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【ネタバレあり】横溝正史・長編「悪魔の手毬唄」を紹介

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「悪魔の手毬唄」は金田一耕助シリーズ作品のなかでも屈指の人気を誇る作品です。文字揺れがあり「×鞠○毬」「×歌○唄」です。人気の理由の一つは市川崑監督・石坂浩二主演の映画「悪魔の手毬唄」の素晴らしさがありますが、そのなかで磯川警部を演じた若山富三郎氏の熱演が大きいと感じます。特にラストの別れのシーンは絶品です。あのシーンで救われた人多そう。

悪魔の手毬唄
目次

悪魔の手毬唄のあらすじ

岡山と兵庫の県境、四方を山に囲まれた鬼首村(おにこべむら)。たまたまここを訪れた金田一耕助は、村に昔から伝わる手毬唄の歌詞どおりに、死体が異様な構図をとらされた殺人事件に遭遇した。現場に残された不思議な暗号は何を指しているのか。事件の真相を探るうちに、二十年前に迷宮入りになった事件が妖しく浮かび上がる。戦慄のメロディが予告する連続異常殺人に、稀代の名探偵・金田一耕助が挑戦する、本格推理小説の白眉。

悪魔の手毬唄 あらすじ
登場人物作中の役割
金田一耕助私立探偵。
磯川警部岡山県警。23年前の事件も担当していた
青池リカ亀の湯の女将で未亡人。二人の子供を育てている。かつて寄席にいた。
青池歌名雄リカの息子でモテ男(村のロミオ)。
青池里子リカの娘で身体に痣が残っている。4人目の被害者。
青池源治郎(=恩田幾三)亀の湯の主人で23年前に変死している。恩田幾三は一人二役。
別所春江錠前屋(鍛冶屋)の娘で恩田幾三との間に千恵子を産む
別所千恵子春江の娘で歌手「大空ゆかり」
別所辰蔵春江の兄。仁礼家のぶどう酒工場長。
仁礼文子秤屋(仁礼嘉平)の娘。歌名雄に惚れている。3番目の被害者。恩田と咲枝(叔母)の娘。
仁礼嘉平仁礼家当主。秤屋。鬼首村の主権者。
仁礼咲枝嘉平の妹。恩田との間に文子を産む
由良泰子枡屋(由良卯太郎)の娘。歌名雄の恋人。2番目の被害者。恩田と敦子の不義の子。
由良卯太郎由良家先代当主。枡屋。故人。恩田の誘いにのって大損害をだし悲嘆に暮れて死亡。それに加えて妻がその恩田との間に子供を作ったのも含まれる
由良敦子卯太郎の妻。一時期嘉平と関係があった。恩田との間に泰子を産む。
由良五百子由良家先々代の妻。手毬唄の真実を知る数少ない人物
日下部是哉千恵子のマネージャー。春江のことが好きでプロポーズまでしている
多々羅放庵庄屋の末裔で「お庄屋」。最初の被害者。20年前の真実や恩田の落とし胤の現状を知る。
恩田幾三(=青池源治郎)卯太郎にモール業の仲介業をもちかけた男。世界恐慌で失敗し、逃げだそうとするが殺害される。鬼首村では詐欺師で通っている。泰子・文子・千恵子・歌名雄・里子の実の父親。
古谷一行さん主演作品でも傑作の一つ

始まりは鬼首村の手毬唄の話から始まります。加藤シゲアキさん版では4つめの手毬唄があった!というオチなのでそんな設定あるんかと突っ込まれたのは懐かしい話。手毬唄は三、五、七なんですが
そして磯川警部から休暇に来ないかと誘われて金田一は鬼首村にやってきます。なおこの鬼首村は夜歩くでも登場しますが、きっと大きい村なんだろう。そこで鬼首村の集落から少し離れた場所にある「亀の湯」に泊まっていました。そこにはリカという美人の寡婦女将と彼女の息子の歌名雄と娘の里子がいました。里子は体に火傷の痣を持っていてめったに人前に出てきません。
鬼首村は仁礼家と由良家の二大勢力があり、それぞれの当主に娘(泰子・文子)がいます。当主が自分の娘と歌名雄との結婚を望んでいてバチバチにぶつかっています。仁礼家の当主・仁礼嘉平は亀の湯に入り、静養に来ていた金田一と遭遇します。金田一の情報を知っていた嘉平は、磯川警部はまだ二十三年前の事件を諦めて折らず再捜査の為に呼んだのでは無いかと言いますが、何も知らない金田一はきょとんとします。嘉平から当時の話を聞いたとき、彼は由良家の当主の卯太郎が死に、未亡人となった敦子と関係を持ったと話しました。嘉平は少し照れくさそうに話すと当時のことも含めてきてくれれば話しますよと言って湯船から上がります。この関係がオミットされている映画版では、二人がバチバチにぶつかってますね。

8月7日。亀の湯で出会った放庵から、別れた妻の一人から復縁の手紙がきたので代筆してほしいと言われたので彼が住む庵に向かいます。そこは亀の湯からほど遠くない場所でした。可愛らしい婦人用の封筒に入った手紙を照れくさそうに金田一に見せて読んでもらいます。放庵は右手が震えてかけないので代筆の誰かを探していたが、ちょうど金田一がいたのでお願いしたいとのこと。断る理由も無い金田一は放庵の返事の手紙を書いて渡します。
8月10日に用事で総社という村に出かけていた金田一は峠を越えときに不思議な老婆と出会います。手ぬぐいを姉様かぶりして風呂敷を背負い、杖で身体を支えながら歩いています。そして老婆は「放庵の妻のおりんです、放庵の所に戻って参りました、可愛がってください」と言いながら峠を歩いて行きます。金田一はその老婆を見て、あれが手紙をくれた放庵の妻かと納得したのち、峠を戻っていきます。その夜は大雷雨で、金田一も旅籠に駆け込みます。その旅籠は鬼首村のおいとさんが嫁にきていた模様。大雨で停電になったり雷が鳴ったりでなかなか眠れなかった金田一が翌日11日に薄らボケながら起きた時、花火が打ち上がっていました。大人気歌手大空ゆかりがやってきたからです。

