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【ネタバレあり】横溝正史・長編「犬神家の一族」を紹介

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「犬神家の一族」は金田一耕助のなかでもっとも有名な事件であり日本で最も有名なミステリー小説かつミステリー映画の金字塔と呼ばれる作品。1976年の市川崑監督、石坂浩二主演「犬神家の一族」は圧倒的な知名度を誇り、後続の金田一耕助で犬神家の一族を映像化するたびに立ちはだかる作品でもあります。市川崑監督はのちに2006年に犬神家の一族のセルフリメイクをしているのですが、どうあがいても1976年版の映画がユーザーや視聴者、ファンの前に立ちはだかってしまったり……。原作再現を完全にやり遂げているのがDSゲーム「犬神家の一族」とヘロヘロQカ厶パニーの「犬神家の一族」で、8本も作られているドラマは改変されているのがほとんどなんですよね。2018年のドラマなんて重要な箇所を改変したからさあ……って感じで。

犬神家の一族で「地方の大きな一族」「奇妙な遺言書」「骨肉の争い」「連続殺人」のイメージが付いてしまった金田一耕助先生(もう一つに「因習」がありますがこれは八つ墓村に記載がある程度)。そしてこの作品が有名すぎるためか、金田一耕助の一番最初の事件と思っている人もいるようですが違います。金田一耕助の最初の事件は戦前の本陣殺人事件です。戦後は獄門島です(百目紅の下にて、は存在そのものがネタバレだろ)

タイトル金田一耕助役(敬称略)公開日
犬神家の謎 悪魔は踊る片岡千恵蔵1954年8月10日
火曜日の女シリーズ 蒼いけものたち登場しない1970年8月25日~9月29日
犬神家の一族石坂浩二1976年10月16日
横溝正史シリーズⅠ・犬神家の一族古谷一行1977年4月2日~4月30日
横溝正史傑作サスペンス・犬神家の一族中井貴一1990年3月27日
横溝正史シリーズ5・犬神家の一族片岡鶴太郎1994年10月7日
金田一耕助シリーズ・犬神家の一族稲垣吾郎2004年4月3日
犬神家の一族石坂浩二2006年12月16日
犬神家の一族関智一2017年4月22日~30日
犬神家の一族喜多村緑郎2018年11月
犬神家の一族加藤シゲアキ2018年12月24日
シリーズ横溝正史短編集Ⅱ「金田一耕助踊る!」犬神家の一族池松壮亮2020年2月1日
金田一耕助吉岡秀隆2023年4月22日・4月29日
ゆきんこ

上記の皆さんは「犬神家の一族」の金田一耕助を演じた俳優であり、犬神家の一族を放映していない金田一耕助の皆様もいます

\ 完全版 /

目次

犬神家の一族のあらすじ

信州財界の一巨頭、犬神財閥の創始者犬神佐兵衛は、相続人を驚駭させる条件を課した遺言状を残して永眠した。佐兵衛は正室を持たず、女ばかりの三人の子があったが、それぞれ生母を異にしていた。一族の不吉な争いを予期し、金田一耕助に協力を要請していた顧問弁護士事務所の若林が何者かに殺される。だが、これは次々と起こる連続殺人事件の発端に過ぎなかった!血の系譜を巡る悲劇、日本推理小説史上不朽の名作!!

犬神家の一族 あらすじ

事件発生年月は冒頭に「昭和二十✕年」と書かれているが、珠世や佐兵衛、佐清の年齢と生まれの記載があり逆算して考えるとおそらく1949年(昭和24年)とするのが多い(ただ古谷一行氏主演の犬神家の一族は昭和22年設定)。そして映画のせいで夏のイメージがあるが原作は10月18日に始まり、12月25日で事件解決となる。(その間に岡山で「鴉」を解決している金田一先生。とてもフットワークが軽い)

登場人物作中での活躍
金田一耕助(35~36)私立探偵
橘署長よし、わかった! 信州なのでこの事件後は意外と出番が少ない。2回登場する程度。
古舘恭三犬神財閥顧問弁護士。西村晃さん派です
若林豊一郎古舘弁護士事務所の弁護士で金田一の依頼人。最初の被害者。
野々村珠世(26)佐兵衛が懇意にしている夫婦の孫。奇妙な遺言状の渦中の存在。本当は佐兵衛の血の繋がった孫。佐清好き。
犬神佐清(29)松子の子供。出征して帰還後、頭に仮面をかぶる。斧・菊・琴の「斧」。四番目の被害者
犬神佐武(28)竹子の子供。斧・菊・琴の「菊」。二番目の被害者。
犬神佐智(27)梅子の子供。斧・菊・琴の「琴」。三番目の被害者。
犬神小夜子(22)竹子の娘。佐智の子供を妊娠している。映画では見事な発狂シーンを見せる。
犬神松子(53)佐兵衛の娘(長女)。アナタは高峰美枝子?それとも京マチ子?
犬神竹子佐兵衛の娘(次女)。アナタは草笛光子?それとも月丘夢路?
犬神梅子佐兵衛の娘(三女)。アナタは三条美紀?それとも小山明子?
青沼菊乃老年の佐兵衛が愛した工女。三姉妹のいじめを受け、佐兵衛に別れを告げて行方不明になる。
青沼静馬(29)佐兵衛と菊乃の息子。佐清と同い年。母親同様行方知れず。佐清として帰って来ていた。
宮川香琴松子の琴の師匠。正体は青沼菊乃
大山泰輔那須神社の宮司。珠世の出生の秘密をバラす
志摩久平柏屋の亭主。下那須。山田三平なる男を泊める
山田三平柏屋に泊まった復員服姿の男。マフラーで顔を隠している。正体は本物の佐清。
犬神佐兵衛(81)犬神財閥の創始者。衆道。だいたいお前の遺言状のせい。まあ愛した女性と結ばれることが出来なかった腹いせもあるけどね、あの遺言状
那須ホテルの亭主(※映画版)横溝正史先生、バンザイ!

あまりにも有名な遺産相続の推理小説

あまりにも有名な作品かつ遺言状がきっかけで骨肉の争いがおきて殺人事件まで行くためか、検証するひとも多い。日本国憲法に変わってからの民法の遺留分制度を含む改正民法が昭和二十三年一月一日に施行され、法的問題はこの年以降に大きく関わってくる。今だと佐兵衛の子供全員に遺留分が発生するので「全額を渡す」という佐兵衛の遺言状の効果は難しいらしい。このあたりは詳しい人たちが解説しているのでそっちを見よう。検索すれば本当に色んな人が解説してくれている。やっぱり有名なんですねえ

1話限定だけど犬神家の一族がYOUTUBEで見れる

事件の時期ととある箇所を除けば、ストーリーの流れは1976年の映画と1977年のドラマを見ればOKです。ドラマの主題歌めっちゃいい曲だと思う。茶木みやこさん。時々1976年版映画が地上波放映されたりYOUTUBEで期間限定公開されるのでそっちもチェック!

ありさん

そんでさ

ゆきんこ

なあに?

ありさん

犬神家以外で遺産相続の事件ってあるの?

ゆきんこ

獄門島と八つ墓村、支那扇の女、壺中美人。でも遺言状は無かったかな

依頼人の手紙

発端は、昭和24年2月1日に犬神佐兵衛が遺言状を古館弁護士に残して息を引き取ったこと。佐兵衛の最期のときも親族はほぼ集まっていたが長女の松子を筆頭として、膨大な遺産の行方――――――遺言を引きずり出そうとしていて、佐兵衛本人の看病をしていたのは珠世ぐらいであった。ここTVドラマ版だと佐兵衛が思い出す走馬灯が切ない。最初の若かりし頃しかないのも伏線。

控えていた古館弁護士より、遺言状の開封は佐兵衛の遺言で血縁者が全員揃ってから。もし誰かが死亡している場合は佐兵衛の一周忌で開封することになっている。床に伏せる佐兵衛は薄笑いを浮かべ、松子から順繰りに子供や孫を見て、最期に珠世を眼におさめたとき、そのまま逝去した。この場にいない佐兵衛の血縁者は戦争で出征している長女松子の息子、佐清だけだった。

今回原作とそれ以外で比較・補足します

映画1976年の石坂浩二主演市川崑監督の映画
ドラマ1977年の古谷一行主演のドラマ
ゲーム2009年DSで発売したゲームのこと

依頼人死去

10月18日。金田一は、犬神家の財務を一手に引き受ける弁護士事務所に所属する弁護士・若林氏から、恐ろしい事件が起きるから来て止めてほしいと依頼を受ける。那須ホテルに着た金田一はチェックインすると部屋に入り犬神家奉公会の雑誌と、依頼人の手紙を読み直す。そして部屋を整えに来た女中に、犬神家はまだ復員していないお孫さんがいるらしいけど……と尋ねれば、その孫は佐清であり、彼は先日博多に復員したと情報があったので松子が迎えに行ったと女中が答える。映画版だとこの女中さん助手みたいなことしてるんだよね。

若林に那須ホテルまで着いたと連絡すると、彼は事務所からホテルに向かうと応える。その間那須ホテルから見える湖を眺めていた金田一だが、ボートに乗っている女性が危険のように見える。女中が、珠世だと教えてくれたので金田一は珠世を助けに湖の畔に向かう。ボートを漕ぎ、移動してもらう。そのときボートに故意的な穴が空いているとわかり、彼女の護衛である猿蔵も今回か三度目だと愚痴を漏らす。金田一は集まってきた野次馬の中でボート屋の番頭に穴の空いたボートを警察に調べて欲しいと話して金田一は那須ホテルに戻る。ドラマだと車の故障で、事務所に突撃する金田一だったりとはじまりが違う。

那須ホテルには誰かが来た形式、タバコの吸い殻があることから、若林と入れ違いになってしまった推測。戻ってくるのを待っている時、女中の絶叫がホテルのトイレから響いた。トイレに向かえばそこで男性が死んでいた。女中によれば彼こそが若林―――金田一に依頼をした若林豊一郎だった
眼の前で、依頼人が殺されている―――探偵にとってこれほど屈辱的なことはない(後年、悪魔の降臨祭でも同じような目に遭う)。若林からの手紙も半信半疑だったが彼が殺されてしまっことで金田一は、俄然やる気、ファイトを感じた。心中怒りが燃え上がる。警察に対しても若林からの手紙を提出しなかった事で、那須書の署長や警察官は金田一の事を訝しみ、若林との関係を根掘り葉掘り尋ねる。東京や岡山なら磯川警部、等々力警部がいるのですぐに警察の力を借りられるが今回はそうもいかない。東京で悪魔が来りて笛を吹く、岡山で本陣殺人事件と獄門島と八つ墓村と夜歩くを解決しているが、名声はまだまだだから警察の信用を得られていない。

