資料棚ごと運び出した事を忘れていたと言うミンチェンに対し、エラリーはなんだってとひどく驚いた。

1階の地図を持ってきてほしいと事務長に伝えれば、事務長直々に持ってきた。このときのエラリーは先程までの鬱屈して不機嫌な顔ではなくやる気満々かつ破棄に満ちた溌剌な顔。何かつぶやきながらエラリーはミンチェンと、図面を持って部屋から南廊下に歩き出す。そして麻酔室の前で止まってミンチェンから鍵束を借りて、手帳にかいたり図面とにらめっこ。そして入口にいる警官の横をすり抜けて控え室に入った。控え室でエラリーは備品を探している。ひきだしのなかを取り出しては確認し、ときには笑顔を見せる。流石にちんぷんかんぷんでわからんと怒るミンチェンに対し、あることを確認していたと話し、犯罪そのものを解明しなければ貴重な証拠になり得なかったと答えた。

そしてエラリーは記者のハーパーに、自分ののぞみを聞いてくれたらとても大きなスクープを渡すと取引し、とあるものを用意してほしいと連絡。そしてこれは誰にも言わずに自分が合図を出すまで公表してはいけないと念押しして。
エラリーはそれから病院に赴き、ルシールを捕まえてニューヨーク市警察署長宛の報告書の為の口述速記を依頼する。ルシールは言われた通りにエラリーの言葉を帳面に書き綴っていくのだった。

ゆきんこ

エラリーが述べた意外な犯人の名前は果たして!?

コラム:聖書の御言葉

今作も聖書(旧約聖書、新約聖書)の御言葉が多数引用されています。とくにサラ・フラーは信心深く、かなりの御言葉を引用しています。ただエラリーも聖書の御言葉を使用していますね。ただ聖書に限らず、ナポレオンの言葉やローマ皇帝の碑文など、知識が必要な言葉も多数使用されています。作者のエラリー・クイーンの頭の良さが伺えます。

ゆきんこ

聖書の御言葉の解釈については私個人の考えも含みます。全部読んで登場人物の関係を知ったうえでもう一度読み返すと、サラの御言葉は全て意味が通ってると私は思います

ありさん

聖書の言葉だらけなのに?

ゆきんこ

うん。サラは事件というよりドールン夫人の負の部分の被害者だから。彼女はわりと間違っていないことを話してるんですよ

ありさん

???

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コラム①:陶器師の畑(マタイの福音書27章)

「微塵もない。こんなことをしてもまったくの無意味だ。とうに息絶えている――ー30分前に死んでいるよ。この部屋に運ばれてきたときはすでに死後硬直が始まっていた」
ジャニーのくぐもった声は、まるで”陶器職人の畑”の死骸の話をしているようかのように感情が欠けていた。

オランダ靴の秘密 P54

該当箇所はマタイの福音書27章の3節~8節。イエスを銀貨30枚で売ったユダが、イエスが死刑になることを知って後悔。彼は銀貨30枚を返してユダヤ祭司長・長老にイエスの解放を求めるも、長老たちは「私たちの知った事か、自分で始末を付けろ」とそっけない対応をする。その対応と己の行動に絶望したユダは銀貨を神殿に投げ捨て自ら首をくくって死んだ。その銀貨を拾ったユダヤの長老達は「この銀貨30枚は血の代償なのでユダヤの神殿の金庫に入れられない」とし、話し合った末、銀貨30枚で陶器師の畑を買って異国人のための墓地にした。そのためこの畑は今でも血の畑と呼ばれている。

上記のエピソードから見るに、陶器職人の畑とは異国人の墓地(血の畑)なので、そこに眠っている死人たちのことを比喩していると思われる。

コラム②:イエスのパン(ヨハネの福音書6章12節)

「しかし先生」エラリーは微笑んだ。「殺人事件の捜査において犯人逮捕より重要なことがないというのは、よくご存じのはずです。ひょっとすると新約聖書にあまり馴染んでいらっしゃらないのでは? 信心深い科学者はほとんどいませんからね! 腐るもののなきように、さきたる余りを集めよ” つまり、ぼくはパンの屑を集めようとしているわけです。そのいくつかをあなたがお持ちだと考えています。お願いしますよ、先生!」

