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【ネタバレあり】エラリー・クイーン長編「エジプト十字架の謎」を紹介

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海外の古典ミステリー作家で、シャーロック・ホームズとアガサ・クリスティに続き日本人が非常に好むミステリー作家がいます。エラリー・クイーンです。この名前は知らなくても「Yの悲劇」の名前は聞いたことがある人はいるのではないでしょうか。ちなみにエラリー・クイーンはアメリカの作家でフレデリック・ダネイ氏とマンフレット・B・リー氏との合同ペンネーム。日本だと先程の「Yの悲劇」が特に人気なためか、日本向けにアレンジした内容で石坂浩二主演でドラマ化しています。Yの悲劇が日本で高い評価のわりに欧米ではそこまで人気がないのは有名

目次

エジプト十字架の謎のあらすじ

クリスマスの寒村で起きた、丁字路にあるT字形の道標に、首を切断されたT字形の死体がはりつけにされる酸鼻な殺人。半年後、遠く離れた土地で第二の首なし殺人が発生したのを知ったエラリーは、ただちに駆けつけ捜査に当たる。<国名シリーズ>第五弾は、残酷な連続殺人に秘められた驚天動地の真相を、名探偵が入神の推理で解き明かす、本格ミステリの金字塔。 解説:山口雅也

あらすじより

エラリー・クイーンの「国名シリーズ」に出てくる探偵は作者と同名のエラリー・クイーンです。実はエラリー・クイーンはこの国名シリーズを執筆していると同時期に別のペンネーム(バーナビー・ロス)名義で「Yの悲劇」をはじめとした名探偵レーン四部作を書いていました。1932年に国名シリーズ4作目「ギリシア棺の謎」と5作目の「エジプト十字架の謎」、バーナビー・ロス名義の「Xの悲劇」「Yの悲劇」の計4作品の長編を発表しています。すごい。
また、この「エジプト十字架の謎」を参考に横溝正史氏が名作「真珠郎」を執筆したのも有名な話です。

エジプト十字架の謎の登場人物

登場人物作中での活躍
エラリー・クイーン推理小説作家(探偵・特別捜査官)
リチャード・クイーンエラリーの父親。ニューヨーク警視。親馬鹿。
ヴォーン&アイシャムナッソー郡の警視&ナッソー郡の検事
ヤードリーエラリーの恩師教授。古物収集家
アンドルー・ヴァンアロヨ村の小学校校長。最初の被害者。アンドレヤ・ツヴァル。末っ子。
クリングヴァンの召使い。ヴァン死亡後姿を消す。四人目の被害者。
ピートじいさんアロヨ村奥の山小屋の主。最初の事件の発見者。ヴァンの一人二役。
トマス・ブラッド絨毯輸入商社の社長。二人目の被害者。トミスラフ・ツヴァル。次男。
マーガレット・ブラッドトマスの妻。事件当日は娘らと映画を見に行っていた。ロメインと浮気していた。
ヘリーン・ブラッドトマスの義娘。
ジョーナ・リンカントマスの商社支配人。シスコン。
ヘスター・リンカンジョーナの妹。兄の支配から抜け出すためロメインにぞっこんで彼らの宗教の一員になる。しかし愛に敗れて戻って来る。
ストーリングスブラッド家の執事
ヴィクター・テンプルブラッド家の隣人の医師。ヘスターを嫁にしたい。
フォックスブラッド家庭師運転手。元はごろつき出身だが足を洗っている
パーシー・リンブラッド家の隣人。実は指名手配の宝石強盗
エリザベス・リンブラッド家の隣人。実は指名手配の宝石強盗
ホル・アクティ(ストライカー)裸体信仰のカルト宗教の開祖。元は有名なエジプト研究家だが日射病で狂ってしまった。
ポール・ロメインカルト宗教の実質的な運営者。イケメンで腕っぷしも強い。作中で3勝1敗
スティーブン・メガラトマスの会社の共同経営者で船の冒険者。三人目の被害者。ステファン・ツヴァル。長男。
ヴェリヤ・クロサックホル・アクティの元秘書。ヴァンたちに恨みがあり連続殺人事件の容疑者とされる。実は一番最初に殺されている。