新たな依頼人

若林が殺された翌日の10月19日。金田一のところに古館恭三と名乗る弁護士が訪れる。彼は犬神家の顧問弁護士で若林の上司。那須ホテルで古館弁護士は、若林が殺された理由、アナタに何を依頼しようとしていたのかを教えて欲しいと尋ねる。金田一は犬神家の名誉のことを踏まえ、依頼の手紙を見せた。この手紙は古館弁護士も全く知らなかったらしく、内容を読んでひどく驚いていた。
そして若林がここ最近なにかに怯えていたことを告げ、これらに覚えがあると古館弁護士は話す。曰く、自分の金庫には犬神佐兵衛の遺言書があるが、これが読まれた形式もあるし、これを公開するのがとても恐ろしい。金田一は拝見することはできるかと聞けば古館弁護士は首を横に振る。ただ奇妙でとてもありえない内容だと。

遺言状・開封の儀

奇妙な遺言状

11月1日。松子より佐清が戻ってきたことを受け、古舘弁護士は金田一をともに連れて犬神家に赴く。松子に連れられて姿を見せた佐清は仮面を被っていた。それは戦争で爛れた彼の無惨な顔を隠すために用意したと松子がいい、こっちに来るのが遅れたのは東京で仮面を作っていたから。映画の真っ白なすっぽり仮面のイメージが強すぎる(ドラマもこれ)が、原作の仮面はもう少し違って佐清の顔とそっくりだけど表情のない能面な仮面だったりする(これを再現したのは2020年ドラマぐらいでほとんどない)。出征前は美青年で有名な佐清の憐れな姿。声もまともに出ないようで彼はほぼ無言。古舘弁護士は松子に急かされる形で、犬神一族の未来を決定づけるおぞましい遺言書を読み上げた。

犬神佐兵衛の遺言書
  • 犬神家の全ての相続権・財産を示す「三つの家宝」は条件次第で野々村珠世に譲られる
  • 譲渡の条件は野々村珠世が佐清・佐武・佐智の中から三ヶ月以内に婚約相手を選ぶこと。誰を選ぶかは珠世の自由
  • 佐清・佐武・佐智の中から婚約相手を選ばない場合、珠世は「三つの家宝」の相続権を喪失
  • 珠世が選んだ相手が彼女を拒否した場合、その相手は犬神家に関する全ての権利を喪失する
  • 三人珠世との結婚を拒否、若しくは死亡した場合、珠世は自由。好きな相手と結婚して良い
  • 珠世が「三つの家宝」の相続権を喪失するか死亡した場合、犬神家の全事業は佐清が相続して佐武と佐智は父親のポストについて佐清を補佐する。犬神家の全財産は犬神奉公会によって公平に五等分の花嫁され、1/5ずつをそれぞれ佐清・佐武・佐智に配分し、2/5は青沼静馬(青沼菊乃の子供)に配分。分与の2割を犬神奉公会に寄付
  • 犬神奉公会には全力を上げて青沼静馬を探せ。3ヶ月以内に行方不明、死亡が確認された場合は全額(財産の2/5)を犬神奉公会に寄付せよ
  • 静馬の生存が確認できた場合、3年以内にこの地に戻ってきたら2/5の財産を渡し、もし戻ってこなかった場合はそのまま犬神奉公会に寄付せよ
  • 珠世が相続権を失うか3ヶ月以内に死亡(既に死亡している場合も)し、佐清・佐武・佐智の三人の誰かが死亡した場合、佐清→全事業は佐武・佐智に譲渡。佐清の遺留分は静馬に。佐武、佐智ともに同じで彼らの遺留分は静馬に
  • 珠世と、佐清・佐武・佐智が死亡した場合、犬神家の全事業と全財産は静馬に譲渡

とにかく「野々宮珠世」と「青沼静馬」のアドバンテージが高い。そして歯牙にもかからない三姉妹たち。佐兵衛にとっての優先順位がわかりやすい。そして三人の孫たちはそれぞれ単独で首位を摂ることが出来ず、静馬や珠世のおこぼれに近い。
珠世は遺言書の内容に当初驚いたものの、終盤には冷静沈着、泰然に犬神家の一族の憎悪と浴びながら座っていた。そして最初から最後まで冷遇、黙殺されていたのは松子・竹子・梅子の三姉妹とその旦那。

古館弁護士が長い遺言状を最後まで読み終えると、静かになるが、「嘘です」とその静寂を破ったのは松子の声。そして「この遺言状は犬神の一族を陥れるために誰かが書いた真っ赤な偽物だ」と叫ぶが、古館弁護士も「これが偽物であればどれだけよかっただろうか。これが佐兵衛翁の意思、いや意思に反してどこかミスがあればよかったか。犬神家の皆様に申し上げるがこの遺言書は効力を持っているとはっきり述べたのだった。ここの映画の応酬、カメラワークも転々としていて迫力ある。

可能性

金田一は古館弁護士に、一通り終わってアナタの秘密もなくなったのだから、色々打ち明けてもらおうと投げる。あの遺言状では珠世は遺産を手にするならば三人のうち誰かと結婚しなければいけないし、しかも彼女は絶世の美女だ。まず三人が断る筈がないだろう。既に佐智が珠世にアタックをしているのを金田一は見ていた。
金田一は可能性の一つとして、今の遺言状を聞いたうえで、若林を買収して遺言状を盗み読んだのは珠世であり、これまで珠世が狙われているのは全て彼女の自作自演ではないかと話す。三回狙われて三回問題ないのは都合が良すぎると。(これ猿蔵の防御率が100%なだけ)そして遺言状の内容があまりにも珠世に有利であり、彼女がもし三人に対して好意を持たず他に愛人なり恋人を持ち、遺産を独り占めしたい場合は佐清・佐武・佐智を殺す事もありえる。古館弁護士は珠世のことも知っているので彼女がそういう悪辣な女性ではないと反論し、アナタは恐ろしい人だ、探偵というのはそこまで人を疑っているのかと尋ねる。
悲しそうに微笑んだ金田一は、疑っているわけではないし可能性だ。だから全くの逆―――佐清たち三人の誰かがが珠世を殺す可能性もありえるだろうと。金田一の推測に、古館弁護士はなんて恐ろしい事を言うんだ、空想、小説でもなければ冷血な……と金田一を批判するが、金田一はもう既に冷血な殺人犯がいると返した。………若林という犠牲者がいるじゃないかと。

だれが彼女を危険にさらしたか

珠世が三回も命を狙われていることについて、金田一は蝮・車のブレーキ・ボートの穴といった細工を出来た人間がいるか古館弁護士に尋ねる。すると古館弁護士は、「出来た人間は『佐清を除いた犬神家の一族の誰か』だろう」ときっぱり言う。佐兵衛がなくなった2月1日から毎月、一族は佐兵衛を偲んで那須に集まるが、それは個人を偲ぶという殊勝な心がけではなく互いの腹のさぐりあいが目的。そして珠世の奇禍は一族みんなが集まったときに発生していた。
金田一は、珠世の命を狙う最有力候補として青沼静馬の名をあげた。彼は財産を受け取ることができるが珠世が死ななければ事業相続にも割り込めないからである。

老いらくの恋

遺言状発表の時にいなかったが、遺言状に名前があった人物、青沼静馬。金田一は古館弁護士に青沼静馬のことを尋ねた。名前を聞いてひどく驚いていた三姉妹たち。古館弁護士は、青沼静馬こそが晩年の佐兵衛を悩ませた存在であり、彼は佐兵衛の落胤……息子だと言う。だがそのことは犬神佐兵衛伝に記載がなかった。それを公表することは松子達三姉妹の非道な悪行を世間に公表することになるので世間体を考えて憚った。
古館弁護士は言う。佐兵衛は正室を持たず三人の側室がいて、それぞれに松子・竹子・梅子の娘がいた。側室も誰も寵愛せず、生理的欲求を満たすだけの存在だった。50を過ぎた初老の佐兵衛は、ある1人の女性に恋をした。その女性の名前は青沼菊乃、彼女は犬神製糸場で働く女工で、佐兵衛の長女の松子より若かった。そして菊乃が身ごもった事でブチ切れたのが松子たち三姉妹。彼女たちは異母姉妹であるため仲が良い訳では無いが菊乃を前にしてスクラム組むように一致団結。

菊乃が産んだ子供が男の子だったら、佐兵衛は菊乃を正室にして生まれた子供に全財産を与えてしまうだろう。自分たちの母親はそれこそ性奴隷のような扱いだったのに、いきなり出てきて何もかもを奪うなんて許さない――――三姉妹の心境はこんな感じだっただろう。三姉妹は産褥の菊乃にそれは筆舌に尽くしがたいいじめを行った。そして最終的に「生まれたこの子供は犬神佐兵衛の子供ではない」と一筆書かせ、佐兵衛が菊乃親子に与えた三種の家宝を奪い取って菊乃の元を去ったという。菊乃も静馬を連れて那須から出ていくが、その先は行方知れずだという。このようなことがあった為、佐兵衛は松子達三姉妹に異様なほど冷たく、あのような遺言状を残したのだろう。

美女と野獣

金田一は古館弁護士から聞いた犬神佐兵衛の子供をメモに記載。家系図を作ってまとめた図が原作にあるため、ドラマでもほぼ必ずといっていいほど家系図は紹介される。なお、佐兵衛の遺言状をマスコミが放っておくはずもなく、センセーショナルな文面でかき立てた。

佐兵衛の娘、三姉妹は自分たちが遺言状から外されたことや、全てを珠世に握られていること、自分の子供より若い孤児の彼女におべっかを使うことなどへの憎悪が積もっている。その憎悪を受けても珠世は悪びれず悪態することもなく毅然とした態度で三人の婚約者やその母親と応対している。部屋で話をする時も、呼ばれたときも猿蔵が横にいる。佐智は軽薄な性格で珠世に媚び、御用聞きのような事をして周囲にいる哀れな男。佐智、佐武は珠世を手籠めにしようと襲った事があったが猿蔵がそばにいるので行動に移せなかった。佐清との話しは母親の松子在席で行い、佐清本人は殆ど口を開かず、松子が彼の仕草から読み取って珠世に返している状態だ。

珠世のボディガードとも呼べる猿蔵は、本名は別にあるのだが猿のような顔をしているので猿、猿とよんでいたらいつの間にかその名前になった。孤児だったため珠世の母親の祝子が不憫がって彼を引き取って養育。珠世と一緒に育ち、両親がなくって犬神家に引き取られることになった珠世といっしょについてきた。珠世への忠誠と盲目的な献身は群を抜いていて、少々おつむが弱いところがあるが珠世が命令すれば殺害だろうか何でも行う男だ。そして猿蔵は菊人形作りの名人で、佐兵衛の一代記をテーマに作っている横溝先生、人形師出すの本当に好きですね(悪魔の寵児、幽霊男など)