オランダ靴の秘密 P60

該当箇所はヨハネの福音書6章12節でイエスの奇跡エピソードの一つ。イエスが、自分の奇跡を見てついてきた人々にパンを食べさせようと考えたがどうしようかと弟子のピリポを試す発言をなされた。ピリポは一人少しだけのパンを持ったとしても200デナリのパンでは足りないと答える。そして弟子の一人ペテロの兄弟アンドレがイエスに対して、大麦パン5個を魚2匹を持っている子供がいるが、何になろうかと言います。そしてイエスは集まった人々5000人を座らせると、パンを手に感謝の祈りを捧げてから、人々にパンと魚を望むだけ分け与えた。そして十分食べると無駄にならないようにパン切れも全て集めよと弟子達に言う。集めたパン切れは12個の篭をいっぱいにするほどだったというもの。

したがってエラリーは新約聖書の話を出しつつ、新約聖書におけるイエスの有名なエピソードを出して人々が食べたパンを事件そのものに、その残りのパン屑を事件捜査に必要な情報に例えたと考えられる。このエピソードは他の福音書にもあり、たとえばマルコの福音書なら8章、ルカの福音書なら9章13節、マタイの福音書なら14章17節にあるが細部が違っていたりする。

彼らが十分食べたとき、イエスは弟子達に言われた。「一つも無駄にならないように、余ったパン切れを集めなさい」

ヨハネの福音書 6章12節

コラム③:モーセ五書

モアハウスはそっけなく答えた。「みなさんが興味を持ちそうな話があると……。さて、アビーは寛大な心と聡明な頭脳の持ち主でしたが、やはり女性でした。ひどく気まぐれだったんですよ、警視さん……。だから、二週間前に、新しい遺言書を作成したいと言われたときも、ぼくはたいして驚きませんでした」
「こんどはモーセの五書か!」エラリーはうなった。「この事件にはさまざまな分野の専門用語があふれているよ。最初は解剖学、つぎは冶金学、こんどは法律だ……」

オランダ靴の秘密 P145

モーセ五書は旧約聖書の「創世記」「出エジプト記」「レビ記」「民数記」「申命記」を指し、モーセが書いたと言われる最初の書物。

コラム④:サラ・フラーの御言葉1(マルコの福音書7章20~23節・箴言12章10節・マタイ伝6章34節)

フラーが冷ややかに言う。「そうです」
「理由は?」
「あの人は吝嗇家で不信心者でした。貪りは人の心より出でて人を汚すなり。それに暴君でもあった。悪しき者は残忍をもでてその憐れみとす、ってことね。あの人は世間に対して美徳の声でも、家人や使用人には悪の息吹だった。一日の苦労は一日で足れり……」

オランダ靴の秘密 P161

最初の「貪りは人の心より出てて人を汚すなり」はマルコの福音書7章20節より、イエスが弟子からの質問に答えた話の最後のところです。人間の内側から出てくる悪い思考が人間を汚し悪へと導きます。従って神を信じずケチなドールン夫人は、見た目は裕福でも心は貧しく惨めな女だったサラは言いまなおイエスは最初(7章18節)に「あなたたちまで、そんなにも物分かりが悪いのですか」と少々肩を落としていて、イエスと弟子の意思疎通がまだまだ弱いところが伝わります。

吝嗇家(りんしょくか)とは:けちな人。けち。けちんぼう。吝嗇者。引用:コトバンク

イエスはまた言われた。「人から出て来るもの、それが人を汚すのです。内側から、すなわち人の心の中から、悪い考えが出てきます。淫らな行い、盗み、殺人、姦淫、貪欲、悪行、欺き、好色、ねたみ、ののしり、高慢、愚かさで、これらの悪は、みな内側から出て来て、人を汚すのです」

マルコの福音書 7章20節

旧約聖書の箴言(しんげん)はダビデ王の息子ソロモン王の箴言です。箴言を調べると下記の二つの意味がでてきますが今回は②です。次の「悪しき者は残忍をもてでそのあわれみとす」は箴言12章10節です。この12章は正しき者と悪しき者が交互にでてそれぞれの行動を対比し、悪しき者は己の行動によって滅びるとソロモンは謳っています。10節は飼っている家畜への行いについて、正しい人は家畜の命を知っているから大切にするが悪しき人間は憐憫の情を一応は持つが残忍残酷であるというもの。従ってサラはドールン夫人を悪逆非道の暴君とし、自分たち使用人を家畜のような存在と前提したうえで憐れみで残酷に殺されてしまう(=解雇)ようなものだと話します。