エジプト十字架の謎のストーリー

STEP
第一の事件:アンドリュー・ヴァン

ウェストバージニア州のアロヨ村で起きた小学校校長の首なし事件。死体発見者はピートじいさんとオーキンス氏

エラリーがこの事件に興味を持ったときはマスコミや警察が諸々調べていった後で、巡査も辟易していたがエラリーが金を出したことで「もう一回ぐらいならいいか」と喋りだす。被害者のアンドリュー・ヴァンは真面目で品行方正で。教師の鏡と呼ばれた男。街に出ることもなく出不精で隠者のごとき生活を送っていて交流ほぼ皆無。唯一の知り合いはヴァンの召使のクリングだが、彼は事件後行方不明になっている。

検査審問では、証人や警察、医師などが立ち替わり登場。ガソリンスタンド屋が片足を引いた黒髪の青年を話し、ホルアクティが片足をひいた青年をヴェリヤ・クロサックと証言。ただ彼とは途中で別れてしまったため何をしているかわからない。
ここで事件はぱったりと進捗が止まり、動きもなく迷宮入りしてしまう

STEP
第二の事件:トマス・ブラッド

ロングアイランド湾のブラッドウッド荘で起きた絨毯商社トップの首なし事件。死体発見者はフィリップ

それから話が動いたのはアロヨの事件から五ヶ月後。この頃になるとエラリーもアロヨ村の事件を忘れてしまっていた。クイーン親子の旧知の仲のヤードリー教授より、自分の向かい家で凄惨な事件がおきたから来ないか。首がなくてトーテンポールに磔の死体だ、とアロヨ村の事件に相似した事件が起きたと電報を受け、大急ぎで向かう。

衣装や身体的特徴から死体はブラッドウッド荘の主人トマス・ブラッドだと確定。殺害現場は側のあずまやで、中ではチェッカー盤があった。死体をおろして寝かすと、身体的特徴を除いてアロヨ村の事件と似ているとエラリーは思う。ブラッドウッド荘に住む人間や隣人にアリバイを聞いたが、全員アリバイが存在している。被害者のトマスが人払いをするようにブラッドウッド荘から退席させ、誰かとチェッカーをしていた。

ロング絵アイランド湾のケチャム入江のオイスター島には、ホルアクティとその従者のポール・ロメインと彼らの裸体新興宗教に賛同する男女が住んでいた。トマスの会社の総支配人リントンの妹、ヘンリーがロメインの宗教に夢中になりこの島に留まると駄々をこねている。

警察はフォックスが怪しいと踏んで彼に尋問を繰り返すが、彼は必要以上のことは話さなかった。

STEP
被害者の関係

トマスの共同経営者、スティーブン・メガラが冒険から帰還。トマスを狙う相手に心当たりがあるかと聞かれ、言い淀むスティーブン。そしてもう一人の被害者、アンドリュー・ヴァンの名前を聞いてスティーブンはとても驚いた。また「T」の文字にも。スティーブンが確実に知っているとわかったブラッドウッド荘の人間はなにかあるなら話してほしいとヒステリー気味に訴えた。
スティーブンは、トマスを殺した人物はヴェリヤ・クロサックだと言い、最初の事件と二番目の事件の詳細を抑えてほしいと尋ね、殺害現場で発見されたパイプは自分のものだと言い切っている。エラリーが論理的な推理を繰り広げていくうえで、トマスの部屋のグランドピアノに注目する。ピアノを開けて鍵盤を叩くとおかしい音がする箇所があり、トマスの手紙があった。「自分は命を狙われるだけの理由がある。もし私が死んだらアロヨ村の事件をもう一度捜査し、スティーブンに猛スピードでブラッドウッド荘に戻ってこいと連絡し、彼にアンドリュー・ヴァンの死を信じるなと伝えてほしい。私のことを思うならスティーブンの指示を仰いで勝手に動かず、そしてヴァンとスティーブンを保護してほしい。相手は目的のためなら何でも行う偏執狂だ」という内容で、トマスの直筆の手紙だった。

犯人クロサックはなぜこんな手紙を処分せず放置していたのだろうか、と警視や検事は首を傾げる。するとエラリーは「アンドリュー・ヴァンはまだ生きている」「スティーブン・メガラだけがその居場所を知っている」と手紙の要点を伝えた。そしてクロサックはアンドリュー・ヴァンの居場所を知らないからスティーブンに泳がせようと考えた。最初のアロヨ村の殺人のアンドリュー・ヴァンの死体は実はヴァンでない、クロサックは取り違え殺人をしたのだと推理。エラリーの論理的推理が光る中、待ったをかけたのはヴォーン警視。流石にエラリーの推理を後回しにしてでも、警視はスティーブンにトマスやヴァンの関係を尋ねたかった。三人の関係はなにかと尋ねると、スティーブンは「兄弟です」と言い放つ。そして犯行現場に残った「T」は彼らの本当の名字「ツヴァル」の頭文字。この事は本人とクロサック以外知らない。