死んだはずの老婆・おりん

今や飛ぶ鳥を落とす勢いの歌手「大空ゆかり」は鬼首村出身で本名は別所千恵子といいます。その母親・別所春江はかつてこの村で詐欺を働いた殺人犯恩田幾三の愛人で彼との間に千恵子を生んでいました。ときどきおいとがいる旅籠で密会していた。鬼首村に壊滅的なダメージを与えた恩田の関係者のためか、村八分扱いにされながら彼女は千恵子を両親の娘として入籍して働いたのち、彼女を引き取って育てました。おいとはその際、恩田は罪作りな男で春江以外にも女がいたと漏らしますが、その相手は誰か解りません。ゆかり(千恵子)は故郷の鬼首村に両親のための「ゆかり御殿」を建てています。
千恵子が8月11日にやってくるということで若者の興奮は止まりません。若者達は二十三年前の事件を知らないため、村から有名人が出たと大はしゃぎです。

金田一はおいとが仁礼家と由良家の家族構成を聞きます。由良家は隠居の五百子刀自、姑の敦子、亡くなった卯太郎との子供の敏郎と妻栄子、妹の泰子の5人家族。卯太郎に恩田を紹介したのは敦子のようで、それで大損をしたためか敦子は五百子刀自に頭が上がらない様子。仁礼家は当主の嘉平に、長男の直平と妻の路子で彼ら夫婦には子供が3人。次男の勝平と末娘の文子で8人家族です。嘉平には娘が二人がいるが嫁に行っている。新聞で泰子たちの事が書いてあったりおいとからそれぞれの家族構成を聞いた金田一は、彼女に泰子、文子、千恵子、里子の4人の少女が全員同い年なのはどうも違和感があると話します。それを聞いたおいとの表情は解りませんでしたが、声はかすれていました。もうこの時点で動機が出てるんだよね。
なお金田一は放庵の話が出るので、今度彼女の奥さんのおりんさんが返ってくるんですよ。僕代筆したんですと笑顔で語ればおいとは驚愕しそれは本当かと声を震わせます。何故そんなに怯えているのか理由を話そうとしたとき、歌名雄率いる青年団が駆け込んできます。千恵子がこの旅籠に泊まるという情報をキャッチして興奮気味だからです。春江から村の役場に連絡があったらしく、彼女が自分を覚えていたことにおいとは再び驚き、別所母子に対する反感も薄れます。千恵子に興奮しっぱなしの青年団は国賓だ、やれ村賓だと大盛り上がり。青年団の中心は勝平、歌名雄、五郎(春江の兄辰蔵の息子)、文子、泰子の5人。それぞれと金田一は挨拶します。文子と泰子は美人。そして歌名雄が磯川警部が来ていると金田一に伝えたので、亀の湯に戻ろうと旅籠から重い腰を上げて戻ります。お会計を済ませるとき、何故おりんさんの事で驚いたのかと聞けば、おりんさんはこの春に亡くなっていて、今年が初盆だからでした。

お庄屋殺し

仙人峠でおりんと名乗る老婆と出会った事を思い出しながら、金田一はおいとからおりんについて聞き取ります。おりんはおいとの遠縁の女性で、大げんかで別れたため自分達もご機嫌取りで大変でした。おりんの事を口にしないので相当ご立腹なんだとおいとは彼女の名前を出すのを控えます。そして放庵は義理堅い男性なので死亡通知がくれば悔やみ状を出すし葬式に出向くはずなので、それすら無いと言うことはよほど腹に据えかねたのだろうとおいとは語ります。役所から死亡通知も行っている筈なので、それでも知らないうえにウキウキしていたのはおかしいとおいとが思い、金田一の提案と一緒に放庵の家に向かいます。
放庵の庵は村から少し外れた場所にあり、庵の側に人食い沼という古い沼があります。いわゆる底なし沼というやつです。まだ空も明るい夕暮れ、二人は放庵の庵に着きます。声をかけても返事がないので中に入れば、おいとが悲鳴を上げて立ち止まります。みかん箱をひっくり返した机に料理と銚子。二人分あったことから誰かと酒盛りしていたのは確実ですが、藁や蒲団にてんてんと吐血や吐瀉の痕が残っています。台所には水亀があり、草花がありました。触ろうとする金田一をおいとが止めます。それは毒草で、この辺りでは「お庄屋殺し」と呼ばれていると。そして放庵の姿はドコにも見当たりませんでした。

鬼首村は二つのビッグニュースに見舞われています。大空ゆかりの帰還と老婆おりんと放庵の事件。青年団は放庵の事は気にもとめません。彼らの中で放庵は死んだ人間、世捨て人扱いだからです。中年以上の村人は放庵夫婦のおりんが死んだことも知ってるため気味が悪いと不思議がっています。昨夜から放庵の姿が見えず、裏の人食い沼を攫うから人を貸せと青年団に依頼が来ますが、千恵子帰還に浮かれて迎える段取りも付けている勝平たちは首を横に振ります。千恵子と放庵を取るなら千恵子を取るに決まってると。ただし彼らの行動は全て間違っていて――――この時点で放庵を探していれば、この後の凄惨な事件が起きなかっただろうと言えます(勝平が絶対ショックの余り死ぬ)放庵の失踪と千恵子の帰還は密接に繋がっていたからです。