手型合わせ

11月15日午後15時。佐清帰還から半月、金田一逗留から約1ヶ月。ホテルにいた金田一は古館弁護士から、今から用事があるのだが差し支えがなければ一緒に来てほしいと言われる。玄関に行くと古館弁護士は自動車にいて、そこには佐武と佐智といっしょに乗っていた。金田一が車に乗って聞けば、着いてから話すと良い、車は那須神社に向かった。
那須神社では、社務所から出てきた大山神主に奥の8畳に案内される。大山神主は巻物を取り出すとそこには手型と署名があった。佐武はそれを大山神主から受取、中身を確認。佐兵衛の文字があって佐清の署名がある。金田一も受取り巻物をみれば右手の手型に「武運長久」の文字、左に「昭和18年7月6日 犬神佐清 23歳 酉年の男」と書かれている。佐武の話によればこれは佐清が出征前に納めた奉納手型。そして指紋が全く同じ人間がいないのだから、これを使って仮面の男が佐清かどうか確認すると言う。二人はまだ佐清が偽物だと思っている。手型の存在をみんな忘れていて、連絡をしてくれた大山神主は歯切れが悪そうな口ぶりだった。

母親の松子夫人が息子だと証明しただろう、と金田一が言った。だが二人はアナタは伯母という恐ろしい女を知らないから言える、あのひとは偽物の佐清を用意することも、こさえることもやってのける。俺達に佐清の分の遺産や事業を渡したくないからだときっぱり言い放った。松子や佐清が抵抗しても、無理やり捺させると佐武は述べた。

ちなみにゲームだとここで分岐(2周目以降だったかな)。佐武たちが手型を捺させる場に本来金田一はいないのだが、証人として懇願されて断れずついていくと松子たちの問答に参加することになり捺すほうがいいと佐武を援護。最終的に焦れて逃亡した松子を佐智が取り押さえ、佐清を佐武が捕まえて無理やり手型を捺させるルートに。奉納手型とこのときの「佐清」の手型は一致しないので、佐清を語った偽物として「彼」はあえなく捕縛。犬神家の遺産相続バトル、開始!となるが金田一側は結局若林を殺した犯人が見つからない&トリックもわからないので「眼の前で依頼人を殺された探偵」という烙印を押されるエンド。

「菊」人形

11月16日。昨日、佐武たちに証人になってほしいからついてきてくれと言われた金田一だがまだ事件も起きていないし他人のプライベートに深煎りするのもはばかると考えて、誘いを断った。翌朝やってきた古館弁護士から昨夜のすったもんだの話を聞く。
結果として、15日の夜に佐清の手型を捺させることは出来なかった。一族総出で捺させるように説得するも、松子が絶対捺させないと激しく抵抗し、最終的に佐清を連れて立ち去ってしまった為、佐武達は、自分は今後一切この仮面の男を佐清と認めることは出来ないときっぱりといった。古館弁護士からの話を聞いた金田一は、佐武の話からムッと来て全員で責め立てられて依怙地になったか、もしくは本当にあの仮面の佐清は佐清じゃない偽物なので捺させることができないためかと推測する。古館弁護士と12時ぐらいまで話し合い、古館弁護士は帰っていった。

最初の事件

それから眠った金田一はベルの音で叩き起こされる。電話の相手は古館弁護士で、ついに予想していた恐ろしい事件がおきた、すぐに犬神家邸宅まで来て欲しいと金田一を呼び出す。迎えに来た自動車に飛び乗り、犬神邸宅に向かうも、運転手も誰かが殺されたというところまで知らないとちんぷんかんぷんだ。金田一はこれまでの残酷でおぞましい事件(血みどろの新婚初夜の夫婦、見立てられて殺された娘、首なしの男女、毒殺や絞殺された村人たち)で死体に免疫がついていると思っていたが、犬神家のヘンテコな殺害で呼吸を飲み立ち竦むほかなかった。犬神家邸宅につくと、既に警察や野次馬がいた。着いた金田一の腕を古館弁護士が掴み、邸宅ではなく庭の先の菊畑に連れて行く。「あんなには悪魔の所業だ、恐ろしい」と古館弁護士の目は血走り、口から気泡が漏れている。
菊畑には菊人形の名手、猿蔵が手掛けた菊人形が並んでいて、古館弁護士は顔を見てください、と金田一に言う。その通りに鬼一法眼、皆鶴姫、牛若丸、喜三太……彼奴の顔は犬神家の一族によく似ている。笠原淡海は佐武の顔だが――――――それは人形ではなく本物の顔。そして頷くように首が傾いて床に落ちてころころと。金田一は蛙を踏み潰した奇声をあげた。

金田一はこの事件の特異性を語る。首を斬り落とす場合、夜歩くのように首を隠し身元をわからなくなるのが基本。だがなんの理由があって首を着飾ったのが、それがわからない。答えたのは那須所の署長の橘署長。橘署長は若林殺しで金田一を勾留して開放した後、東京の警視庁に照会したが帰ってきたのは金田一に有利な内容だった模様。そのため橘署長は畏敬の念を持って金田一に接している。
私服警官によって犯行現場が解ったので金田一達は橘署長についていく。少し落ち着いた古館弁護士より、もう少し詳しい情報を聞けた。第一発見者は猿蔵で朝の9時頃(猿蔵は毎朝菊畑の様子を見に来るため)。竹子は発狂していた。ここ映画だと布団で押さえつけるシーンが、なんとなくわかる(あと小夜子の体を張った演技)。佐武殺害の犯行現場は邸宅から離れ湖水に面したボートハウス。屋上は展望台になっていて、そこまで登ればおびただしい血があった。しかし佐武の首から下の死体はなかったが死体をここから湖水のすぐそこまで持っていった血の跡はあるので投げたのではないかと金田一は推測。もしそであっても一度湖をさらう必要があるが、湖の性質上少々面倒だと橘署長は語る。

私服警官の一人がボートハウスの屋上で菊の大きなブローチを発見。そのブローチを見た古館弁護士が悲鳴を上げ、それは珠世のもので、昨日も付けていた。手型の件で帰る時に珠世とぶつかってチョッキにあたった事もを覚えていると答えた。猿蔵が、松子が古館弁護士を呼んでいるか来てほしいと伝える。そのまま残った猿蔵は警察に犬神家所有のボートが一艘無くなっていると報告し、珠世を連れてきてほしいと言われたので呼びに行く。それを聞いた橘署長は、犯人は死体を投げ捨てたのではなくボートに乗せて湖の中心まで漕いで死体を捨ててそこからまた漕いだ、と行動を予測した。

やってきた珠世にブローチを見せれば、彼女は確かにこれは私のものだと言う。そしてここで佐武と内密な話をしたこと。珠世が佐武を呼んだ事を警察に報告する。何故佐武を呼んだのかという理由は簡単で、このときの佐清の指紋がついた懐中時計を然るべき相手に見せて調べてほしいということだった。珠世は昔から孫のように佐兵衛から愛を持って育てられ、佐兵衛より懐中時計をもらった。その懐中時計が壊れるたびに直していたのが佐清で、彼は機械いじりが得意だったらしい。戦時中も壊れてそのままの懐中時計を、珠世は佐清に直してもらうと持っていて、数日前に佐清にお願いしたが彼は手にして数刻黙る、その後それを返していなくなってしまった。懐中時計の内側に珠世と佐清の指紋があるので、それをハンカチで大事にしまって証拠に託したと珠世は話す。
流れとしては佐武との密会が23時過ぎ。10分ぐらいで話が終わった直後、佐武は獣の本性を示し珠世を襲う。もがいた珠世を助けたのは猿蔵で、猿蔵にかけより彼の護衛で珠世は帰った。そのとき犯人を見たかどうか気が動転していて覚えていないと答えた。

手型合わせ・続

古館弁護士が、松子が今度は手型合わせをするから来て欲しいと金田一たちを呼びに来た。犬神家の奥座敷の中央に、筆と白紙と佐清と松子、対面する竹子たちがいた。警察からは鑑識と橘署長が同席。松子は昨夜のすったもんだの騒ぎを説明し、昨日は捺さないといったが今朝の佐武の惨状を見て竹子達は自分たちを犯人扱いしているため、やはり捺すことにしたと。佐清は手に墨汁たっぷりの筆をぬり、白紙に押し付ける。その上から松子がぐうううううううううっと押していた。これで署長たちも証人だから、と手型と奉納手型を鑑識に渡すと、鑑識は結果が出るまで1時間だといって去っていった。

山田三平と血染めの証拠

食事を頂いた金田一たちのところへ、行方不明になっていた一艘のボートを見つけたと警察官が報告にやってくる。雲行きも怪しいのでもし見つけるのが遅かったら雨で証拠が流されてしまった可能性があると手柄を褒めつつ、そのボートもここまで持ってきた模様。ボートには血の跡がべっとりとついていた。

新たな証人として、下那須の旅籠屋柏屋の主人・志摩久平がきた。彼の話によれば先日…11月15日に止まった客が怪しさ満載の復員者らしき男なのだが、彼は部屋の中でもマフラーや帽子を外さないままで、帳簿も書こうとせず口述速記を依頼した。仕方ないので帳簿に「東京都麹町区3番町21番地 無職 山田三平 30歳」と書いた。この住所も東京に照会に出すところだ。山田三平なる男はいかなる時も顔を隠し、夜20時にチェックインして宿代を払い22時ぐらいに知り合いに会いに出かけると言って宿を後にして、24時頃に戻ってきた。そして朝5時ぐらいに宿をチェックアウトした。女中が部屋を掃除していると、押入れの中から「博多友愛会」と書かれた血染めの手ぬぐいだった。

山田三平なる男の行動と、昨日の佐武殺しを比べれば、佐武殺しの犯行時刻に山田三平のアリバイが不成立。血染めの手ぬぐいは明らかに手を拭いた痕跡がある。よって最重要容疑者としてマークされるのもおかしくない。しかし金田一は手ぬぐいを発見させることで山田三平が自分に注目を集めようとしていると考える。証拠や痕跡が残っていることから、山田三平は誰かを庇っているようにも取れるが、その誰かがまだわからない。そして山田三平が執拗に顔を隠した理由は犬神家の人間だからではないか、と捉える。那須において犬神家の顔を知らぬものはいない、古くからいる人間ならなおさら。11月15日夜22時~24時は犬神家では手型合わせで全員アリバイがある。ただし猿蔵以外は。金田一も橘署長も、珠世ないし猿蔵が容疑者という線を捨てきれないでいた。

「琴」の糸でくくられて

琴乃師匠

那須の犬神邸宅で松子親子は離れに住んでいた。復員した佐清は与えられた居間に閉じこもって、松子とはほとんど会話をしない。かつての佐清をイメージするも生気がないゴムの仮面を被っている彼は何を考えているのだろう。外は雨が振り、離から見える湖には佐武の死体を探す警察のモーターボートやランチがあった。松子は佐清に雨が入ってるから窓を閉じるように、といいながら自分は琴の練習をしていた。宮川香琴という松子の師匠は松子より年上の見た目をしていて、片目が潰れて額に傷があるが、上品な動きをしていて盲目だった。彼女は数ヶ月に一度、東京から那須方面に回ってきて伊那にもお弟子がいる。流石にご不幸が遭った家に稽古をするわけにもいかないが、挨拶をしないのは失礼だと顔を見せに来た模様。