ではなぜスティーブンがヴァンの居場所と生死を知っているかといえば、彼はヴァンが何年も前からずっとピートじいさんとの一人二役を演じて暮らしていることを知っていたため。そのため死体発見者にピートじいさんの名前がでたことで、スティーブンはヴァンが生きていると確信。(この時点で、アロヨ村の事件は去年のクリスマスにおきた事件と記載)
ピートじいさんもといアンドリュー・ヴァンを保護してブラッドウッド荘に戻ってきて、スティーブンとヴァンは六年ぶりの再開。クロサックとツヴァルの泥沼殺戮の歴史が語られるが、そういった歴史がないアメリカ人の警視たちは眉唾ものだと信じようとしない。彼らがヴェリヤ・クロサックを最後に見たのは彼が10歳のときで、彼はどこまで追いかけてもツヴァル家の人間は殺すと誓っている。ヴァンはアロヨ村でこのまま隠れ住んでいたほうがいいとヴォーン警視に言われ、ヴァンはその通りだとうなづく(なおこれに反対したのがエラリー)。

STEP
泥沼三角関係の中心にいる男・ロメイン

ロメインら裸体新興宗教にどっぷりハマっていた、ヘスターがブラッドウッド荘に戻ってくる。しかしヒステリー気味で、トマスの妻マーガレットに対してブチ切れ爆発暴言ぶっぱ。どうしてあそこまでブチ切れたのか逆に疑問になる警視達に、兄のジョーナは「妹はちょっとヒステリー気味なので何をきいても本気にしないでくれ」という。
一方、裸体新興宗教のロメインは、警察がいるおかげで新しい信者が入ってこない。だからオイスター島から出ていきたいと訴えるが、全員容疑者なのでそれはダメだと警視に却下される。なおジョーナはロメインへの殺意をむき出しにして突進、エラリーが必死に抑えている。
ロメインはトマスが殺された夜、確固たる証人がいれば問題ないかと尋ねる。腕をぐるる回しながら暴れるジョーナをエラリーがもう一回抑えた。ロメインは、夜の十時半から十一時頃、マーガレットとオイスター島で密会していたとぶちまける。それを聞いたジョーナの体から力が抜け、エラリーに「もう大丈夫です離してください。あいつ全部ぶちまけた、好きに話せばいい」という。そしてロメインに挑発されたジョーナはもう一回ロメインを殴るもカウンターを受けて気絶。その仇討ちをヴォーン警視が取ってきた。

警視はマーガレットにロメインとの逢い引きの裏取りをした。お芝居を見に行っていたが、帰りのタクシーにはジョーナとヘンリーしかいなかったと。マーガレットはどうかしていたと己の浅はかさを悔やみ、確かにトマスが殺された夜、彼と会っていた事を白状する。ヘンリー達はマーガレットが隠れて誰かと会った事実に感づいていたが黙っていた。そしてヘスターがマーガレットにぶちきれ暴言を放っていたのは、ロメインと会っていた事や彼に抱いていた紳士的な部分がガラガラと崩れていったから。

STEP
第三の事件:スティーブン・メガラ

ロングアイランド湾のブラッドウッド荘近くのヨット「ヘスター号」で起きた首なし事件。

スティーブンは自分が犯人を銃で迎え撃つと言ってきかず、船内の護衛の警察をすべて退去させたいと提案。これにはスティーブン以外の全員が反対。ヴォーン警視も監視はこのまま、明日改めて相談すると宥めて一旦引き上げた。このときのスティーブンの判断をエラリーは「馬鹿なやつ」と言っている。翌日、スティーブンの首なし磔死体が発見。紐の結び目はトマスと一緒なので同一犯の可能性が高い。一緒にいる船長は頭を鈍器で殴られて気絶。警察はヨット周辺を警備していた。直前にテンプル医師に診察を受けてヘルニアと診断され、その痕が残っているのでスティーヴンと判明。