箴言(しんげん)とは(引用:goo辞書
①戒めの言葉。教訓意味をもつ短い言葉。格言。「—集」
旧約聖書の中の一書。道徳上の格言や実践的教訓を主な内容とし、英知による格言金言勧告が集められたもの。ソロモンその他の賢人の言葉と伝えられる。知恵の書。

正しき人は、自分の家畜のいのちをしっている。
悪しき者は、そのあわれみさえ残忍である。

箴言12章10節

最後の「一日の苦労は一日で足れり」はマタイの福音書6章34節。実は5章から続くイエスの教えの一部であり、イエスが人々に語る教えは7章27節まで続きます。その中には有名な言葉「求めなさい、そうすれば与えられます。探しなさい、そうすれば見出します。たたきなさい、そうすれば開かれます(7章7節)」も含まれています。サラが行った言葉は、明日のことは心配せず明日に今日のことを持ち込まず、今日の苦労は今日のうちに、という楽観的な考えを述べていると思われます。

ですから、明日のことまで心配しなくてよいのです。明日のことは明日が心配します。苦労はその日その日に十分あります。

マタイの福音書 6章34節

コラム⑤:サラ・フラーの御言葉2(詩篇23篇1節・ヨハネ伝14章6節・詩篇94篇8節)

エラリーは穏やかに微笑んだ。「フラーさん、あなたは神を信じますか」
フラーは目をあげてエラリーを見据えた。「主は我の牧者なり
「わかりました。とはいえ」エラリーは返した。「天のことばから少し離れて答えていただきたい。あなたはいつも神の真理ばかり話すのですか」
われは道なり、真理なり、命なり
「崇高なお考えだ。ご立派ですよ、フラーさん。さて、ドールン夫人を殺したのは誰ですか?」
愚かなる者よ、いずれのときにか賢らん

オランダ靴の秘密 P161~162

最初の「主は我の牧者なり」は、詩篇23章1節に該当。これはイスラエル王ダビデが神に捧げた賛美歌の始まりで、「羊飼い」と訳する書物もあれば「牧者」と約するものもあります(両方とも羊の世話をする存在)。ダビデはサムエル王に見出される前は羊飼いをしていた為、ダビデ=羊飼い(牧者)と称する人もいるのでしょう。サラがエラリーに神を信じるかと聞かれて、敬虔で伝説のイスラエル王ダビデのように、私は神とその言葉を信じて満ち足りていると答えています。

主は私の羊飼い。
私は乏しいことがありません。

詩篇23篇1節

次の「我は道なり、真理なり、命なり」の該当箇所はヨハネの福音書14章6節です。いわゆる最後の晩餐が行われ、イスカリオテのユダが裏切っているとき、イエスが弟子たちに様々な教えを話しているときです。そんな中で「時が来てあなたたちの場所が用意できたらわたしが迎える」というイエスの言葉に、「あなたがどこにいかれるのかわからない、我々はその道を知る方法ができるのか」と聞くトマスに対してイエスが答えた教えです。私が道だ、と。
従ってエラリーに「アナタはここまで聖書の言葉ばかり話すのか」と聞かれたサラが聖書の言葉を信じていれば主が私をこのような恐ろしい世界から迎えに来てくれる。道を示してくれる」と返したと思われます。

イエスは彼らに言われた。「わたしが道であり、真理であり、いのちなのです。私を通してでなければ、だれも父のみもとに行くことはできません。―――

ヨハネの福音書 14章6節

最後の「愚かなる者よ、いずれのときにか賢らん」は詩篇94章8節に該当。詩篇94章は「復讐の神 主よ」から始まっていて、誰が書いたのか不明ですが、普段野人間が抱いている怒りや叫び、悪や不義への怒りを神にぶつける内容です。8節は見えない神を信じる民を嘲笑う人々に対して、彼らが信じる偶像が空虚なモノだと反論する他の詩篇があり、私たちは神を見ることも聞くことも出来ないが、神は私たちを見ておられるというもの。それを踏まえてエラリーの「ドールン夫人を殺したのは誰か」という質問に、「復讐の領分は神が行う」だと返したと思われます。

気づけ、民のうちのまぬけな者どもよ
愚かな者どもよ いつになったら悟るのか

詩篇94篇8節

コラム⑥:サラ・フラーの御言葉3(コリント人への手紙Ⅰ13章7節)