磯川警部は警察の格好ではなく土建屋の監督のような格好のまま、放庵の庵にやってきました。金田一からおりんの話を聞いた磯川警部は、放庵の食事の相手はおりんだろうかと悩みます。現場の確認のため二人は追い出されて沼の側にいますが、村を駆け巡ったニュースのため野次馬が相当駆けつけています。庵に足跡があるためおりんがやってきたのは確実ですが彼女が背負っていた風呂敷らしき者が無く、また先日の大雨で痕跡が全て流されてしまっているとのことです。流れとしては、おりんが帰ってきて放庵と語り合った。おりんはお庄屋殺しで放庵を毒殺した。放庵は吐血して死んだ。――――――という筋書きですが、何故血の痕を処理しなかったのか、放庵の遺体はどこにいったのかなど謎が残ります。お庄屋殺しが乗っていた水瓶の中には山椒魚があり、おいとは8月5日に放庵の家を訪れた時は無かったと言います。(おいとは定期的に放庵の様子を見に来ている)これらの金田一やおいとの話は磯川警部が亀の湯にいたために警察に信用された模様です。また放庵の生活費がどこから流れてきているか、おいとは知らないと話します。
遺留品の中にはおりんからの手紙がありました。その手紙は話した内容で金田一は磯川警部から預かると封筒を見て、消印に細工がされていることに気がつきます。すなわちこのおりんからの手紙は昭和30年代ではなく20年代に投函されたものだというのです。

磯川警部がいたことで今回の放庵の事件は単なる世捨て人の失踪では無く、昭和七年の凄惨な事件に繋がりがあるのでは無いかと認識され、亀の湯の共同部屋に臨時の捜査本部が設立されました。事件の担当は立花警部補という若手の刑事で、整ったのは8月12日頃です。立花警部補は獄門島や八つ墓村など凄惨な事件を解決した名探偵に敬意を称する一方で、それがうだつの上がらない男性というちぐはぐさにチャレンジ精神を刺激されています。金田一が事件を観察して手帳に細かく書いているのも知っていて、その手帳を見せてもらえば箇条書きで今回のお庄屋殺しの事件の事が書かれていました。コレを見ればどこから手を付けるべきか光明が見えてくると磯川警部は話します。

8月13日。立花警部補から青年団に、人食い沼をさらって放庵を探すよう手伝って欲しいと正式に依頼が来ました。青年団と消防が協力して沼を攫いましたが結果は失敗。青年団のやる気のなさも大いにあり得ます。彼らにとって脂の無い老人を探すよりも、今をときめくグラマー・ガールの大空ゆかりの側にいたいに決まってる。一方で、吐瀉物にはお庄屋殺しに含まれてた毒物が検出され、おりんこと栗林おりんは神戸で死んでいる(死亡届)のも確認されました。リカによれば放庵に仕送りをしていたのは甥っ子の吉田順吉で昭和二十八年まで続いていたそうです。ただ二十八年以降の仕送りがわからずじまい。放庵の周囲をもう一度洗う必要がありそうだと立花警部補たちは思います。

枡で量って漏斗で飲んで

その一方で大空ゆかりを迎える青年団の盆踊りの準備も着々と進み、13日の夕暮れに始まるとのこと。浴衣姿に着替えてビールを飲んでいる金田一と磯川警部は覗きに行こうかと外に出向きます。盆踊りの場所に着けば、櫓の上で歌う大空ゆかりを見ようと、人がごった返しており彼女の姿を見ることが出来ません。
磯川警部は周囲を見渡し、少し離れた場所で見つめる女性が、リカの娘で歌名雄の妹の里子、彼女の隣にいる女性がお幹という亀の湯の女中だと言います。彼女は夏だというのに頭巾を被り肌を見せないようにしています。彼女は身体の半分にやけどがあるというのを思い出します。五郎や歌名雄が里子の姿を見て駆け寄りもっと近づけば良いのに、といいます。そして勝平たちは泰子の姿を見ていないかと二人に尋ねます。大空ゆかりの後に泰子と文子の出番なのに泰子の姿が見当たらない。お幹は勝平達に泰子が老婆に連れられて林の奥に行くのを見たと言います。そこに磯川警部と金田一が合流し、できる限り優しく訊ねます。泰子に声をかけなかった理由は里子が隠れようと言ったから木に隠れてやり過ごしたとお幹は言います。磯川警部は言葉を選びながら勝平たちに手分けして探しつつ由良家に泰子が戻っていないか確認してほしい。もし戻っていなかったら警察に声をかけてくれと。磯川警部の予感は当たります。
盆踊りが終わった後、青年団たち総出で泰子を探しましたが、その夜泰子の姿は見つかりませんでした。彼女は8月14日の朝、死体となって発見されますが、発見されたとき彼女は手毬唄のように「枡で量って漏斗で飲んで」いました。

泰子が発見されたのは腰掛けの滝という清水の滝。発見者は歌名雄と五郎で、二人は夜通し捜して見つからず、滝に寄ったところに朝日にキラキラしている何かを見て、五郎がそれが泰子だと解り、狂ったように歌名雄を呼んだのです。滝の岩に三升枡があって滝の水を受け止め、その水が泰子の口にくわえられた漏斗に向かって流れていっている、奇妙な姿でした。しかも泰子は溺死では無く絞殺されていて、これは死んだ後に施されたものです。金田一が報告を聞いて磯川警部と滝に向かったときには相当の野次馬。立花警部補はこんなことをして何かのまじないなのかと怒り浸透ですが、金田一の中にかつての事件が浮かびます。そう、獄門島――――――三人の娘が松尾芭蕉の俳句に見立てられて殺されていった凄惨な事件、きっと磯川警部も思い出しているに違いない。
金田一は枡や漏斗に不思議な文様が書かれていると歌名雄に訊ねます。それに答えたのは勝平で、あれは自分の家のマークで、屋号は「秤屋(はかりや)」。曲尺と分銅を混ぜたマークは、仁礼家全ての道具についていると勝平は答えます。また勝平の話ではぶどう酒を作っていて、戦前戦後は売れたけど酒が豊富になった今は酸っぱくて飲めたものではないと売れなくなってしまった。そのため今は細々とぶどう酒を造り、工場の多くは閉鎖して放置状態なので持ち出そうと思えば持ち出せると金田一達に伝えます。