ヴァンとスティーブンが別れてから二週間後にスティーブンが殺された。エラリーは、この二週間内にクロサックがヴァンの居場所を知り、最早スティーブンを生かしておく理由がないと踏んだからではとヤードリーと推測(もしくは殺す前にスティーブンに吐かせたか)。このままではヴァンの命が危ないと、エラリーはまずアロヨ村の巡査にピートじいさんを最優先で保護するよう電報を打ち、ヴォーン警視に連絡を取るが警視は大慌てで出ていった後だった。外は大雨で、エラリーは飛行機をチャーターするも悪天候で無理、列車も信用できないという。ヤードリー邸からレインコートを借りて愛車デューセンバークを走らせた。

STEP
第四の事件:ピートじいさん(アンドリュー・ヴァン)

ウェストバージニア州アロヨ村の山奥のアンドリュー・ヴァン(ピートじいさん)の山小屋で起きた首なし事件。発見者は役場の管理人(おそらく)

スティーブン殺害後、クロサックはヴァンの命を狙うだろうと考えたエラリーはニューヨーク~ダウンタウン~ホランド・トンネル~ニュージャージー州~ハリスバーグへと愛車をかっ飛ばす。ホテルで一夜過ごしてまたかっ飛ばしてウェストバージニア州のアロヨ村にたどり着く。役場の管理人の話によれば巡査は二日前から村長と大型休暇を取っていて不在。エラリーが送った電報は管理人が受け取って巡査の机の上においたので、意味がなかった。管理人の静止を振り切り、エラリーは山小屋に向かうもその凄惨な有り様に落胆して戻って来る。

管理人はエラリーに、「あんたはクイーンさんか?」と尋ねると、彼はヤードリーから手紙を預かっていると話しそれを渡した。なんで早く渡してくれなかったと管理人に100%エラリーが悪い八つ当たりをするも、手紙を読む。「エラリーが出ていった後、ヤードリーは悪天候が落ち着いたことで個人パイロットの飛行機に乗せてもらって先回りに成功した(警視達はリン夫妻の件で出かけてしまい、テンブル医師はヘスターを追ってニューヨークに向かった)」が飛行機の中で書いた手紙。「巡査は留守。おそらくエラリーの書いた電報は読まれてない。最悪のケースが想像される。この近辺で片足が不自由な男の目撃がある。人相は不明だが鞄を持っている。彼をKとする。アロヨ村からイエロークリークまで渡り、ヒッチハイクでオハイオ州のスチューベンヴィルまで逃げたらしいので、そこのホテルまで待っている」とこの役場で書いた追記がある。なおヤードリーがこの手紙を書いたのは、エラリーが到着するほんの数時間前だった(そしてヤードリーは山小屋に入っていない)。エラリーはヤードリーの手紙に追記を書くと、管理人にヴォーン警視とアイシャ厶検事という人物が来たらこの手紙を渡してほしいと駄賃とともに託して愛車を走らせる。

一方、リン夫妻を捕まえてきたヴォーン警視達は、部下のビルからヤードリーやエラリーの手紙を受取る。最悪の状況を考えながら飛行機に乗ってアロヨ村に向かう。彼らが到着したのはエラリーが出ていった後だった。管理人は警視たちに手紙を渡し、一体何が起こっているのか聞いたが無視された。二人は山小屋に向かった。

山奥に住むピートじいさん(アンドリュー・ヴァン)の山小屋。足跡は犯人と、エラリーが残したものでふたつ。犯人はこの事件でかなりの証拠を残していた。足跡がやたら深いこと、使用した包帯などは犯人が使用していること(=被害者に包帯がない)。そして薬棚から取り出されたヨードチンキ。
ある程度現場を確認したあと、アイシャ厶検事は同郡検事のクラミットに電話してしばらくこの四番目の事件を伏せてくれるよう依頼した。二人はヒッチハイクでエラリーたちがいるスチューベンヴィルホテルに向かった。

STEP
クイーン大捜査線

エラリー、ヤードリー、ヴォーン&アイシャ厶の時間差での大捕物が開始。自動車、急行列車、飛行機も使用された四つの州にまたがる900kmの捜査。アロヨ村からスチューベンヴィルにたどり着いたエラリーは目的のホテルに向かいフロントに尋ねる。するとフロントはクイーン様ですねと、ヤードリーから預かっていた手紙を渡す。その内容は「犯人Kらしき人相の男は真夜中にこのホテルに泊まり、今朝七時半にハイヤーで出ていった。足を引きずっている様子は見られなかったが、手首に包帯が巻かれていた。追跡を恐れている様子は全くなかった。ゼーンズヴィルに向かうと言っていたので追跡する、フロントからKの人相を聞いておくと良い。クラレンドン・ホテルで落ち合おう」というもの。エラリーはゼーンズヴィルの警察署に電話をかけ、状況を伝えてクラレンドン・ホテルへ爆走する。