金田一と橘署長が先程志摩が提出した証拠を持って、佐清たちのところにやってくる。志摩の話をした後、「博多友愛会」と書いた手ぬぐいに見覚えがないかと聞けば、松子が押し入れから持ってきた佐清の荷物を見せればそこには「博多同崩会」と書いてあった。しかし山田三平の住所を云えば、松子は「その住所は東京のわたしの住所です」とひどく驚いた。だが長い間なら住所を話したこともあるだろうが、わざわざ那須まで追いかけてくる人物は思い浮かばない、恨んでいる人間も同様に思い浮かばないと答えた。
佐武も佐智も猿蔵も兵隊に取られたが、運がいいのか佐武は内地に、猿蔵は台湾にいたらしく、ビルマ前線にいた佐清とは比べ物にならないくらい早く復員できたという。ちょうどそのとき湖水をさらっていた警察より、佐武の死体を発見したと報告が届いた。発見したのは仕事をしていた大山神主だった。

医者の楠田(警察の嘱託も兼ねる)の話によれば、あがった首無し死体は犬神佐武で間違いない。死因は背後からの胸への一突きだが、凶器は日本刀のような鋭利な刃物だろうと楠田は推測。佐兵衛が一時期日本刀に凝っていて、たくさんあるだろうからと。首の切り口はひどく、素人が日本刀でギコギコ苦労して斬ったと思えるような無惨なものだった。「夜歩く」で容赦なく3人も首斬りデストロイした屋代寅太の腕が光る。死体に特段目立ったものはなく、わざわざ湖に捨てた理由もわからないと楠田は言う。そして珠世の懐中時計はついぞ見つからなかった。

手型合わせ・続々

佐武の死体と向き合っていたとき、雨の中、刑事が鑑識が手型合わせの結果が出たと金田一たちを呼びに来た。神主の正装をしている大山神主から、手型合わせの入れ知恵をしたのは誰なのか金田一が尋ねる。大山神主は経緯を説明した後、依頼したのは珠世と話す。元々珠世は那須神社出身なので時折遊びに来るから、と大山神主は話した。
そして鑑識による奉納手型の手型合わせの結果は「良」――――つまり、押した時の「佐清」と、この奉納手型の佐清の手型も指紋も全く同じ。つまり眼の前の佐清は佐清であると語った。無言と沈黙が支配する座敷。みな異存はあるが、こうして証拠を出されてしまった以上黙るしかない。珠世もずっとだまりっぱなしだったが、一瞬何かを言おうとして黙った。

衆道の契り

解剖に回された佐武の死体のうち、凶器は日本刀のようなものと推測したが、短刀だと結果が出た。金田一は短刀ならたしかに殺せるが、首を斬り落とすのは難しいだろう。犯人は二つの凶器を用意していたのかと考えた。犬神家は神道なので犬神佐武の形ばかりの通夜が大山神主の指揮のもと行われた。
酒に酔った大山神主は金田一のところにくると、佐兵衛の秘密を話し始めた。幸い、みんな二人を見ていない。大山神主は佐兵衛と珠世の祖父の野々宮大弐との間に衆道の関係がある証拠を手にしたと言う。またこの二人の間に蜜月の関係があったのは那須に昔から済む人間なら誰でも知っていることで、古館弁護士も知っていたが金田一には言わなかった。流石に醜聞になるので犬神佐兵衛伝には静馬のこと同様記載していない。大山神主がいう証拠とはボロボロで虫食いになった唐櫃で、明治44年3月25日に大弐と佐兵衛で連名して書かれたもの。大弐は明治44年5年逝去のため、大弐が死ぬ直前に二人の秘密をしまったものだろう。その中には二人の文のやり取りなど沢山あったらしい。大山神主はこれらの夥しい史料を元に赤裸々な犬神佐兵衛を公表したいと意気込んでいた。

ちなみに2018年のドラマはこの二人の衆道の関係をオミットしているので、佐兵衛の苦悩(正室を迎えず、側室だけをもった理由)が殆どわからなかったので背景とかがいろいろと破綻しかけてたなあ。本人というよりも大弐の行動でね……。

謎の侵入者

半通夜ということで佐武の通夜はお開き。金田一は古館弁護士に連れられてホテルに帰った後の犬神家邸宅。離れに猿蔵と住み、帰って寝ようとする珠世に、佐武の妹の小夜子が話があると彼女の居間に足を踏み入れる。珠世という絶世の美女がいるが小夜子も美人。そして自分は犬神家の孫というアドバンテージがある。昔から佐智が好きだっt小夜子は彼に告白し、両思い。そこに梅子ないし彼の両親の思惑が遭ったかは内緒。しかし遺言状発表で小夜子ではなく珠世こそが金の卵を生む鶏。佐智は小夜子を捨て、見苦しいほど珠世に媚びへつらっている。小夜子にはそれらが耐えられなかった。しかも佐武が死んで佐智と佐清の二択になり、佐清はあの姿だから普通だと消去法で佐智を選ぶのは自明の理。小夜子はそれを相談し半時間で終わった。
一刻も早く寝たかった珠世は、小夜子を送り出すと寝室の電気をつける。すると彼女の悲鳴が離れに響いた。寝室から顔を隠した兵隊服の男―――――復員服の男が珠世にぶつかり、彼は居間から廊下へと抜けて外へとでていった。その男が珠世の寝室で何をしたのかわからないが、探しているものがあって珠世と小夜子が話しているので慌てて寝室に隠れたのではないかと珠世は考える。ただし取られたものはなかった。
この悲鳴で犬神家の一族全員のアリバイが成立。一番近いところにいた小夜子は、男と猿蔵がもみ合っているのを目撃している。猿蔵は珠世が心配だったため男を追うのはやめたという。

復員服の男が逃げた方面から男の喘ぎ悲鳴が聞こえた。この場にいないのが佐清だったので、小夜子や珠世たちは佐清ではないかと踏み声が聞こえた方面――――バルコニーに向かう。バルコニーには仮面が取れた無惨な顔の佐清が倒れていた。小夜子や佐智は目をそらすが、珠世は逆でまじまじと佐清の顔を穴が開くぐらい見つめていた。
翌日、侵入者の話を聞いた金田一と橘署長は、復員服の男の情報をまとめていく。特に一人二役ではないのはかなり大きかったらしい。昨日の大雨で足跡も消えてしまった。これだけ情報があるのだから、と警察も探すが該当する男の足取りが途絶えてしまった。

復員服の男・山田三平の情報
  • 徹底的に顔と声を隠している(見られたくない)
  • 東京の犬神松子の邸宅の住所をきっちり書いている
  • 犬神家邸宅の珠世の部屋に迷わず侵入している(=この屋敷の地理に詳しい)
  • 誰かとの一人二役ではない
  • ちらほらよく似た背格好の目撃情報がある
  • 猿蔵とタイマンできる体力と膂力の持ち主

所詮女をこのような形でしか手籠めにできぬ男よ

11月25日。佐武が殺されてから10日後。日差しも気持ちいいお出かけ日和。珠世は猿蔵にも黙って1人で湖水でボート遊びに出かけた。穴が空いた事件以来、猿蔵は珠世にボート遊びを絶対に許さなかった。来る日も来る日も警察から質問攻めにされ、犬神家からは嫉妬と憎悪と敵意の視線と思いを火箭に載せられて浴びせ続けられ、珠世の精神は限界で鬱屈状態だった。そこに加えて今まで自分を見向きもしなかった佐智筆頭の梅子たちが尻尾を振ってくる、珠世がそれが本当に嫌で嫌でたまらなかった。だから誰もいない場所で何もかも捨てて忘れて海原に漕いでしまいたいと開放感を覚えての行動。映画だと精神が爆発寸前の珠世が気晴らしに一人で隠れてボート遊びに出かけた、という前提がないので警察のマークを抜けた珠世がぶらぶらボートで浮かんでいる完全に落ち度しかない状態に。

一人でいる珠世を探した、とモーターボートで追ってきたのは佐智。なにか御用と棘のある言葉に対し、佐智は橘署長と金田一がやってきて話があるから集まって欲しいと嘘を付く。自分で戻ろうとする珠世に対し、怒りやすい署長だから早く戻らないと何を言い出すかわからない、モーターボートに乗ってくれと提案。何もおかしいところはないと見た珠世がモーターボートに乗ると、佐智は本性を出して彼女に眠り薬をかがせた。そして犬神家とは真逆の方向にモーターボートを走らせ、豊畑村という村にある犬神家の旧屋敷に珠世を運び込んだ。モーターボートを誰にもわからないように隠して。
最新の注意をはらい、佐智は珠世を抱いて空き屋敷に入る。一瞬誰かに見られている気がした。広場、ホールを抜けて階段に足をかけた時、土がついた靴跡が複数残っている。誰かがいるのかと考えたが、警察が復員服の男をずっと追っていることを思い出し、警察の足跡だと踏む。二階に登り、足でドアを開ければ殺風景だがベッドが置かれている部屋がある。ベッドに珠世を寝かせ、じっくり珠世を見つめた後にネクタイや上着、シャツを脱ぐ。寝ているからいいだろうし手籠めにしたら泣こうが喚こうがこっちのものだと佐智は考え、珠世に手を伸ばす。そのとき物音が聞こえ、はっと向くが小動物。そしてドアを見れば閉まっている。おかしいと思い、ドアに近づいて廊下を見るも違和感なし。そして後ろの珠世を見れば――――――――彼女に上着がかぶさっていた。そして誰かいるのか、というだけが精一杯だった。部屋の中から隣の部屋につながるドアがゆっくり開く。そこにいたのは復員服の男だった。

佐智が復員服の男と相対してから1時間後。猿蔵のところに電話が入る。珠世が豊畑村の古屋敷の階段上がって左の空き部屋にいることを伝えると、すぐに迎えに行ったほうがいい、珠世の恥辱になることだから事を荒立てず猿蔵一人で迎えに行ってくれと大事にしないように念押しする。珠世は眠っているがその体は無事だからと。ただこの電話の主はひとつだけ忘れていた。猿蔵は珠世にのみ忠誠心が強く、彼女のためなら何でもする。だがそれは逆を言えば彼女に害をなすものは容赦しない。