大勢の人だかりを掻き分けてやってきたのは仁礼嘉平と五郎の父親の別所辰蔵、本多医師の3人でした。嘉平に対し金田一はあの有様を見て外国のとある小説を思い出していた、この地域にはあのような拷問があったのかと訊ねます。その小説はコナン・ドイルの「炉辺物語」で、巻頭収録の「革の漏斗」にはルイ14世時代のフランスの拷問に、罪人を寝かせて漏斗を咥えさせて上から水を流し込み自白を強要させるという事が書かれていて、まさにそれだと金田一は思ったのです。しかし嘉平はそんな話しは聞いた事が無いと首を横に振りますが、そういった話しなら放庵が研究していて詳しかったはずだと答えます。
横にいた辰蔵がおかしな事を目撃したと金田一達に話します。昨日(13日)の夕方、辰蔵がこの道を通って工場に向かうときに滝の水を飲んだが、その時には漏斗などは置かれていなかった。工場の葡萄酒を盗み呑みしてこの道を使って戻ってくるとき喉が渇いたのでまた滝の水を飲んだ。腰掛け岩に何か見えたので触ってみると枡と漏斗があった。なお村から桜に向かう道は先日の大雨で土砂崩れになって使用できない。夜8時半頃に見つけたその枡と漏斗を、辰蔵は持って帰ったとけろりと語りました。

泰子の母親の敦子と、兄の敏郎が人混みを掻き分けてやってきます。敦子は嘉平にあなたが泰子を殺したんでしょう、あなたは泰子を邪魔に思っていたから、と食ってかかりますが、嘉平はそんなことはないときっぱり否定。それを聞いて敦子は嘉平に謝罪すると、敏郎に村の皆に言って泰子をあそこから引っ張り上げてもらおうと話します。話が終わり、立花警部補から村の青年団に依頼して泰子を滝から引き上げようと依頼。その時にいち早く動いたのは歌名雄で、彼は滝の中に入っていくと漏斗をマスの中に入れて泰子の死体を抱き上げて歩きます。泰子の死体を放庵の庵からもってきたトタンの上にのせますが、歌名雄の目つきは尋常ではなく、ギラギラと怒りに燃えています。
金田一が辰蔵の話の続きを促すと、持って帰ってきた漏斗と枡は確かに家にある。ならば犯人はまた持ってきたのだろう。辰蔵が先日ブドウ畑によるとそこにきらりとガラスの漏斗を持った人影が見えた。それは黒くて判別がつかなかったが確かに漏斗だったと辰蔵は言います。そこに案内してもらう道中、金田一は敦子が嘉平は泰子を疎んじて殺したのでは無いか、という内容が気になると聞けば辰蔵は歌名雄の事だろうと言います。田舎では秘密は守られにくい。歌名雄はあの通りのイケメンなので村の娘たちが惚れている。村一番の美人は泰子で、彼女も惚れているし歌名雄も満更ではない。由良家と青池家で話がまとまっていたところに横やりを入れたのが仁礼家。仁礼家にも同い年の美人の文子という娘がいて、彼女を歌名雄の嫁にもらってくれないかとリカに交渉し始めたからということです(なお文子は歌名雄の事が好き)。ブドウ畑のある十字路に案内されると、その道の一つが亀の湯の裏門に繋がっていることに気づきます(逆方向にすすむと桜という部落に)。ココでは何も解らないので今度はぶどう酒工場に向かいました。

ぶどう酒工場で酸っぱい酒の洗礼を浴びると、辰蔵は妹の春江母子の話をしました。彼は春江母子にコンプレックスを持っている模様。昭和七年の恩田の詐欺事件以来、過敏になっている千恵子にマネージャーの日下部の甘言に乗っていつまでも投資し続けるのはいけないと辰蔵はいいます。事件で殺された亀の湯の青池源治郎は辰蔵より6つ上で小学校をでてすぐ神戸に方向に出たのでほとんど顔も覚えていない。ただ神戸で活弁士をやっていて、そこそこ女子供にもてていた。トーキーの台頭で活弁士は廃業に追いやられてしまったが、源治郎は彼は青柳史郎と呼ばれていた……と辰蔵は言います。工場を見ればガラスが割れて鍵が外されており、いつでも侵入が可能だったことが窺えます。

磯川警部の話では、今から二十三年前にこの村に殺人事件がおき、担当は自分だったといいます。現場はここからの離れの場所で、被害者はこの亀の湯の主人の青池源治郎、犯人は恩田幾三です。ただ恩田幾三の姿がいくら探してもわからず、被疑者不明で片付けられましたが磯川警部はずっとこの事件を追っていて犯人と被害者が逆なのではと思っていたそうです。そのため亀の湯に定期的に足を運び、情報がないか探っていました。そしてあまりにも都合がいいため、青柳源治郎は活弁士で映画関係者、そしてマネージャーの日下部是哉も映画関係者。だから青柳源治郎=日下部是哉ではないかと磯川警部は考えているのです。

里子

辰蔵と一緒に腰掛けの滝まで戻ってくると泰子の死体はなく、代わりにお幹と里子の取り調べが開始されていました。里子はきめ細かい肌を持つ美女であるが赤あざが半身を覆っており、普段はそれを恥じて頭巾や手袋で覆っています。昨日は頭巾や手袋で身体を覆っていましたが、今朝の里子は自分を襲う運命に抗うように、頭巾と手袋をかなぐり捨てて立花警部補たちの前に立っています。二人が出たのは昨日の夜8時15分頃。金田一たちが出た8時頃だったので、片付けしてすぐだったと思われます(見送りもリカだけだったので)