―――「いったいなぜ21年も一緒にいたのか」
フラーの声がしだいに熱を帯びた。「愛は万物を忍ぶ……。わたしは貧乏人で、あの人は孤独な女王だった。習慣は身につくものよ。わたしたちは血のつながりにも劣らぬ強さで結ばれていた」

オランダ靴の秘密 P163

使徒パウロからコリントの教会に当てられた手紙が、コリント人への手紙。そこには、聖書の御言葉で最も有名な「愛は寛容であり、愛は親切です(13章4節)」があります。該当箇所はその愛について説明している部分の一部分で、4節から8節まで続きます。パウロの語る愛は信仰と希望と一緒にいつまでも残るものであり、信仰と希望と愛の3つの中で愛が最も優れていると書かれています。そのため、ドールン夫人と長年いた理由についてサラは信仰に勝る愛でもって彼女の横暴に耐え、忍んでいたと答えます。

すべてを耐え、すべてを信じ、すべてを望み、すべてを忍びます。

コリント人への手紙第一 13章7節

コラム⑦:サラ・フラーとエラリー・クイーンの御言葉4(エゼキエル書18章20節・ヨブ記15章21節・ローマ人への手紙6章23節・エゼキエル書7章9節)

罪を犯せる魂は死ぬべし」フラーは叫んだ。「平安のときに滅ぼす者、これに臨む」声が高くなって悲鳴になる。「アビゲイル、警告したのに! わたしは確かに警告したよ、アビゲイル! 罪の報いは死なり……」
エラリーはおおげさに詠唱した。「汝らは主の汝の撃つなるを知らん……」

オランダ靴の秘密 P164

最初の「罪を犯せる魂は死すべし」はエゼキエル書18章12節に該当。エゼキエル書は預言書で、18章は「次のような主のことばが私にあった」から始まるように、神からエゼキエルに届けられた言葉。直前の17節から心の貧しいものや咎人の話を神が伝えており、19節から悪しき者、正しい者の違いついて神が述べています。したがってサラはドールン夫人が罪を犯した魂=罪人(悪しき者)であるから死ぬのは当然だったが、ドールン夫人の罪は娘のハルダには無関係だと叫んでいます。

罪を犯したたましいが死ぬのであり、子は父の咎について負い目がなく、父も子の咎について負い目がない。正しい人の義はその人の上にあり、悪しき者の悪はその者の上にある

エゼキエル書 18章12節

次の「平安のときに滅ぼす者、これに挑む!」はヨブ記15章21節に該当。ヨブ記はその名の通り「ヨブ」という人間のことを書いたもの。最初に誰よりも誠実に生きて神を信仰するヨブを見て、サタンが神に対して「彼の財産を打たせてほしい、そうすれば彼は神を呪うはずだろう」と話したので、神は「ならばヨブの財産を好きにしてみろ、ただしヨブ自身には手を出すな」と取引したことから始まる、ヨブのお話。

3章から42章6節までヨブの信仰と友人との問答合戦。15章は、(4章に登場しヨブの信仰の姿勢を神から特別に与えられた知恵によって正そうとした)エリファズという友人がヨブに答え、17節から「私はあなたに告げる、私に聞け」とエリファズが先祖には隠されなかった知恵をヨブに話す箇所。19節は先祖だけに与えられた土地と、彼らの土地が他国の攻撃からも守られる祝福を述べ20節以降で神からののろい、日常の苦悩を語っています。したがってサラはドールン夫人が死んだ後、自分は神からのさばきの如く日々の苦悩を受けるだろう今後の自分を述べています。

その耳には恐ろしい音が聞こえ、
平和なときにも荒らす者が彼を襲う

ヨブ記 15章21節

次の「罪の報いは死なり」はローマ人への手紙6章23節に該当。ローマ人への手紙は、使徒パウロがローマにいる全ての聖徒に向けての手紙。聖徒への手紙なので訓戒や生き方の説明が多く、現代でも引用が多い聖書の部分です。6章は「罪」の話で、人は律法ではなく恵みのもとにあるべきだと語ります。ここででてくるバプテスマは洗礼という意味です。パウロは罪とその解放、罪の対価は死であると話します。したがってサラはドールン夫人に何度も何度も話し忠告したがついに届かず、彼女は罪人だから死んだのだと叫びました。