クラレンドン・ホテルにはゼーンズヴィルの署長がいて、犯人Kとヤードリーの足取りを追跡してくれていた。犯人Kはゼーンズヴィルではなくコロンバス方面に向かっていた。ヤードリーも急いで追いかけ、コロンバスのセネカ・ホテルに伝言を渡すと連絡がきていたのでエラリーは風の如きスピードで向かった。セネカ・ホテルで受け取ったヤードリーの手紙には「犯人Kは故意に煙に巻いたつもりではないだろう。彼はインディアナポリス行きの列車に乗った。時間のロスを取り戻すため飛行機で向かう」と書いてある。インディアナポリス警察にも話が通っているが人相が抽象的で把握が難しい。またヤードリーはインディアナポリス空港に伝言を残していて、すでに飛行機を一機チャーターしている。エラリーは飛行機に向かった。インディアナポリス空港で「犯人Kはシカゴに向かった。タッチの差でのがしてしまった。もし犯人Kが乗った飛行機より早くシカゴにつくことができたら捕まえられるだろう」と。エラリーはシカゴの警察に電話し許可をもぎとり飛行機を動かしてシカゴに着く。そこにはヤードリー他シカゴ警察とエラリーの父リチャードがいた。

シカゴのホテルに犯人Kが泊まっていることがわかった。エラリーはヴォーン警視とアイシャ厶検事が追いかけているので彼らと合流してから犯人を追い詰めるという。ここまでずっと一緒に捜査しているのに最後だけのけ者はひどいから。犯人Kはインディアナポリス在中のジョン・ポリスと名乗り、643号室に泊まっている。袋のネズミだが、明日サンフランシスコ行きのチケットを取ってほしいと連絡が入ったので、逮捕に入る。ボーイに協力してもらい、ルームサービスですと連絡するとそんなものは頼んでいないと寝起きのジョン・チェイスがドアを明けて姿を見せる。その瞬間私服警官が二人がかりで彼を取り押さえた。
この一連の事件に関わった人間はひどく驚いた。取り押さえられた手首に包帯を巻いた犯人Kことジョン・チェイスの正体は死んでいるはずのアンドリュー・ヴァンなのだから。

STEP
タイトル回収

今回の連続殺人事件の犯人のトリック諸々推理を解明したエラリーに、「思い出したぞ」とリチャード警視が口を挟む。犯人を追い詰めるため、アロヨ村からシカゴまでの大捕物をしたが、乗り回した乗り物代やチャーターした飛行機代などの支払いをどうするのかと。その費用はクイーン家の銀行口座の半分を使ってしまうほどだ。
エラリーは、ナッソー郡に必要経費として請求するか、エラリー自身が自腹を切るか、そして最後はこの事件を己の戒め部分の「エジプト十字架」を利用したタイトルの本にして出版し、印税(=読者の皆さん)で支払うかの3つの選択肢を提案。どうみても最後しかないよね。

登場人物がかなり多く、作中でも数年かけて解決した事件のためか、二転三転する展開が魅力です。二人目の被害者「トマス・ブラッド」事件の話がとにかく長く、警察も精一杯事件解決に動いているけど展開が動かない、という硬直状態です。これはメタ的にスティーブンが合流してトマスの手紙に気が付かないとフラグが立たない、という感じでしょうか
ぶっちゃけていえばホル・アクティたち周辺の話は全部いらないかなーと読んでいて思ったんですが、最初の時点でホル・アクティの話を狂信者の戯言と思わず耳に傾けれていれば、ここまで煩雑にならなかったのではと思いました。ホル・アクティの助手にヴェリヤ・クロサックがいて、彼が手紙をもらってアロヨ村の近辺についてから姿を消したという事実にたどり着くのが、かなり後なので。終盤の大捕物劇はヤードリー教授すごいなと思いました。

全部読んだ上にやっと起承転結のおおやけな設計がわかる、というのがエラリー・クイーンの作品のイメージなのですが、今作はより顕著でした。終盤のピートじいさんの山小屋で発見されたヨードチンキがきっかけで狡猾な犯人の設計が崩れて転がり落ちていく様はみていて爽快なのですが、まさかのアイテムが突破口なので「エジプト十字架の謎」を「ヨードチンキの推理」と呼ぶファンもいるみたいですね。ほかにもローマ帽子の謎がちょっと絡んでくるなど、解決した事件がでてくるとファンとしては嬉しい。