二人が泰子と老婆を見かけたのは桜のお大師から少しいった竹藪付近。里子は人に会いたくないとお幹と竹藪に隠れました。泰子たちは桜の大師の方に向かっていき、老婆に引っ張られるというよりも泰子が老婆をせき立てているようにも見えた。老婆の顔は見えなかった。ただ「お庄屋さんはどこ」の単語が聞こえたと里子が話します。放庵の事件は聞いていたが、まさかあの老婆がそうだとは思わなかったとお幹は話し、里子も歌名雄から話を聞いた程度です。もし知っていたら泰子を止めていた、兄さんに申し訳ないと里子は涙を零しながら話します。歌名雄は泰子が好きで泰子も歌名雄が好き、両思いで嫁にもらう話しがついていたからです。
本多医師より泰子の検死結果が届きます。死因は絞殺で、死後12時間以上経過しているので逆算すると8月13日夜9時頃に殺害されたといえます。ちなみに昭和7年の事件の検屍をしたのは本多医師の父親のよう。

亀の湯で食事をしながら、リカに歌名雄たちの様子を聞きます。歌名雄は泰子のことにかかりっきりで肩を落としてそれどころではないといい、母親から見てもあの落ち込みようはと心配しています。また敦子が嘉平に聞いた事は村中の噂となり、もちろん否定はされていますがその可能性は否めないと。リカの話しに寄れば泰子と歌名雄の縁談はほぼ決まっていたのですが、そこに仁礼家が文子を連れて乗り込んだ。親としてはバックボーンを考えると仁礼家に傾いてしまい里子の事もしっかり面倒を見ると言われたためリカも歌名雄も懊悩している状態です。

弁士とトーキー

トーキー: talkie)は、映像と音声が同期した映画のこと。サイレント映画(無声映画)の対義語として「トーキー映画」と呼ばれることもあるが冗語である。無声映画の対義語としては「発声映画」と呼ばれる。

トーキー - Wikipedia

リカは金田一たちが解らないことは解るはずがないといいます。そこに金田一がにこにこと旦那の源治郎が弁士をしていた事に興味を持って訊ねます。昭和7年なら自分は20歳で神戸の下宿でゴロゴロしていた時期。弁士の人達が失職してたニュースを聞いていたと話せば、リカが「モロッコ」の映画をみたとき、もう弁士はあかんと夫婦で確信したそうです。モロッコはトーキー初期の名作。ちょうど歌名雄が生まれて源治郎が主任弁士に昇格してさあこれからだという時だったため、落胆は凄まじく田舎に帰るしか無かった模様です。ただ仕事が仕事なので今更百姓仕事は出来ず、源治郎はリカと歌名雄をおいて満州に旅立って稼いでくると言う話しが持ち上がっていたとのこと。二人は昭和7年にしては珍しい自由結婚のため、青池の両親が肩身を狭くしていたとリカはいいます。リカは寄席にでて女道楽という数人で三味線を弾いて歌を歌う商売をしていました。

8月15日。泥のように眠った金田一が起きたのは5時。同部屋の磯川警部の姿が無く、お幹に訊ねれば2時頃に警察がやってきて泰子の解剖のために向かったといいます。そのため彼はほぼ徹夜です。寝てくれ。金田一が起きれば本多医師の手術室まで来て欲しいと言付けを残し。泰子の通夜も行うため、歌名雄の姿も無く、里子も泰子の所に向かった方が良いかなと言っているため、亀の湯にはお幹一人だけが残されます。不安がる彼女を宥めながら、自転車を借りて本多医師のクリニックに向かいます。自転車に乗っているとき、確かに徒歩より早いと感じました。
5時半頃にクリニックに着けば泰子の兄の敏郎が座り磯川警部と話していました。数度言葉を交わす後、敏郎が泰子の部屋からこんな者を見つけたと半紙を見せます。

あなたのお父さんのお亡くなりになったときの秘密について知りたいと思ったら、今夜9時、桜のお大師さんの裏側においで下さい。重大な秘密を教えてあげます。
泰子さんへ          放庵より

敏郎たちの父親・由良卯太郎は昭和10年に心臓脚気で亡くなっています。注射を何本も打って悲鳴を上げる凄まじい末路でした。金田一に自分の父親の死に方に何か疑問があるのかと聞かれて敏郎はそんな秘密を残すような死に方ではないし考えたことも無かったと話します。そして敏郎は敦子より、きてくれたら食事を出しますと伝言を残して戻っていきます。
解剖が終わり、泰子の死体が運ばれていきます。大先生――――本多医師の父親は昭和7年の事件も担当し、いま話題になった卯太郎のカルテを書いた人間でした。心臓脚気に間違いは無いし、由良家は心臓が弱い家系だろうと推測。泰子に送られた手紙を見れば、「これは放庵が書いた字なのか」と首を傾げます。元々右手が弱っているので左手で書いた方が早いだろうと。

父なし児(ててなしご)①

金田一たちが由良家についたときは8時頃。通夜にきた村民でごった返していました。大部屋で飲み食いする村民を迎えています。離れには由良家の女傑・五百子が住む離れがあったり。通夜席には敦子と、敏郎夫婦、敏郎の妹夫婦、五百子が座っていました。
磯川警部は五百子に挨拶すれば誰だったかと返されますが、やはり記憶力は確かなようですぐに思い出します。同時に磯川警部がちょくちょく亀の湯に足を運んでいることも知っている模様。金田一も紹介され、獄門島や八つ墓村を解決した名探偵だから泰子を殺した犯人もすぐに見つけるだろうと発破をかけられます。

お庄屋殺しの話しから、五百子と放庵が長い付き合いになっていて、五百子が昔にはこんな手毬唄があったと歌い始めます。その最初を歌い始めたとき、五百子のひい孫が大空ゆかりがきたよ!と興奮しながらやってきて手毬唄を打ち切らせます。ここで最後まで聞いていれば、この後の事件を止められた可能性もあるだけに、このひい孫は戦犯の一人でしょう。あとこのタイミングで来た千恵子。いやほんとここで聞いてれば文子は助けられたはず。(里子は身代わりなので怪しい)