罪の報酬は死です。しかし神の賜物は、私たちの主キリスト・イエスにある永遠のいのちです。

ローマ人への手紙 6章23節

最後の「汝らは主の汝の撃つなるを知らん」はエゼキエル書7章9節に該当。雄弁に聖書の御言葉を引用して語るサラに対し、エラリーが割り込んで反論したところ。エゼキエル書はエレミヤ書、イザヤ書と並んで旧約聖書の三大預言書のひとつ。エゼキエルはバビロン捕囚のときのイスラエルの民の精神的指導者として預言活動を行っている預言者です。彼はバビロン捕囚の時、イスラエルの民に対して悔い改め希望を与える為に神より召命を受けました。エゼキエル書4章以降では神がエゼキエルに伝えた言葉が彼によってジェスチャーで述べられます。口ではなく実演で伝えるエゼキエルですが、それは包囲されるエルサレム(このときはまだ健在だった)やバビロン軍が攻めてくること、北イスラエルと南ユダの咎を負うことを述べています。

7章は神からエゼキエルに伝えられた滅亡の預言。イスラエル国は不滅だと思われていましたが、神に背信した国は神自らが撃たれると、彼は預言します。終末の日は土地を持っていようが何を売買しようが、全て無意味だと。したがってエラリーは、直前のサラの「罪人の報いは死なり」というドールン夫人への言葉に皮肉をぶつけるように「罪人なら神に背信したものとして神自身が関係者ごと罰しにくるだろうか」と話します。無論敬虔なサラはエラリーの言葉に怒りの炎をともしました。

わたしはあわれみをかけない。惜しまない。
忌み嫌うべきことが、あなたの中にあるうちに、
わたしはあなたの行いのとおりに報いる。
このとき、あなたがたは知る。
わたしがあなたがたを打つ主であることを。

エゼキエル書 7章9節

コラム⑧:サラ・フラーの御言葉5(箴言14章9節)

その冷ややかで断固たる声の響きを耳にして、フラーが憤然と振り返った。黒い目に炎が燃えている。「愚かなる者は罪を軽んず」と絶叫した。

オランダ靴の秘密 P165

この「愚かなる者は罪を軽んず」は箴言14章9節に該当。14章は心の愚かなる者や罪人と、心の正しき者、賢い人について対比するように書かれています。したがってサラはエラリーの言葉に反論するように、「あなたは罪の償いをあざ笑う愚かな者、でも神を信じる私には神からの恩寵がある」と己の信仰を傷つけられたことへの怒りを示します。

愚かなる者は罪の償いを嘲る。
心の真っ直ぐな人たちの間には恩寵がある

箴言 14章9節

コラム⑨:サラ・フラーの御言葉6(マタイ伝6章10節)

フラーの視線は揺るがなかった。「御心のおこなわれんことを……」
エラリーは背筋を伸ばして低い声で言った。「聖書のことばを巧みに引用なさいますね……。フラ―さん、なぜドールン夫人はあなたを恐れていたんですか」(ここ傍点)

オランダ靴の秘密 P168

この「御心のおこなわんことを」はマタイの福音書6章10節に該当。5章1節から、イエスの評判を聞いた人々がイエスの近くに集まってきたので、イエスは彼らに向かって説法を開始します。この説法はとても長く重要で7章27節まで続きます。サラが引用した箇所はイエス直々の祈りの言葉のワンフレーズ。「天にいます我らの父よ、(9節)」という言葉を聞いたことがある人は多い筈。したがってサラは自分への質問に話すことはないと、当たり前のように天にいる我らの神に対して祈りを捧げたということでしょうか。

御国が来ますように。
みこころが天で行われるように、
地でも行われますように。

マタイの福音書 6章10節

\ 信仰をもたない人向け/

\ 加藤隆氏作 /

「オランダ靴の秘密」のネタバレ

「犯人当て(フーダニット)」パズルの傑作と呼ばれる本作。ぜひとも一度読んでいただいて綾辻行人氏や法月倫太郎氏が絶賛したエラリーの推理を堪能していただきたいと思います。