小ネタ①:ハマンのはりつけ

エラリー・クイーンはユダヤ系アメリカ人のためか、作中に聖書の一句や小ネタが登場します。これらは事件解決に一切関係ありませんが、ご紹介程度に。

「しかし事件に論理がどう通用するのかわかるものなら、ハマンのようにはりつけにされても文句は言わないよ。最初から最後まで矛盾と不都合のごった煮だったからな」

エジプト十字架の謎の謎 P468

作中ではヤードリー教授がエラリーにぶつくさと言いながら事件の真相を尋ねるところ。ヤードリー教授がいった「ハマンのようにはりつけにされても」というのは、旧約聖書エステル記7章10節「こうしてハマンは、モルデカイのために準備しておいた柱にかけられた。それで王の憤りは収まった」を引用したものです。

なんのこっちゃという話ですが、これはアケメネス朝ペルシアのクセルクセス王の時代、彼の王妃の一人にユダヤ人のエステル、そして王の数多くいる部下の一人にアガク人の宰相ハマン、ユダヤ人のエステルの養父モルデカイがいました。モルデカイは王やハマンに膝をつかなかったため、ハマンは自分を侮辱していると酷く激怒し。モルデカイを殺すだけでなく彼の民族も殺そうと考え、クセルクセス王に諫言して許可をもらいユダヤ人を殺してしまいます。それを知ったモルデカイはショックを受け大声で泣きわめきながら王宮に向かい、エステルに進言します。ハマンの悪行を知ったエステルはクセルクセス王都の酒宴にハマンを呼ぶよう提案。何も知らないハマンは自分たち一族が昇進すると上機嫌です。それを聞いたハマンの妻ゼレシュや友人は、柱(高さ2mぐらい)を用意しこれにモルデカイをかけさせる(=死刑執行)とクセルクセス王に話してから宴会に行ってくださいといい、ハマンはそれを受け入れて庭に柱を用意します。
そしてクセルクセス王の酒宴の最中、エステルは、苦難を受け根絶やしにされ奴隷として売られている、私たちの民族を殺そうとする人がいる。その人はハマンです、とハマンがいる前で宣言します。王は酒宴の席を立ち、ハマンはエステルに命乞いをするもそれは無意味。ブチ切れているクセルクセス王に、宦官の一人が「ハマンがモルデカイを殺すために用意した高さ2mぐらいの柱があります」と提案すると王は「彼をそれにかけよ」と言いはなちます。
したがってハマンは、仇敵を殺すために準備した道具で殺されるという因果応報な顛末で死ぬのです。そしてハマンだけでなく彼の息子10人も処刑されました。聖書だとかけられたとしか記載がありませんが当時ははりつけが一般的な処刑方法だったようです。

ユダヤ人のお祭り「ブリム祭」の贈り物(ミシュローアハ・マノート)のひとつに「ハマンタッシェン/ハマンタッシュ」という伝統的な三角形の練りこみクッキーがあります。この名前の由来が上記のハマンがつけていた三角形の帽子と言われていますが、現在では別の説が有力です。またイスラエルではハマンタッシェンの事を「オズネイ・ハマン」と呼びます。ヘブライ語で「ハマンの耳」という意味です。

小ネタ②:預言者と故郷

「これは迫害である!」きいきいと甲高く叫んだ。「預言者はおのが郷のほかにては尊ばれるべきである! 我、ホルアクティは福音を説く権利を要求す――」

エジプト十字架の謎 P332

作中ではトマス・ブラッド近くの島に住む裸体新興宗教のホルアクティとポール・ロメインが、オイスター島から出ていきたいと警察に訴えたところ、流石に駄目だと拒絶されたことでホルアクティが政府の迫害だと新約聖書マタイの福音書13章57節『こうして彼らはイエスにつまづいた。しかしイエスは彼らに言われた。「預言者が敬われないのは、自分の郷里、家族の間だけです」』を引用して反論した箇所です。