お通夜の席に現れたのは、文子と里子と千恵子(ゆかり)の3人の美女と千恵子の母親の春江。それぞれが注目を浴びる女性でした。なかでも村民から奇異の目で見られてる里子が頭巾や手袋を捨ててありのままの姿で登場したことに、いっそう驚きを隠せないのは母親のリカでした。焼香を終えた文子は針のむしろに座る状態で下座に生きたかったのですが千恵子の側に座りました。里子も焼香を終えて二人の側に座りますが、泰然とした面持ちです。酔った辰蔵が春江に絡み、通夜の席で千恵子に歌わせばどうかと言いますが春江はTPOを考えて首を横に振ります。真剣な顔と声で歌名雄が千恵子に対して、泰子も君のファンだったからどうか歌って欲しいと頭を下げれば千恵子も断れず、喉の準備ができたら歌いますと了承します。

一方、食事が用意されて別室に案内された金田一と磯川警部。敦子が相手をしつつ、今朝の嘉平に問いかけた質問で自分が蔑まれていることを恥じつつ、どうしてあんなことを言ったのか。そしてどうして歌名雄の嫁候補に文子が台頭し、リカは迷っているのかと二人に話します。文子の持参金は多いだろうし里子も面倒見てくれるが村中の笑いものになる――――――文子は実は「父(てて)なし児」であり、そのことは村の皆は殆ど知っている。文子は嘉平の娘ではないと。

  1.  父親のはっきりしない子。私生児
  2.  父に死別した子。また、孤児
父無子(ててなしご)――コトバンク

ゆかりのシャンソンが流れます。文子たち三人が来ていることを知らなかった敦子は驚き、歌名雄が頼んで歌ってもらったと聞いた敦子は涙を流します。どうして自分の娘の泰子だけがこんな無惨な事になったのかと悔し泣き。一通り泣いたあと、金田一が文子が父なし児という話をもう少し聞かせて欲しい、警部が質問するから敦子はそれに答えて欲しいと提案します。

文子は嘉平の細君が不貞を働いて生まれた子供か

答えはNO そもそも文子は嘉平夫婦の娘ではない

誰の娘か

嘉平の妹・咲枝の娘。今は鳥取に嫁に行っている

父親は誰か

放庵の見解では父親は詐欺師・恩田幾三だろう

放庵の話しに寄れば、神戸に出向いた汽車のなかで恩田と咲枝が一緒に乗るのを見かけた。また神戸で二人で並んで歩いているのを見かけた。恩田は詐欺師だから口八丁をうまくお上りさんな咲枝を転がすのも朝飯前ではないかと敦子は聞いたそうです。そしてそのことはおそらく嘉平も知っていると敦子は話します。嘉平も自分の妹を手込めにした恩田幾三の正体が気になるのでしょう。最初に亀の湯で出会ったときに当時の事件を蒸し返して欲しそうな口ぶりだったのはこのためです。詐欺師なのにそれ以上のことは解らない、春江に千恵子を、咲枝に文子を孕ませて産ませたこと以外は……。
枡と漏斗の見立てに思い当たる節があるかと金田一に聞かれ、敦子は外からの嫁なのでわからない。こういった土着の風習なら放庵や五百子が詳しいと答えます。ここで五百子に聞いていれば……!!

それから半時間後の10時頃、千恵子が建てたゆかり御殿で春江と日下部と金田一達は話します。日下部は春江と結婚したく法的に拘束力も無いので可能。千恵子もそれを推奨していますが、春江に踏ん切りが付かないのは千恵子の父親の恩田幾三の存在。彼が生きていて目の前に現れたときの憐憫が痼りとなっているとのことです。そのため恩田幾三のことヲ知りたく、彼について知っている放庵が生きているうちに戻ってきました。この時点で青池史郎と日下部の同一人物説は否定され、磯川警部は内心ショックを受けます。
恩田との話を聞いているうちの夜12時頃、勝平と五郎がゆかり御殿に駆け込んできます。なんでも2時間前の夜10時に別れた文子の姿が見当たらないとことです。デジャブ。彼女を最後に見かけたのは里子で、文子は確かに仁礼家の中に入ってたのを見たとのこと。それを聞いた金田一達はすくっと立ち上がります。夜通し探した文子は、翌朝の16日、無惨な姿で発見されました。

大判小判を秤にかけて

文子の死体を発見したのは辰蔵でした。二日連続徹夜の捜索作業のため、非常に苛立って疲れた彼は捜査隊から抜け出してぶどう酒工場で酸っぱい酒を飲みました。呑んでいるときキラキラと光るものが見える、それに近寄れば喪服姿の文子が横たわって縊られていました。立花警部補も徹夜続きのため、苛立ちがすごく彼が向かったときには野次馬でごった返していましたがそれを追いやり辰蔵だけを残しました。
文子の帯には竿秤が差し込まれていて縁起物の繭玉が秤に乗り、繭玉にちりばめられた小判が載っているというもの。泰子の死体同様、何かに見立てられて殺害されていますがわかりませんでした。そして勝平と歌名雄が大喧嘩。敦子が嘉平にぶつけた言葉を真に受けて文子を殺したんだと罵詈雑言をぶつけ、歌名雄も文子は父なし児だと言い返しますがこの喧嘩に終止符をつけたのは嘉平の言葉。勝平を叱ると同時に、歌名雄にも釘を刺します。文子の遺体に刺さっていた繭玉は仁礼家の神棚から盗まれており、竿秤も仁礼家のマークが付いていました。