「オランダ靴の秘密」の犯人

アビゲイル・ドールン、フランシス・ジャニーを殺害したのはルシール・プライス、そして共犯者にトマス・スワンソン(トマス・ジャニー)。誰だと思うかもしれませんが、ルシールはジャニーの部下の看護師です。アビゲイルはジャニーをとても信頼していたのでその部下であるルシールにもそれなりの信頼を持っていました。ジャニーは助手にしているほどなので信頼も当然。しかしジャニーは息子トマスとルシールが結婚していることは知りませんでした。

なおここの犯人解明のシーンですが、エラリーがルシールをちょうどいいと何気なく捕まえて今から警察に送る書類を作成するから口述速記してほしいと依頼して、事件の内容を話しながら犯人の名前を彼女に書かせました。ここルシールはどんな気持ちだったんだろう。

「オランダ靴の秘密」の犯人の動機

トマスは自分の人生をめちゃくちゃにしたドールン夫人、執刀ミスを報告し解雇を黙認した継父ジャニー、二人への強い怨恨。ルシールは共犯者のトマス・スワンソン(トマス・ジャニー)と結婚しているので、ジャニーに渡されるアビゲイル・ドールンの遺産を手に入れるため。アビゲイル・ドールンの最初の遺言書には、ジャニーに個人と研究の、二つの遺産が振り込まれる予定でした。しかしドールン夫人はいつまで立っても完成しない金食い虫のジャニーの研究に見切りをつけ、研究分の出資資金を削除した新しい遺言書を作成していました。
そのためルシールは最初の遺言書の効力を継続させるため、新しい遺言書が効力を発揮する前にアビゲイルを殺しました。ジャニーの継子のトマスと結婚し証明書を残して、ジャニーを殺してトマスが継承するジャニー分のドールン夫人の遺産にあやかるつもりでした。トマスは恨んでいないと語っていましたが真っ赤な嘘。

証拠の結婚証明書(入籍届)の写しを入手したのは記者のハーパー(最後にエラリーがお願いしていたのは左記の書類を手に入れること)。クイーン警視が何故警察の手を借りないのかとエラリーに尋ねますが警察の痕跡を残したくなかったと弁明してるところが可愛いです。

エラリーが語るアビゲイル・ドールン殺しの時系列

アビゲイル・ドールン殺しの動きです。ここは最初に記載されている病院見取り図を照らし合わせながら読むとおおっとなります。ルシール、何度も何度も練習したんだろうなと思ってしまうほどの無駄のない洗練された動き。

STEP
10時29分:ジャニー(本物)が来客に呼ばれる

ジャニーを呼んだのはルシールの共犯者のトマス・スワンソン。どれだけジャニー本人をひきつけられるかが勝負

STEP
10時30分:ルシール、ジャニー(偽物)に変装する

手術控え室にあるエレベーターの中に入り、あらかじめ用意して隠しておいたジャニー変装一式(白衣、靴、ズック地の白いズボン、帽子、マスク)に着替える。自分の靴はエレベーター内に残して脱いで靴を履く(ここで靴紐が切れていることがわかり医療用粘着テープで応急処置)。エレベーター→東廊下→南廊下→麻酔室(ここで麻酔室にいる、バイヤーズとオーバーマン、カダヒーに目撃させる)→手術控え室に。

※変装してからジャニーと認識させるために足をひきずって歩いている。

STEP
10時34分:ルシール、ドールン夫人を殺害する

ジャニーに変装したまま、手術控室にいる昏睡状態のドールン夫人に近づいて、服の下に隠し持った針金でドールン夫人の首を絞める。

頃合いを見計らって「すぐに準備しますジャニー先生」と叫ぶ(なお本人は消毒室に行ったと証言したがこれは嘘)。研修医のゴールドが手術控え室を覗いたときに見たのは背を向けてドールン夫人にかがみ込んでいていたジャニーに変装中のルシール。そのためゴールドはルシールの姿を認識していない。

STEP
10時38分:ルシール、ジャニーの変装を解く

手術控え室→麻酔室→南廊下→東廊下→エレベーター。エレベーター内でジャニーの変装を脱ぎ、自分の靴を履いてエレベーターの外に出て変装の服を電話室において手術控え室に向かう。

STEP
10時42分:ルシール、控え室に戻る

ジャニーの看護師ルシール・プライスとして手術控室で待機。

目撃者実は・・・
バイヤーズ・オーバーマン・カダヒージャニーの姿を見るがジャニーの声は聞いていない
ゴールドルシールの声を聞くがルシールの姿は見ていない
フランシス・ジャニーの偽物:絞り込み質疑応答

エラリーが靴やズボンから導き出したアビゲイル・ドールン殺しの特徴など、フーダニットの極みの所。

アビゲイル・ドールン殺しの犯人が残した証拠のうち特徴的なものは?