イエスが弟子たちに例え話を用いて教えた後、彼は生まれ故郷でも教えを広めます。ですが故郷の人々は、イエスは一体どこでこれらの知恵・奇跡を起こす力を取得したのだろうと首を傾げます。彼は大工ヨセフの息子で、弟や妹も自分たちは知っている。彼女たちはこの故郷に住んでいるし一体どこでこれらの知恵を学んだのだろう、となまじイエスを知っているために、イエスの言葉に疑念を持ってしまいます。そしてイエスは「預言者が敬われないのは自分を知っている故郷だけだ」と呟き、彼らの前で奇跡を起こしませんでした。
したがってホルアクティは「預言者は自分を知る故郷では敬われない=故郷以外では預言者は敬われるべき」だから我々を布教させろと提案してきたのです。………たぶん。

小ネタ③:ゴリアテと称される男・ロメイン

リンカンはうめいた。「私は―――私には。力がなくて。私は臆病じゃない。でも、あの男は―――あいつはゴリアテだ」
「じゃあ私はゴリアテをぶっ倒したダヴィデってわけですな」ヴォーン警視はこぶしの裂傷をなめた。

エジプト十字架の謎 P338

作中では上記の島から出たい話が不毛に終わった後、ロメインに挑発されたリンカンがロメインを殴るもカウンターを受けて気絶。ロメインも情報を持っていると踏み且つ彼の横暴な振る舞いが身に余るということで、ヴォーン警視がリンカンの仇を取る一騎打ちでロメインをノックアウトして帰った矢先のやりとりです。

ゴリアテもダヴィデ(ダビデ)も「FateGramdOrder」をプレイしているマスターなら馴染みある名前だと思います。二人は旧約聖書第一サムエル記17節に登場します。イスラエル王サムエルの時代、ユダヤ人エッサイの末息子にダビデという竪琴が上手な羊飼いがいました。サムエルの息子サウルはわざわいの霊に取り憑かれていて、家来の進言で竪琴が上手な家来に琴を惹かせてわざわいの霊を追いやろうと考え、ダビデをそばに置きます。彼を気に入ったサウルは道具持ちにします。ダビデの竪琴によってわざわいの霊は消え、サウルも元気を回復します。
イスラエルはペリシテ人と戦争の備えをしていて、谷を挟んで陣を構えます。するとペリシテ人の陣営から一人の強力な代表戦士が現れて「一騎打ちをして俺に勝ったら俺たちペリシテ人は奴隷になる、俺に負けたらお前たちイスラエル人は奴隷になれ」といいイスラエル人を挑発します。この戦士こそ、ゴリアテです。ゴリアテのこの言葉にイスラエル側は怯え緊張状態が走ります。40日以上経過した後、ゴリアテと戦うと名乗りを上げたのはダビデでした。サムエルはダビデに鎧などを着せますが、ダビデは重くて動けないと脱ぎ捨てます。そして川から石五つを拾い、杖を持ってゴリアテと相対します。ゴリアテは鎧も来ていないダビデを犬かと誹りますが、ダビデは「これは主の戦いだ」と宣言。素早く走り石袋の中から石を出してぶん投げてゴリアテの額にめり込むように命中、彼はうつ伏せに倒れます。ダビデはペリシテ人のところから剣を奪ってゴリアテの首を打ち取るのです。FateGramdOrderのダビデの宝具もゴリアテ戦がモチーフの一つでしょう。

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エジプト十字架の謎のネタバレ

ここからは「エジプト十字架の謎」のネタバレを含みます。ご注意ください。

エジプト十字架の謎の犯人

アンドリュー・ヴァン(アンドレヤ・ツヴァル)、トマス・ブラッド(トミスラフ・ツヴァル)、スティーブン・メガラ(ステファン・ツヴァル)、クリングを殺した、この連続殺人事件の犯人はアンドリュー・ヴァンです。

最初に発見された「アンドリュー・ヴァン」の死体は、元々ヴァンが手紙で仕掛けて呼び寄せたヴェリヤ・クロサックです。クロサックは長年の怨敵を殺せると思い彼のところに行きましたが、用意周到なヴァンに殺されて首を切られてアンドリュー・ヴァンの死体に仕立てられました。そして最後に発見された「アンドリュー・ヴァン」の死体は行方不明のクリングです。もし解決しなかった場合、警察はすでに死んでいるクロサックの足跡を追い続ける可能性がありました。

わざわざ首を切ったのは犯人(ヴァン)と被害者(クロサック)の入れ替わりの為ですが、トマスとスティーブンはぶっちゃけ首を切る必要がありませんでした(入れ替わり相手がいない)。ですがクロサックの猟奇的な思考や復讐者を世間に強調するため、ヴァンは首を切って十字架に仕立てないといけなかったのです。今と違ってクレーンや重機もない時代。ヴァンはいつかくるこの日のために鍛えていたのでしょうか。