検屍に寄れば文子の死亡推定時刻は昨夜15日の夜12時頃。夜10時に通夜の席から出て里子が家に入るのを見送っているが、家人の誰も気づいてはいなかったらしい。仁礼家の多くは由良家の通夜に、使用人は別棟だったからです。
さすがに徹夜続きで頭が回らないので磯川警部は寝ます。それから半日後、放庵の甥っ子吉田良吉に聞き取りをした内容が帰ってきて、仕送りはしていないと突っぱねたそうです。順吉と違い良吉は放庵を嫌っていて何度も仕送りの連絡が来たが本当に手を焼いてたとのこと。午後4時頃、由良家の出棺に参加した金田一達に、敦子から五百子からお話ししたいことがあると呼び出されました。警察も参列し五百子は毬を取り出すと、それを叩きながら歌い始めます。

鬼首村手毬唄

うウちのうウらのせんざいにイ
すずめが三匹とオまってエ
一羽のすずめのいうことにゃア
おらが在所の庄屋の甚兵衛
陣屋の殿さんにたのまれてエ
娘さがしに願かけたア
伊勢へななたび熊野へみたび
吉備津様へは月まいり
娘よったがおしゃべり庄屋
あっちこっちでおしゃべり過ぎて
お庄屋ころしで寝かされたア
       寝かされたア

悪魔の手毬唄 P316~317

どうかなと話す五百子の表情は、80年以上という長い月日を生きていた、老女の邪知と意地悪さが混ぜ込んだ顔で、呆けて聞いている金田一たちの無知をあざ笑っているかのようです。ただ一人嘉平だけが、枡や漏斗がなんとかした続きがあるような、と言えば五百子はニコニコして毬を突いて続きを歌います。

うウちのうウらのせんざいにイ
すずめが三匹とオまってエ
二番目のすずめのいうことにゃァ
おらが在所の陣屋の殿さん
狩好き酒好き女好きイ
わけて好きなが女でごオざる
女たれがよい枡屋のむゥすめ
枡屋器量よしじゃがうわばみむゥすめ
枡ではかって漏斗で飲オんで
目がないちにちさアけェびイたり
それでも足らぬとて返されたア
         返された

悪魔の手毬唄 P318~P319

うウちのうウらのせんざいにイ
すずめが三匹とオまってエ
三番目のすずめのいうことにゃァ
おらが在所の陣屋の殿さん
狩好き酒好き女好きイ
わけて好きなが女でごオざる
女たれがよい秤屋のむゥすめ
秤屋器量をよしじゃが爪長むゥすめ
大判小判を秤にかァけて
日なし勘定に夜も日もくウらし
寝るまもないとて返されたア
        返された
ちょっと一貫貸しまアしイたア

悪魔の手毬唄 P320

五百子が歌い終わったとき、その場にいた全員は凍り付きます。枡屋、秤屋、枡で量って漏斗で飲んで、大判小判を秤にかけて―――――泰子と文子の遺体に施された見立ての意味が生きてくるからです。もう一度聞いてもらうとき静かでした。終わった後、皆がみんな五百子に質問を投げかけるので代表者として金田一が質問することになりました。

今回の事件はこの手毬唄に則って行われていると考えているのか

それはわからない。事件の容貌を聞いてこんな歌があった事を思い出して聞かせたまで

この手毬唄を覚えているのはどれくらいの世代か

嘉平の世代でなんとか覚えている人がいるぐらい。他の地方の手毬唄が有名だった

何故この手毬唄を覚えていたのか

数年前に放庵(お庄屋)がやってきて根掘り葉掘り聞いてきたので

何故放庵は手毬唄を聴いてきたのか

雑誌に載せるため。その雑誌に手毬唄の一考が載ったらしく二人で活字が小さくて見えないなあと話していた

最後の寝かされた、返されたというのは

殺したという意味。暴君殿様が美女を見つけてはいたぶって殺してしまう風刺

文子も亡くなったため、由良家の出棺の後は仁礼家の通夜です。通夜に行く前に金田一と磯川警部は相乗り自転車で放庵の庵に向かいます。映画の相乗りシーン、むっちゃ好き。好き。放庵の家は幾度となく捜索されていますが、雑誌は見つかりませんでした。金田一は手毬唄というのは得てして奇数――――三、五、七で作られているのが普通。五百子が語ってくれた手毬唄ではすずめが二匹(むすめ)しか登場しておらず、本来はもう一匹のすずめがあるはずだと磯川警部にいます。そしてこの村では殆どが屋号を持っているので、手毬唄の屋号に即した家の娘が狙われるのではないかと金田一は推理します。そしてこういう見立て殺人をやる犯人は几帳面な性格で、枡屋のむすめと秤屋のむすめで成功しているため、その通りに行う思考を持っています。だから五百子は敢えてこれから起こる最後の歌を意図的に唄わなかった、五百子に一杯食わされたと磯川警部が怒りますが仕方ない。

父なし児(ててなしご)②

磯川警部は仁礼家の通夜を早めに引き上げて千恵子達の所に話を聞きに行きたいといいますが、金田一は通夜にはちゃんと出たいと話します。文子の実母の咲枝が来ている可能性が高いからです。通夜に向かえば、嘉平が二人を探していたとのこと。別室、嘉平の案内で一人の女性と対面します。生前文子の母と名乗られなかった女性、咲枝です。会って早々、咲枝は号泣しました。不憫な文子の敵を取って欲しいと堅く念じます。
咲枝は嘉平の年の離れた末妹で、頭が良く女学校もトップの成績だったので、嘉平のすぐ下の妹が神戸に嫁いでいるので、彼女に咲枝を預けて本人は女学校に勉強しに出向いた。しかし上京するおぼこを狙う色魔はいるもので、咲枝も毒牙にひっかかり、身ごもってしまったというものです。父親は断として口を割りませんでした。仕方なく世間対を取り繕って子供を産んだはいいが、田舎は狭いということですぐに嘉平の子供では亡い、父なし児だと広まってしまった。