11月26日の朝10時。体の怠さと戦いながらおきた珠世の脳裏に浮かぶのはモーターボートでの一件。嘘をついた佐智に騙されて眠り薬を嗅がされて……。直後、辱められたのではないかと最悪の考えに陥る珠世だが、体の感覚は問題ないうえにここは自分の寝室のベッドだった。猿蔵がドアの向こうから声をかけてきたので、珠世は彼が自分の状態を知っていて黙っていると悲しく思う。しかし猿蔵は預かり物があるからと紙切れをドアの隙間から差し込み珠世に渡す。そこには、佐智は失敗したから珠世は純潔のままだと書かれていた。

佐智の悪行

離から母屋に向かえば、梅子夫婦や小夜子、金田一たちが集まっていた。25日から佐智が行方不明で見つからない。そして猿蔵は事情を知っているの違いないのだが、彼は珠世の許しを得たら話すと口を閉ざした。小夜子は好きな相手の佐智がいなくて気が気でなく気分も悪そうだ。
珠世も何が合ったのか知りたいと思い、猿蔵に話してほしいと伝えて、まずは自分の身に何が合ったのか25日のモーターボートの一件を話す。話を聞いた一同は愕然として珠世を見て、梅子夫婦は顔を見合わせて、橘署長は空咳をし、小夜子は不安で珠世の手を握ったので珠世は握り返した。猿蔵の話を一番聞きたいのは自分だ、一体自分に何が合ったのかと猿蔵に促す。猿蔵は珠世の助けも借りて昨日の一件を話しはじめた。

11月25日午後16時頃、猿蔵のところに影の人(復員服の男)から珠世が豊畑村の空き家にいるから早く迎えにいってほしい、彼女の名誉もあるから一人でという電話がかかってきた。そのため猿蔵は言われた通りボートで空き家に向かった。珠世は眠っていて顔の近くから薬の匂いが、例の紙切れは珠世の服に安全ピンで挟まっていた。佐智はどうしたのかとヒステリックに梅子が聞くと、猿蔵はギロリと梅子を威嚇する。佐智は半裸で轡をされて椅子に縛られていた。猿蔵の話では珠世を助けた復員服の男だろう。助けなかったとかと聞かれてあんな畜生まで連れ帰る義理はないと猿蔵は答え、帰りは珠世を連れてモーターボートで帰ってきたという。

ゲームだとここで分岐(2周目以降)し、佐智が珠世を攫ったことを小夜子がいる側で根掘り葉掘り尋ね、佐智の尋常なら無い執着を話していると、小夜子の嫉妬が爆発して珠世を殺してしまう。

11月26日午後13時、猿蔵の話を聞いて橘署長と金田一と幸吉(佐智の父)、猿蔵と小夜子(どうしても一緒に行きたいと訴えた)がモーターボートにのって豊畑村の空き家に向かった。珠世がいた部屋に佐智は縛られたままうなだれていた。お灸が据えただろうという猿蔵だが、幸吉が急いで近寄って轡を離して顔を上げた。その顔を見た一同、幸吉は思わず手をはなすと首はがくんと折れた。佐智は死んでいた。首に琴の糸を巻き付けられて。そして後ろから小夜子の絶叫が響き、彼女は倒れてしまった。

壊れる小夜子

11月26日午後13時頃、鑑識によって写真が取られたあと、佐智の死体の琴の糸の結び目をほどいていく。猿蔵の話では昨夜珠世を助ける時も、今と同じような形で縛られていたという。轡をされているので何を言っているのかわからなかったが、いいたそうにしていた。そのときの猿蔵は頭に血が上っていたので、佐智を一発殴ってそのまま帰った模様。金田一は指が一本食い込まないくらいきつく縛られているのに、佐智の体には体を擦った縄の痕やかすり傷があることに着目した。金田一はは検屍をしたあとに小夜子の様子を見てほしいと楠田医師に依頼した。
復員服の男を探す時にこの屋敷も調べた警察官が、そのときはこんなふうに人が住んでいる形式は無かったと話す。だからその男が住んだのはここ最近のはずだと。そして脱衣場で何かを洗ったあと、靴跡も残っていたのでそれをしっかり採っていた。ここに住んでいた復員服の男が佐智と珠世のいざこざを見つけて佐智を無力化して猿蔵に電話してから珠世を連れ帰ってから佐智を殺したのか? 復員服の男の行動が全くつかめない。
楠田医師の検屍によれば、解剖結果と待たなければ正しいと云えないが、死亡推定時刻は今から17時間~18時間前―――11月25日午後20時~午後21時ぐらいで、凶器は琴の糸ではなくもっと太い紐だと言う。

驚く署長だが、直後小夜子の悲しい金切り声が響いたのでその部屋に向かう。部屋の中では幸吉と猿蔵が二人がかりで小夜子を押さえつけていて、彼女は常人ではない表情で暴れている。作中最強キャラの猿蔵を吹き飛ばしかねない小夜子の暴走を二人で抑え、幸吉の合図のもと楠田医師が鎮静剤を売った。幸吉の話ぶりだと二本以上撃ったのではなかろうか。そして落ちつき眠った小夜子を見つつ、楠田医師は小夜子は佐智の子供を妊娠していて、3ヶ月になると話した。

よき、こと、きく

佐智の凶報を聞いた梅子は絶叫すると伝えに来た刑事に八つ当たりぶちまけ、松子が犯人だから捕まえてほしい、とにじり寄る。あらかたぶちまけたあとに佐智の死因は太い紐だが、全身を琴の糸で縛られていた。なぜ琴の糸をつけたのか回目検討もつかないと刑事が云えば、梅子はたじろいだ。そして琴、最初は菊……とブツブツ話して出ていった。
竹子は娘の小夜子が発狂したことや彼女が佐智の子供を孕んでいると知って、梅子と同じように松子への憎悪をぶちまけていたが、琴の糸が佐智の首や全身に巻きつけられていると刑事から聞いて一変。ブツブツ話すとそんなはずはないけど、と意味深な言葉を残して梅子と相談すると出ていってしまった。

松子は香琴師匠の稽古を受けている最中だった。佐清は刑事が入ってくるのを見て座敷に座って無言で黙っている。逆に香頃師匠は警察が来たのを感じ、手を止めて黙っている。松子は刑事からの佐智の訃報を聞いても微動だにせず、琴をひき続けていた。刑事が「犯人が琴糸を使ったことで琴の糸に注目を集めたかった、最初は菊人形、次いで琴、だからよき、こと、きく―――」と説明した所でぷちんと琴糸が切れて人指指を怪我したようで急いで琴爪を抜いてハンカチをまきつけた。怪我をしたのかと刑事に言われたので松子は「琴糸が切れた拍子に」と答えた。それに違和感を覚えたのは香琴師匠で「いま、琴糸が切れた拍子に?」と独り言のようにつぶやくが、松子の眼に激しい憎悪やなんやらがみえたのはその瞬間だったと刑事は感じた。

今の話に怯えた香琴師匠の顔色が悪くなりそろそろ御暇すると座敷を立ち上がれば、佐清が「ぼくがおおくりします」と香琴師匠の手を繋いで玄関まで送っていた。それは松子も首を傾げる不思議な光景だった。二人がいなくなると、松子は刑事より琴の糸について詳しくきき、やはり竹子や梅子と同じことを述べる。3人ではなしあってから橘署長に話すといった。戻ってきた佐清は松子たちの部屋に入らず廊下で頭を下げるとそのまま奥の部屋に入っていく。

非道の中に隠されたもの

11月26日。犬神家の座敷に、松子、竹子・梅子とその旦那たち、佐清、橘署長と金田一と警察、古館弁護士、珠世が集まり座っている。静けさのなか口火を切ったのは松子だった。今から話すことは誰にも話したことがない、三姉妹だけの秘密で墓に持っていくつもりだった。子どもたちを殺されたことで話すこともやむなし、非道のそしりを受けても仕方ないと前提して松子は語りだした。かつて古館弁護士が話した三姉妹の非道の中に隠されたさらなる真実、別の側面を。
話は佐清が生まれた前後の30年前。その頃は佐兵衛が自分の製糸工場で働く工女の青沼菊乃(当時18~19)に恋をしていた時期。犬神家の企業も事業も軌道に乗りかけていたときの事だったので、明らかに外聞が悪くスキャンダラスな話題。佐兵衛も流石に犬神家の本邸に住まわせることはせず、菊乃専用の別宅を買って人目を忍んで通っていたが最終的に入り浸りになってしまうほど。犬神佐兵衛は那須の著名人、名うえての事業家の不倫でマスコミや新聞や醜聞を掻き立てていたが、まだ松子達は我慢していた。

しかし我慢出来ないことができてしまった――――――青沼菊乃が妊娠した。そして佐兵衛が菊乃を正室として迎え入れようとする噂がひっきりなしに那須を駆け巡る。佐兵衛の正室は松子達の母親がどれだけ願ってももらえなかったもの。松子たちは全員母親が違う異母姉妹で、その母親は妾、性奴隷に近く、愛なんてこれっぽちもないただ佐兵衛の欲望を発散するときに受け止める存在にしか過ぎない。だから佐兵衛は三姉妹が生まれたときもひどく不機嫌で、捨てるわけにも殺すわけにもいかないから認知して育てただけに過ぎないと松子は語り、竹子や梅子もそれに頷く。玩具も買ってもらったことがない、抱いてもらったこともない、親らしい愛情なんて一度も感じたことがない。だからこそ佐兵衛が菊乃に愛を注ぎ、正室として迎えて娘の自分たちを追い出そうという話が持ち上がった時、三姉妹(と母親)の恨み怒りは爆発した。
金田一は瞑想する。どうして佐兵衛は三姉妹に対して冷酷で居続けたのか。佐兵衛伝を読み返しても誇張はあれど人間的欠陥、性格上の問題は見当たらない。大弐との同性愛の経験で人間的な愛情を持てなかったのか、性生活を狂わされたのか。可能性はあれど、三姉妹への異常な冷酷さの理由に繋がらない。

もうひとつ。松子の個人的な恨みがあった。佐兵衛は、松子の旦那には家督を絶対に譲ろうとしなかったが、その春に息子の佐清が生まれていて、彼は佐兵衛の血を引く孫なのだから家督を譲ってもらえるだろうと思っていた。しかし菊乃が正室に収まって男の子を産めばその子は犬神家の嫡男で、遺産も家督も佐清ではなくその子供が全て譲り受ける立場になってしまう。それは許せなかった。正室の地位を奪った母親の恨み、家督を奪ったわが子の恨み。二重の恨みが菊乃親子に降り注ぐ。竹子も結婚したばかりで梅子も来年結婚する予定だった。母親の恨みと我が子と自分の恨みを抱えて三姉妹は菊乃が住む別荘に向かい、佐兵衛と菊乃を口酸っぱく罵った。