エジプト十字架の謎の犯人の動機

「ぼくはヴァンの動機なんて知りませんでしたし、いまこの瞬間も知りません。知らなくて何か問題がありますか? 狂人の動機なんて―――あやふやで雲をつかむようなものだし、変質者の動機と同じくらい、これだとはっきり具体的にいうのは難しいものですよ。――(以下続く)」

エジプト十字架の謎の謎 P492

動機は、トマスについては恋人を彼に盗られたから。スティーブンについては3人で盗ったクロサック家の財宝も元々のツヴァル家の遺産も、スティーブンが管理して末っ子の自分には何も与えられなかったから(厳格な相続ルールがあった)。復讐者のクロサックは除外しても、クリングを殺す理由は自分の身代わりになってもらう……ただこれだけのために召使に採用された男です。

スティーブン、トマス、ヴァンの三人はモンテネグロ共和国の由緒ある家柄の人間です。彼ら兄弟のツヴァル家は先祖代々憎み合い殺しあったクロサック家という恨み骨髄に徹する存在がいました。3兄弟でクロサック家を急襲して財宝を盗みクロサック家の人間を殺害した結果、クロサック家はヴェリヤとその母親のみ。漆身呑炭の恨み辛みを残したヴェリヤからの報復を恐れた3兄弟は話し合い(一族も彼ら3人のみだった)、ツヴァル家の一切合切を処分してアメリカで全く別の人間として生活することになります。そのためエラリーたちがツヴァル家やクロサック家の情報を集めるのに苦労したわけです。

「ヨードチンキの推理」とは

「中身はヨードチンキだ」ヴォーン警視が言った。「奴め、怪我をしてそこの薬戸棚からこいつを取ってきたんですよ。テーブルに置いたのをうっかり落っとこしたか、いらいらして床に投げ捨てたかしたんでしょう。このガラスは分厚いから割れなかったんだ」

エジプト十字架の謎 P444

エラリーは椅子の背にぐったりもたれかかった。「もうしょうがないなあ。僕から見ると、こんなにはっきりしているのに。犯人が床に残していったヨードチンキの瓶の、あの瓶そのものが持つふたつの特徴はなんでしたか。その一。それは半透明の青いガラス瓶である。その二。それはラベルが貼られていない。
では犯人はどうやって、その瓶の中身がヨードチンキであると知ったのでしょうか」(この行全部傍点)

エジプト十字架の謎 P474

最後の被害者、アンドリュー・ヴァン(本当はクリング)の死体が見つかった現場(山小屋)でヴォーン警視が発見した消毒液。上記のように現場に残ったヨードチンキが証拠となり、ここから事件が解明されていくため、ミステリーマニアのなかで「エジプト十字架の謎」はヨードチンキの推理とも呼ばれています。薬棚にはラベルが貼られていないヨードチンキ以外にも名前が貼られた消毒液が多数転がっている。小屋の内部を知らない犯人なら、怪我の手当をする場合、ラベルがある消毒液を使うだろう。それらを使わずわざわざヨードチンキを使ったのは何故か、犯人が小屋の内部をよく知っている人物だから。そしてこの小屋は村や外部と隔絶しているので犯人はピートじいさん=アンドリュー・ヴァン以外考えられないだろう、という推察です。

エラリー自身も、この山小屋で証拠を発見するまでは真犯人ヴァンの犯罪トリックの上で踊らされて「T=ツヴァル」と思ってヴェリヤ・クロサックを犯人だと思っていました。

エジプト十字架の謎のまとめ

国名シリーズ第五作目の「エジプト十字架の謎」は、エジプトというタイトルがあるのに実は本編に全然関わっていないどころか、エラリーの間違えた推理を象徴するもので、読み終えたときは「こんな意味だったの?」とびっくりしました。ただ「ホル・アクティ」「エジプト十字架(タウ)」など遊戯王が好きな人なら「おっ」となる言葉がちらほらあって嬉しかった。ロメインは自重しろ

エラリー・クイーンの作品は、海外の古典ミステリーのためか、様々な出版社から発売されています。私は創元推理文庫からの出版で、中村有希氏翻訳のシリーズが好きです。中身は同じ展開でも翻訳家の手腕次第でどこまでも読みやすさの相性がでるという事実に、アガサ・クリスティの本を読んで実感しました。

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今回も背景画像はこちらよりお借りしました

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