敦子が文子の父親が恩田だと言っていたと磯川警部たちから聞いた聞いた嘉平は、いつか放庵から聞いた事があると泰子の父親が恩田だと暴露します。文子と泰子は――――――母親が違う、異母姉妹なのです。そして千恵子も恩田の娘なので三人は異母の関係。コレをばらすのは別に当てつけでもなく、放庵の話しでは由良家の戸籍を見れば敏郎やその妹の房子は全員年子、8年後に泰子が生まれています。泰子は兄弟に似ない、美貌の持ち主。恩田の関係を知っている放庵は敦子と恩田に関係があったと嘉平にいつか話しました。

咲枝が文子の父親は恩田であると話した後に、犯人と被害者の恩田と源治郎のうち、犯人がこうも見つからないのはおかしい。そして恩田と源治郎は似ているのかと言われればみな首を傾げます。モニタージュで造った指名手配もそのまま。当時、犯人が恩田ではなく源治郎という説を主張した磯川警部ですが、写真が無かっただけに覆す事が出来なかったと答えると、人気弁士なのだから写真の一つや二つあってもおかしくないだろうと金田一が答えます。源治郎の両親は昔気質な人で息子がちゃらけた職業に就いていることを恥じており、写真も全て処分したといいます。源治郎も亀の湯に引き上げる際に弁士時代の写真を全て焼き捨てたという話しです。
ちなみに辰蔵が喋っていたので皆源治郎の職業を知っていたかと思われたのですが実際はその逆。源治郎の両親は物堅い人間のため外聞を悪く思い、息子が映画の弁士という職業を秘密にしていました。嘉平も含めた鬼首村の村民が源治郎の職業と彼の人気っぷりを知ったのは源治郎が死んだ後のことでした。

別れる最後、金田一は咲枝に恩田の身体的特徴は無いかと訊ねれば性的交渉は数回しかないのでほとんど覚えていない。春江なら知っているだろうと答えます。ゆかり御殿で春江に恩田の身体的特徴を尋ねれば、恩田は両方の中指が通常の男性より長く、足袋が破れて困っているといつか話していたと春江は言います。それを聞いた磯川警部は立ち上がり、昭和7年の事件の死体の足指がそんな指だったようなと話します。この地域は土葬ですがその死体は変死体だし醜聞だろうからといち早く火葬にしてしまったといいます。
話を聞いた金田一は、これから神戸に向かうから自転車を借りると磯川警部にいいます。ついて行こうと言う磯川警部に対し、次に狙われるのは千恵子だろうから彼女の身辺を警戒して欲しいといいます。金田一は、手毬唄の続きは「錠前やのむすめ」だろうからと言って。

ゆきんこ

このあとも事件は続きます。「錠前やのむすめ」……別所千恵子(=大空ゆかり)は果たしてどうなるのでしょうか

悪魔の手毬唄のネタバレ

市川崑監督の映画でほぼ全て説明されます。3人の女性と3人の少女。原作は映画よりもう10歳ぐらい年上の年齢設定なんですが、役者さんの関係もあるから仕方ない

自殺した犯人が飛び込んだ沼を浚い犯人を引き上げる青年団。しかし自分の恋人や妹を殺された歌名雄の怒りは凄まじく、ここで犯人を待つといいます。金田一は別の場所に行くよう促しますが、歌名雄はてこでも動きません。そして犯人が沼から上がったと報告があり、青年団も泥を拭きます。そしてその犯人の顔に驚きを隠せませんでした。怒りに燃える歌名雄も同様で、その顔に絶叫します。

悪魔の手毬唄の犯人

多々羅放庵・仁礼文子・由良泰子・青池里子を殺害したのは青池リカです。二十三年前に恩田幾三(=青池源治郎)を殺害したのも青池リカです。放庵は原作では普通にいい人なんですが、映画だと旦那を殺した直後のリカを襲うので、悪い印象がありますね。

リカは里子を殺害するつもりは無く、母親が千恵子を殺害することに気がついた里子が(※犯人が母親のリカだとわかっていた)勝手に千恵子と入れ替わって身代わりになりました。里子を殺してしまった事を知ったリカはデスペレート状態に陥ります。

金田一は恩田の顔を知る女性(咲枝・春江)にある写真を見せます(映画だと3人揃うんですよね)。写真を見た咲枝はおぞましい悲鳴を上げ、春江も同様の悲鳴を上げます。そしてその写真を見た嘉平は「これは恩田の写真だ」といいます。しかし金田一は、「この写真は恩田幾三ではなく活弁士・青柳史郎として登録されていたものです」と返しました。ここ映画の咲枝さんの悲鳴と演技がすごくいいとおもいます。見たくないものを見た、という感じで。

金田一が神戸に行っていた理由は、このためです。映画では殆ど出番のない本多大先生が無茶苦茶推理力を発揮するのが面白くて好き。

悪魔の手毬唄の犯人の動機

死んだ旦那の落とし胤――――文子・泰子を息子の歌名雄の嫁にしてほしいと双方からせがまれ、進退窮まったため。仁礼家と由良家は彼女の父親が恩田(源治郎)だと知らずに言いますが、断る場合、恩田の正体と自分の罪や血縁関係も言うことになるでしょう。なんたって歌名雄と文子・泰子(・千恵子=ゆかり)は父親が同じ異母兄妹の関係ですから。
多々良放庵を殺したのは、彼は二十三年前の事件から現在に至るまでの全てを知っていたからです(恩田と源治郎の一人二役、恩田の落とし胤の娘達)。

千恵子を殺害しようとしたのは、源治郎の芸能の血筋を色濃く継いだことによる無意識の嫉妬(リカはかつて寄席でデビューしていたため)です。

悪魔の手毬唄のまとめ

どうみても残された歌名雄がマジで悲惨でしょう

父親は23年前の詐欺師、母親は今回の事件の犯人、実の妹・彼女・幼なじみは母親に殺されて。ゆかりが発破かけますが、さすがにそれは……普通の感性なら精神崩壊するか、自殺するよ。マジでキツすぎる。惜しむらくは鬼首村のツートップが今回の事件の動機と悲惨さを理解してくれたことや日下部が彼の才能を見込んで芸能界に打診したことかなと

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