松子はもし菊乃を正室にするつもりなら、私は二人と刺し違えるつもりだ。たとえ人殺しの母親だと言われても佐清が家督が告げるならと呪いの言葉を吐く。松子ならやりかねないと思ったのか、菊乃正室の話はなくなり、菊乃も姿を消した。三姉妹は喜んだが、犬神奉公会の幹部から三種の家宝(斧琴菊)がなくなっていること、佐兵衛が菊乃に与えたことを教えてもらい、そっちがその気ならこっちもこの気だとやる気満々モードにチェンジ。人を使わせて菊乃が伊那の農家の離れにいるとわかったこと、2週間前に男の子と産み落とした事を知り、その農家に向かった。犬神家の威光は伊那に届いているから、金を渡せば隠れ住む農家の農民達は逆らえず、しばらく家を留守にした。

復讐

寒い寒い晩。赤ん坊に乳を与えていた菊乃は三姉妹の顔を見るやいなや、とっさに土瓶を投げつける。土瓶は松子に当たらなかったが、柱にあたって割れた。それが三姉妹のリミッターを解除する。赤ん坊を抱えて縁側から逃げようとする菊乃の伊達巻を松子がつかみ、梅子が赤ん坊を取り上げる。松子は赤裸の菊乃の頭を掴んで霜の上に転がして、箒で何度も何度も彼女の体を打ったため、菊乃の体にはミミズ腫れが出来た。そして竹子が冷たい水を菊乃に浴びせる、何度も何度も。
菊乃が「どうしようというのですか」と叫ぶと、松子は「言わなくても解るでしょう。三種の家宝を出しなさい」と云えば、菊乃は「あれは、旦那様(※佐兵衛)からこの子にいただいたものだからお返しするわけには参りません」と抵抗。そのたびに松子は箒で打ち、竹子は水を浴びせる。しかし梅子が「そんなこともしなくてもその女をうんと言わせるい方法があるでしょう」と、赤ん坊の尻をめくり、そこに火箸をじゅうと当てた。すると赤ん坊の泣き叫ぶ声。これらの話を聞いていた金田一や橘署長は言葉が出ず、猿蔵も怯えていた。

梅子の一撃が大きすぎたようで、菊乃は狂ったように泣きわめきながら押入れより三種の家宝を取り出した。松子は帰ろうとするが今度は竹子が菊乃に反撃。工女時代から付き合っている男がいて今も関係を続けているのをちゃんと知っている。そしてこの赤ん坊はその男との子供で、佐兵衛の子供じゃないんでしょうと。だから一筆かけと言うと菊乃は抵抗。梅子が再び赤ん坊に火箸を当てたので菊乃は泣きながら、産んだ子供は佐兵衛の子供じゃないと書いた。そして三姉妹はそれぞれ菊乃に二度とここに姿を見せるなと吐き捨てると、菊乃はむくりと顔を起こしてよきはお前、きくはお前、……と三姉妹順々に指指して呪い立ち去った。そして話は終わる。それを聞いていた佐清が全身が震えるような仕草を見せた。

行方知れずの母子

今回の犯人は菊乃かもしれないが、よき、こと、きくと聞いて思いついたのがこれだけだったのでお話して置こうと思ったと松子は話した。
次に話したのは古館弁護士だ。遺言状発表から探していた青沼親子の捜索に進展があったこと、そして菊乃は孤児だがその血縁を探ると佐兵衛が終生恩義を尽くす野々宮晴世(珠世の祖母)のいとこの子にあたる。佐兵衛は野々宮夫婦を神のように慈母のように崇め奉っている。従って晴世の唯一の血縁者である菊乃の子供に家督を譲ろうとしたのもやむなしと。

伊那→富山市→空襲で親戚全滅→消息不明

富山市の親戚に→津田姓→兵隊に取られる✕2~3回→昭和19年金沢に→消息不明(※金沢から何処の方面にどこにいったのかわからない)

橘署長が11月25日午後20時ぐらいの佐智殺害のアリバイについて全員に尋ねる。松子と佐清は離れで香琴師匠といっしょに琴の稽古をしていた。夕食も一緒に取った。トイレも行ったが、琴の糸が足りないので母屋まで取りに行ったが5分程度だった。佐清もトイレに数度行った程度。
梅子夫婦と竹子夫婦は、行方不明の佐智を探すために彼が足を運びそうなお店に電話をかけまくっていた。元は梅子たちが竹子夫婦に相談したところ、小夜子を含むみんなで色んなお店に電話をかけていた。佐智はここしばらくやけになっていた模様で、キャバレーなどもあったため。梅子を宥めながら夜20時~23時ぐらいまで電話をかけていた。珠世に関しては猿蔵が答えた。眠り薬を嗅がされてずっと眠っていて、自分はドアの前で寝ずの番をしていた。召使仲間にも話している。

なお猿蔵が静馬では、という金田一の疑問に関して古館弁護士が調べてくれたらしく、結果は違うということ。猿蔵は豊畑村の生まれで証人も多いし産婆も生きている。松子が復員服の男はどうして捕まらないのか、と聞けば、橘署長は少々苦心した声で手配を出しているがなかなか尻尾を出さないという。
今度は金田一から、佐智の死体で質問がある。佐智の着ているワイシャツのボタンは金をあしらった豪華なもので、ひとつ紛失して4つだけになっている。このボタンは換えがなく5つしかない。佐智はおしゃれなのでボタンの紛失したワイシャツを着て外に出ないからどこかで無くした筈。ならばどこだろうか?と。

出生の秘密

唐櫃の中を探して犬神佐兵衛の真実を知りたいと言っていた大山神主が、ドカドカと入り込む。彼は風呂敷に沢山の書面や文書を詰め込んでやってくると、まず言い放った。

「わかりました。わかりましたよ。皆さん。故佐兵衛翁の遺言状の秘密が。……佐兵衛翁が珠世さんに、あんな有利な地位をあたえたのは、珠世さんが恩人の孫だったからじゃないんです。珠世さんは実に、佐兵衛翁自身の孫だったんですよ。珠世さんのお母さん、祝子さんというひとは大弐さんの奥さんの晴世さんと、佐兵衛翁のあいだに生まれた子どもだったんです。そして、そのことは大弐さんも知っていて許していたんです」

犬神家の一族 P290

みな、最初はぽかんとしていたが、この言葉の意味が解ってくると、激しく動揺。とくに珠世は全く知らなかったらしく、真っ青な顔で今にも倒れそうであった。珠世は佐兵衛の本当の孫だった。

「斧」を反してキヨに

12月中旬、金田一は那須ホテルで憂鬱な気持ちに浸っていた。殺人が起きても犯人も回目検討もつかない、五里霧中状態。犯人はすぐ側に居て、眼の前にいるのに全くつかめない。深まっていく焦燥に落ち着きを失い、日々悩み苦しんでいる。自分の日記に光明が見つかるかもしれないとひっくり返しで何度も読み直している。
書抜は最初の10月18日から11月26日まで25項あり、本当はもっと多いらしい。

愛欲日常三角始末書

珠世の素性の秘密を見つけた大山神主は、唐櫃を漁った結果、野々宮大弐と若き佐兵衛で交わされた連署の秘密文書を見つけ読みふけった。大山神主、読めるのか。他にも、大弐、晴世、佐兵衛の三角関係からわかるドロドロとした性生活を綴った愛欲の日記も出てきた。大弐との衆道は三年ぐらいで終わる(大弐側が手を引いた)が、そもそも大弐は性的不能者で女性に対して全くだめだった為、若い妻の晴世は清いままだった。関係を終え年下の友人として大弐の家に出入りする佐兵衛は晴世と出会う。二人はみるみるうちに恋の炎を燃やし一線を越える(佐兵衛が二〇歳、晴世が二五歳)が、良心の呵責を持ち合わせていて苦悶の末二人は心中未遂をした過去も。
大弐が発見して二人は助かったが、関係を知られることになる。だが予想に反して大弐は二人の関係を認め、今後も続けるようにと不倫を奨励した。大弐によっては晴世の相手を出来なかったことへの贖罪がある。また世間体を憚って大弐と離婚して佐兵衛と結婚するのはよくないだろうし、晴世もそこは同意した。そのため野々宮夫婦と佐兵衛の異常な性生活関係が始まった。名目上は大弐の妻だけど、本当は佐兵衛の妻―――ー晴世は良心の呵責に苦しみ抜きながら、表向きは平穏な女性として努めていた。そんななかで生まれたのが祝子であり、大弐は迷わず自分と晴世の娘として戸籍登録した。

当時の女性は夫が手を出さなくても妻はじっと耐えている時代。古風で貞淑である女性が奨励される常識、道徳。晴世もそういう古風な女性だったため、佐兵衛との関係は身がよじれるほど常に悩んでいた。年下の美貌の愛人との関係や絆を断ち切れず、愛欲にずぶずぶと沼に落ちていく。晴世の懊悩を知る佐兵衛はますます晴世を愛するようになる。事実婚で妻でありながら、子供も生みながら、世間的に妻に出来ない女―――――晴世の薄幸的運命を知る佐兵衛の愛は、彼が事業者として成功するほどにより深まり、頂点に達していた。佐兵衛が生涯正室を持たなかったのは、晴世のことを思って。佐兵衛は晴世に義理を通し抜いた。

側室を持ったのも、三人も持ったのも、成功したことで用意に晴世の所に通えなくなり、衝動的な肉欲を発散するため。また晴世への愛を忘れないためであり、誰か一人だと寵愛してしまう可能性がある。そして三人なら相互に憎んで嫉妬しあうと考えて熟視していたから。本当に愛した晴世との子供は、尊敬する大弐が子どもとして登録し、父と名乗れず抱くことも許されない。だから道具として扱った女性との間の娘に、愛情を抱かないようにしていた。まあそんなこと、三姉妹にはまっっっっっっっっっったく関係ないことなんですけどね!!!