①粘着テープで切れた靴紐を止め、舌革が深く入り込んでいる靴 ②しつけ糸で丈を縫われたズボン

切れた靴紐をつける粘着テープはどこにあった?

病院関係者なら解る専用備品室。オランダ記念病院の医療用器具、備品はすべて専用の収納棚に保管されていて、部外者がわかるような所にとっ散らかって置かれていない。そして備品室は部外者ではわからず入れない箇所にある。

病院内の事件ならば、犯人は医学的知識がある人間?ない人間?

病院内での事件なので医学的知識がある人間。理由は上記の靴のトラブルを対処する時に普通ではまず思い浮かばず手に入らない医療用粘着テープを使用したから。

靴の舌革(シュータン)が爪先の部分まで入り込んでいたのは何故か?

履いている人間の足のサイズが靴のサイズより小さかったから。舌革は結び目の間のあそこ。見つかった靴はサイズ6でcmに換算すると「24cm」で男性の靴のサイズでは最小サイズ。このサイズより小さい足は基本的に女性になるため

サイズ6以下の靴を履く人間は?

①子供(未登場) ②異常なほど小さい男性(未登場) ③中背の女性

何故偽物はズボンをしつけ糸で縫った?

偽物であるルシールにはズボンの丈が長すぎたから、自分の足に合うように縫った

アビゲイル・ドールン殺しの犯人の特徴は?

①女性 ②医学的専門知識がある ③オランダ記念病院と関わりがある

ジャニーの偽物分類偽物に該当するか?
病院と関係がある男性答えはNo 制服でずっと着用しているズボンを履き替える理由がない
病院と関係がない男性答えはNo 制服を着ていないし備品の位置を知らないから
病院と関係がある女性答えはYes 男性用のズボンに履き替えるため
病院と関係がない女性答えはNo スカートを履いているし備品の位置を知らないから
フランシス・ジャニー殺害について

ジャニー殺害で、まずエラリーが悩んだのはドールン殺しと同じ凶器を使用されていたこと。ドールン殺しが綿密に計画された殺人ゆえ、エラリーは犯人が頭の良い狡猾な女だと推測していて悩んでいた。
しかしミンチェンより、事件直後にジャニーの座っている椅子の後ろの棚を動かしたと知り光明が差す(エラリーは棚を移動した後のジャニーの部屋しか知らなかったため)。棚があるが椅子と棚の空間は狭い為、犯人はジャニーの了承を得て自分の後ろの棚に行ったこと、関係者だからジャニーの表情に怯えがなく警戒心がない。したがって犯人は病院関係者で、かつ彼の棚を触る事ができる人間。

ジャニーの棚を触ることができる人物は誰か

①ジャニー(本人) ②ミンチェン(共著) ③ルシール(助手)

ルシール・プライスの特徴は?

①女性 ②医療的専門知識がある ③オランダ記念病院に関わりがある 

ミンチェンは男性のため除外(ずっと側にいたのも大きい)。したがって、アビゲイル・ドールン夫人殺害とフランシス・ジャニー医師殺害の全ての犯人の特徴とぴったり合うのはルシール・プライスのみ

オランダ靴の秘密のまとめ

たしかに傑作と呼ばれるだけの名作だけあって、何度も何度も読むと意味がわかって面白いです。犯人、動機、理由、トリックの解明などなど。エラリーの推理を聞けば「ああ!なるほど」と膝を打ちますが、なにもわからないと暗中摸索状態です。でもどんどん犯人を絞っていくシーン、気持ちいい。

読みやすさ
読みにくい
読みやすい
トリック
解らない
解った
登場人物
俯瞰的
没入感
犯人
見当がついた
つかなかった
動機
被害者に同情
犯人に同情

今回の画像はこちらよりお借りしました

画像クレジットはこちらです

UnsplashMartha Dominguez de Gouveiaが撮影した写真
Image by Julio César Velásquez Mejía from Pixabay
Image by Pexels from Pixabay
Image by Agnieszka from Pixabay
UnsplashAshkan Forouzaniが撮影した写真
Image by Regan from Pixabay

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