伝説のアレ

月日は流れて12月13日朝7時頃。夜も色々考えて眠れなかった金田一は朝寝坊しつつ、橘署長の電話で起こされた。事件がおきた、犬神家の3人目がついに。ホテルから湖水を見てほしいと電話がきれる。
言われたとおりに双眼鏡で凍った湖水を見れば、展望台の下あたりには異様な――――――日本一有名なポーズの死体―――――死体が浮かんでいた。金田一は足が凍りついて立ちすくんだ。あんな死体今まで見たことがない、……それは「ひと」であった。パジャマを着た両足、もとい腰から下が湖面から空に向かって突き出ている。歯ぎしりが出るほど滑稽で、恐ろしい死体。
犬神家の一族も集まって恐ろしい死体を見ているが、その集団の中で足りない人物がいた。仮面を被った犬神佐清である。

犬神家の一族の惨劇は、那須だけの問題ではなく最早全国区を騒がす大事件だった。そのため13日におきた佐清殺害の事件は、その日の夕刊1面を飾る大ニュースだった。橘署長と合流した金田一は、どうしてあんな禍々しい死体があるのか悩んだうえで、あの死体は間違いなく佐清なのかと尋ねた。
するとあの場にいないのは佐清だし、松子がパジャマが佐清のものとだと話した。竹子、梅子とは違い、松子は息子を無惨に殺されても泰然と佇んでいる。一方、警察は死体回収に難航していた。氷面で現場写真をとるために近づくのも難しい、氷が割れて死体が沈んだら大変だ、ゆっくりと死体に近づいている。

佐清が殺されたのならば残りは「斧」だろう。頭を斧でかち割られている可能性を示唆する金田一だが、橘署長は、松子の話を聞いてから斧に関係するものは引きあげているので犬神家にはないため、だから「斧」は外から持ち込んだにほかならないという。一方、刑事たちが丁寧に氷を砕いて佐清の死体を掴み持ち上げる。引き上げた佐清の顔はザクロのように潰された、おぞましい顔。男でも目を背けたくなる佐清の顔を、珠世はじっと目を凝らすように見つめていた。ただ橘署長が言っていた斧が使用された痕跡はなかった。

楠田医師ももうこりごりだとため息を付きながらやってきた歳、珠世は楠田医師にこの死体の右手の指紋を取ってほしいをお願いした。何故指紋を欲しがるのか、かつての手型合わせであっていたはずでは、と尋ねた金田一を何処か嘲る珠世の瞳。しかしその視線は消え、指紋を取るぐらい問題ないでしょうと話したので金田一は黙った。刑事を派遣するから解剖する前に手型をよろしくと橘署長は楠田医師に依頼する。珠世は何かを確信していて自分は見落としているのでは、と金田一は考えるも見当がつかない。

佐智のボタン

展望台から降りてきた金田一に、竹子と梅子が佐智のボタンを渡す。これは今朝、小夜子が持っていたが、どこで手に入れたのかわからない。彼女はあの豊畑村の一件で精神崩壊してしまったのだから。豊畑村で手にしたのでは、と竹子が云えば小夜子はやってきてすぐに倒れてしまったのでそれはないと。それは幸吉も認めている。そしてこのボタンは5つセットで予備はない。だからこのボタンは何処で手に入れたんだろうと考え、ボタンを預かると橘署長が合流する。
斧を使わずに佐智と同じく絞殺している。斧は一体……と首を傾げている橘署長に、メモ帳を開いて金田一が説明する。「スケキヨ」の死体は半分水に沈んでいたため、ひっくり返して沈んだ部分を「ヨキケス」→「ヨキ■■」→「ヨキ(斧)」になった。犯人は死体で斧を示した。

宮川香琴=「????」

12月13日午後21時半。犬神家の応接室に、金田一・古館弁護士・橘署長が座って、佐清の死体解剖結果を待っている。そして指紋の一致結果も。両方とも待っている。金田一は轍の音が止まる音と、呼び鈴、女中が呼びに行く流れをぼーっと見ていた。女中が怪訝な顔で、橘署長に青沼菊乃という女性が面会に来ているというのを聞いた瞬間、三人は椅子から飛び上がった。橘署長はすぐに彼女を通すようにと女中に言う。映画もテレビもこの「青沼菊乃」の正体をカットしているところが多い。

輪タクに乗ってきたとおもえて雪の形式がない頭巾を被った女性が入ってくる。頭巾をとったその顔を見て、三人は絶句し驚愕の顔を見せた。青沼菊乃は、犬神松子の琴の師匠、盲目の宮川香琴女史だったのだから。流石に信じられず、古館弁護士はハンカチで目を拭いゴシゴシし、金田一は頭をガリガリとかいている。香琴の話によれば、東京で佐清殺害の夕刊を読んで、流石にこれ以上隠し通すわけには行かないと弟子といっしょに大急ぎで列車でやってきた。弟子は宿に向かわせて自分は警察にいったが署長が犬神家にいるので輪タクで来た。弟子がいるので香琴の言葉に嘘がないとわかり、橘署長の座っていた椅子に座った香琴が身の上を語りだす。

悲しき親子

香琴は前身を隠すのに相当の苦労を費やした。そのため自分が菊乃だと知っているのは富山の親戚と、七年前に亡くなった宮川松風の三人。親戚は戦災で亡くなっているので宮川香琴=青沼菊乃だと知るのは誰も居ない。松風は富山に身を寄せている時に琴の嗜みが会ったことで心安くなったが、まだ先妻が生きているので憚った。先妻が亡くなった後も香琴から辞退している。戸籍を動かした事で犬神家に感づかられるかもしれない、富山の親戚に迷惑がかかるかもしれないし、津田姓として生きている静馬になにかあるかもしれないからと。菊乃にとって、あの凍える夜はその後の人生を決定づけた一夜だった。その後、元々琴の嗜みもあり(犬神家で学んだ)、松風から手ほどきを受けた香琴は、宮川家で琴を教えているうちに弟子たちは宮川家の妻だと思って慕っている。

静馬とは、最初は親子の名乗りをしなかったが、昭和19年の招集で親子の名乗りをしたのち(静馬は薄々感じていた)、父親の犬神佐兵衛の話と、何故自分たちがここにいるのか――――あの寒い夜の事件等を、香琴は全て洗いざらい話した。

思い出してほろりほろり涙をこぼす香琴に、金田一は優しげに尋ねる。佐清はあのゴムの仮面を被っていたが、息子の静馬もあの仮面に似た顔、すなわち静馬と佐清はとても良く似た顔だったのではないかと尋ねる。この爆弾質問に橘署長も、古館弁護士も目を開き金田一を見つめる。金田一の質問に対して、香琴は「どうしてそれを存じているのか」とこぼした。目が不自由な香琴は、佐清を息子の静馬だと思い見つめていたが、顔立ちが微妙に違うので別人だと理解。だが瓜二つの顔でびっくりしたと話す。佐兵衛の孫の佐清と、息子の静馬――――年は同じでも叔父と甥。そのため血統が濃くて似ているのでしょうと菊乃は話す。この瓜二つの血の濃さ顔のためか、佐清の父親は犬神佐兵衛という説もあった

巡り合わせ

香琴はほろほろと泣きつつ本来の目的を語りだす。犬神家の所に戻らない、痕跡を消していた彼女がどうして敷居をまたいだのか。香琴は、橘署長に決してやましい下心などなかったときっぱりと話したうえで、そういう巡り合わせの元だったという。元々那須地方の琴の師匠は古谷蕉雨師匠が回っていたが、一昨年に中風で倒れてしまった為、代稽古の師匠としての依頼が彼女に来たが、香琴は身震いがして断った。那須地方は生涯足を踏み入れぬと決めた土地のうえ、弟子に松子がいると聞いてますます首を横に降る。しかし最終的に、どうしても引き受けなければいけない羽目になった香琴は、はたと考え――――。
もう30年以上も経過しているし、自分は当時とかなり顔が変わっている。もしかしたらバレないかもしれないと考えた。そこに一切のやましさはない。実際琴の師匠として対面した松子は自分を見て菊乃とは全く思わなかったようで、師匠として慕っている。かつては工女だった娘が巡り巡って那須にわざわざ来てもらう琴の師匠になっているとは全く思わないだろう。

2年前から出稽古なれば、佐兵衛は既に寝込んでいる時期。流石に姿を見ることはできなかったが、出稽古の繋がりで葬式に参列し榊をあげることができた為、香琴はそれでも満悦だった。

指の痛み

金田一は香琴に、佐智殺害の報告をした刑事より、松子の言葉に疑惑の声で繰り返した報告について尋ねた。よき、こと、きくに反応した松子が琴糸を弾いて指を怪我した。血が流れる人差し指をハンカチで隠しつつ、指をけがしたと聞いた刑事に対して松子が「琴糸が切れた拍子に」と答えた際、香琴が不思議そうに「いま、琴糸が切れた拍子に」と返すと、松子がすごい形相で香琴を見ていた。刑事も覚えてたこのやり取りのうち、松子が怒った原因に心当たりがあるかと聞いた。香琴は、松子が怒った原因はまったくわからないが(盲目でどんな顔だったのかわからない)、不思議そうに返した理由についてはわかっていると言う。

松子が、今指に怪我をして血を出したと言ったがそれは、嘘。実際血を出しているが、元々そのような怪我をしたのは、昨夜だった。11月25日も出稽古に来ていた夜。
5分~10分の時間を2~3度留守にした松子だが、ある時戻ってきた松子の琴の音がいつもと違う。香琴は盲目なせいか聴力がとても発達していて、かつ長年の修行で琴の音ならある程度聞き分けが可能。香琴はすぐに松子が指に怪我をしていてそれを隠そうとしている、痛みを堪えて我慢していると見抜く。また松子は指の怪我について何も言わなかったので香琴も自分から言わなかった。だが翌日の問で「いま」と答えたのでつい口をついででてしまった。したがって松子は指の怪我を誰にも気づかれたくないと思っているのがわかったからだという。

手型合わせ・続々々

その後も香琴は質問を受けたが、警察が立て込んできたのでひとまず弟子がいる宿に引き上げることになった。続けて佐清の死体の手型合わせが終了したと鑑識が結果を持ってやってきた。すぐそばには金田一が呼んだ珠世も控えている。佐清の死因は細い紐のようなものによる絞殺死亡時刻は昨夜(12月12日)の夜22時~23時、氷の湖水にさかさま漬けされたのはそれから一時間後、23時~24時だとわかる。
そして先程から言いたそうに待っている鑑識が話す。奉納手型の佐清の手型と、11月16日に採った手型は一致するが、たったいま(12月13日)採った手型とは全く一致しない。いま採った手型は奉納手型とも11月16日の手型も全く違う、別人のもの。

この事実に古館弁護士は目を見張り、橘署長は飛び上がる。たしかにあっていたはずだ。金田一は、16日のときは本当の佐清だった、これが盲点であり、指紋という証拠で何も云えなかったが、実は仮面を利用して本物と偽物が入れ替わっていた。手型が何よりの証拠。珠世はこの事実に気づいていたのですね、と聞けば彼女は頬を染めると無言で一礼して部屋を出ていった。

犯人を雪ぞりで追い詰めて

12月24日朝。世間は暗雲だが金田一の頭の中は曙光がきざしはじめている。盲点だった曇りが消えたことでどんどん晴れていく。推理の積み木が積み上がって、あとは最後の積み木―――犬神佐清を探すだけだ。警察も総力を上げて佐清を探している。
橘署長から連絡があり、12月23日に佐清が犬神家に出没したが、逃げていった。後を追うから一緒に行きませんかというので金田一は羽織の上から二重回しをひっかけて輪タクで大急ぎで宿から飛び出した。指定された場所にはスキー道具を付けた雪スタイルのパトカー数台と、荷物を抱えた警察官たち。スキー帽子とスキー服で待っていた橘市長と古館弁護士に対して、いつものスタイルで着た金田一。聞けば、佐清が雪ヶ峰に逃げた報告を受け、自殺の可能性があるので急いで追い詰める必要があるとのこと。その和装では無理だろうという橘署長に対して、自分は東北生だから下駄よりスキー板が慣れている、この格好でも問題ないが道具を、というが道具があるので追うことに。車である程度(八合目)まで登ってそこからスキーで追い詰めるとのこと。

向かっている間に12月23日の騒ぎを聞く。23日に佐清が現れて珠世を殺そうとしたらしい。金田一の話しが終わって23時頃、応接間から離れの寝室に入ったが、なかなか眠れず1時間ぐらいうとうとして、人の気配を感じた。押入れから視線を感じた(ここくっそ怖いと思う)ので、電気をつけて押し入れを開ければ中から復員服の男が飛び出して珠世の首に両手を伸ばして殺そうとした。物音を聞いて突撃したのは隣部屋の猿蔵。猿蔵が復員服の男に殴りかかったときは珠世は意識を失う前で、男も猿蔵を相手にした。二度三度取っ組み合いしているうちに復員服の男のマフラーが落ち、その顔は佐清だったので猿蔵は立ちすくみ、珠世は悲鳴を上げた警察が来た時は夜1時だったが、珠世はヒステリーを起こして泣いていた。

雪の中

八合目までたどり着けばスキーモードの私服警官がいる。佐清は既に発見したが、ピストルを持っているので近づくのも難しいらしい。金田一のスキーモードは哄笑だが、本人がいいのであればいいのだろう。橘署長や金田一が急いで向かっていると、上からパンパンと銃撃音が聞こえる。金田一はうさぎのようにぴょんぴょんと登っていき、一面の雪景色をうっとりと眺めていたが、ピストル音で我に返る。下を見れば復員服の男と距離を取る三人の警察官たち

燕のようにすーっとおりていき、金田一は警官たちに「殺しちゃいけない」「その人を殺すな」と佐清を生かして捕まえるように訴える。血走った目でぎろぎろ見つめる佐清。金田一の言葉で一瞬ずれたのか、警察官の弾丸がピストルを持つ手にあたってピストルが落ち、佐清は雪の上に膝をつく。そして踊りかかった警察官によって手錠がかけられた。

ゲームだとここで分岐。金田一が佐清を生かして捕まえるように言わなかったため、抵抗した佐清は犯人として射殺される。服から「わが告白」という遺書に近い自白書類が見つかったので、佐清が犯人と確定。松子はその後自殺してしまうというなにも解決しないまま終わるエンド。

恐ろしき真実、悲壮な決意

古館弁護士によってこの青年(復員服の男)こそが「犬神佐清」で間違いないと証明される。犯人捕まえたとニコニコと橘署長は、さきほど金田一が警察官たちにいった言葉を問いかけた。すると金田一は頭をかき回しながら、そのままの通りで佐清は犯人ではない。ただ彼は自分を犯人だと言い張るだろうと言う。その言葉を聞いた佐清は絶望的な顔を見せて横に倒れる。

そして翌日の12月25日。那須を震撼していた犬神家連続殺人事件の大詰め――――犯人とされた犬神佐清の「わが告白」、そして「運命の母子」による「恐ろしき偶然」の真実が金田一耕助によって明かされるのであった。(ちなみにここからもゲームの分岐は2個ほどあって、佐清の尋問に失敗すると自殺する)

犬神家の一族のネタバレ

大体犯人わかってる人がほとんどだろうけどね!!!!!!!!
個人的に2023年放映のNHKドラマの、黒幕はお前では?と思わせる展開すごく良かったです。ドラマ版の京マチ子さんの松子本当にいい演技過ぎるなあ。目力やばすぎるよ。ゲームだと通常エンドと大団円エンドがあります。大団円エンドは二週目以降限定。ゲームのエンディング(通常)の、犬神家の事業を奉公会の手も借りながら佐清が戻ってくるまで竹子・梅子がもり立てる、という一文はかなりの救いのなったはず。映画だとそのまま別れになり、原作は犯人死亡で終わるので。

犬神家の一族の犯人

若林豊一郎、犬神佐武、犬神佐智、青沼静馬を殺したのは犬神松子です。そして佐武と佐智の死体工作をしたのは静馬と佐清。金田一に罪を暴かれ、最後に佐清と再開した松子は珠世に「小夜子は佐智との子供を生む、それは竹子と梅子の孫。生まれた子供にどうか遺産を分けてやってほしい」と伝え、自ら毒を飲んで自殺映画もだけど金田一が明らかに見逃してる説が強い。

この事件、松子が最初に言ったように、佐清が恥を忍んで犬神家に帰還していれば起きなかった事件なんだよなあ!!!!!よって戦犯は犬神佐清。だって珠世は佐清の事好きだし(遺言書的に佐兵衛は佐清と珠世をくっつけたかった感じがある)。佐清はあの一族で奇跡のような秩序・善キャラなので、佐武たちを蔑ろにしないと思うし。

犬神家の一族の犯人の動機

犬神佐兵衛の遺産を手にするため&我が子佐清に家督を継がせるため。若林を使って遺言状の中身を見て珠世を除外しようと裏工作していたが若林にバレたので口封じで彼を殺害。佐清が無惨な姿で帰還したことにより珠世との結婚が難しくなったことで、他の候補者を除外しようと佐智と佐武を殺害。そして佐清から正体を見せた静馬も殺害。(最初から珠世が打ち明ければよかったんだろうけどね)

佐清は母親を殺人犯として告発されたくない一心で静馬の命令に従って彼の言う通りの死体アリバイ工作を行った。静馬は母親の青沼菊乃から聞かされた三姉妹への恨み。

犬神家の一族・質問篇

ここからちょっとした質問形式で。

野々宮珠世は誰を選んだの?

犬神佐清。そもそも珠世はずっと佐清が好きだった。伏線はちらほらある

青沼静馬と野々宮珠世の関係は?

叔父と姪。戸籍上は別人だが

犬神松子は若林豊一郎をどうやって殺したのか?

博多に出かける前に、毒入りのタバコを渡して遠隔で殺した。金田一の近くで死んだのは偶然

犬神佐智の殺害現場は何処?

犬神家本邸の離れとボートハウスの間

野々宮珠世が犬神佐武に預けた懐中時計はどこにあった?

松子が持っていた。殺した時に落ちて思わず拾っていた

実写化で再現されにくい箇所って何処?

事件発生の季節、佐清の仮面、青沼菊乃=宮川香琴、雪ヶ峰での犬神佐清の大捕物

佐智のボタンは何処で無くしたのか?

松子に殺された離れとボートハウスの間。その時外れたボタンで松子は人差し指を怪我した。落ちたボタンを小夜子が拾う

犬神家の一族まとめ

STEP
2月1日 犬神佐兵衛死去

全員揃ったら開封する遺言状を残す

STEP
10月18日 金田一、那須に到着。同日若林豊一郎殺害される

那須ホテル。依頼人が殺されるという不名誉

STEP
10月19日 金田一、古館恭三から改めて依頼

警察署。若林の上司で事務所の署長の古館弁護士より、依頼

STEP
11月1日 犬神佐清・松子帰還

犬神家邸宅。予定より少し遅れての帰還

STEP
11月1日 犬神佐兵衛の遺言状が開封

犬神家座敷。それは憎悪を煽り憎み合うよう仕向けた恐ろしい遺言状

STEP
11月12日 山田三平、ビルマからの復員船で博多港に着く

そのまま博多で一泊。住所は東京の犬神の家

STEP
11月15日 奉納手型を回収して手型併せを行う

午後3時頃。那須神社。奉納された佐清の手型を使用して仮面の佐清が本物かどうか確かめると息巻く佐武と佐智。だが失敗する。

STEP
11月15日 山田三平、下那須の柏屋に宿泊

13日博多→15日那須に着く。午後8時チェックイン。柏屋。

STEP
11月15日 犬神佐武、犬神松子に刺殺される

午後11時頃。ボートハウス展望台。死体を首切り、菊人形とすり替えたり胴体を湖に捨てたのは???

STEP
11月16日 犬神佐武の首が猿蔵に発見される

午前9時頃。犬神家菊畑。菊人形の笠原淡海と入れ替わっての発見。

STEP
11月16日 犬神佐武の胴体発見される

湖水から発見

STEP
11月16日 手型合わせ行う

犬神家座敷。手型合わせを行うが一致

STEP
11月25日 犬神佐智、犬神松子に絞殺される

午後8時~午後9時頃。???。死体の体に琴の糸をつけたのは???

STEP
11月26日 犬神佐智の死体、発見される

午後1時頃。豊畑村の古屋敷。珠世と猿蔵の言葉で一同駆け付ける。

STEP
11月26日 犬神小夜子発狂す

午後1時頃。豊畑村の古屋敷。佐智の死体をみたこと、彼から捨てられるかもしれないといった精神的不安が爆発

STEP
12月12日 青沼静馬、犬神松子に絞殺される

午後10時~11時頃。???。スケキヨ→ヨキケス→ヨキ

STEP
12月13日 青沼静馬の死体、発見される

朝方7時頃。湖水。伝説のアレ

STEP
12月13日 青沼菊乃、姿を表す

午後9時半。犬神家応接室。宮川香琴こそが青沼菊乃だった。そして同じ列車ににもう一人。

STEP
12月23日 犬神佐清、野々村珠世を殺人未遂

午後0時頃。珠世の寝室。首を絞められるが未遂。

STEP
12月24日 犬神佐清逃走劇

雪ヶ峰。和服+スキーの金田一。

STEP
12月25日 犬神家の一族の事件解決

犬神家座敷。金田一による犬神家一族の事件解明語り

犬神家の一族はその知名度とインパクトもあり、様々な作品でオマージュ、パロディされています。個人的におすすめのが「リーガル・ハイ」第二期八話。この話は全体的に「犬神家の一族」のパロディストーリーであり、犬神家の一族の展開やオチを知っていると、「ああ、お前か」となります。佐清のいない珠世とは誰が言ったか。

完全再現している数少ない作品のDS「犬神家の一族」ですが、こちらはストーリーが完全再現されているだけでゲーム性としては○○○○に片足を突っ込んでいるのでご注意ください。ただ主題歌の陰陽座「相剋/慟哭」が歌詞も含めて本当に「犬神家の一族」なので是非とも聞いてください。このゲームの50%は陰陽座の主題歌、残り50%は原作再現度とクロスワードパズルです。お願いします。サブスクで聞けるはずなのデ!!!!

ゆきんこ

他の事件だと、プライド傷つけられての心中、出生に絶望、恋人を壊されて、全員異母姉妹、秘密を知られた、真実を知りたい、猟奇趣味、師匠への憎悪、遺産相続&本妻の地位、30年間の狂愛の果て、母親の復讐&強請り……かな。

ありさん

バリエーション多すぎ。猟奇趣味って…

ゆきんこ

それは幽霊男。温厚な金田一耕助がブチ切れる事件で有名だよ

画像はぱくたそからお借りしました

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