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【ネタバレあり】横溝正史・金田一シリーズ!短編集「死仮面」を紹介

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「死仮面」は横溝先生の金田一シリーズで中編小説。視点は二人の人間で進んでいるため、部外者から見た金田一が伺えます。古谷一行氏の金田一耕助シリーズでもドラマ化していて、ストーリーやトリックは踏襲していますが、いくつかオミットされた要素もあります。ドラマのなかで犯人がいちばん最後に思い出す日常が悲しい

目次

「死仮面」

昭和23年秋、「八つ墓村」事件を解決した金田一耕助は、岡山県警へ挨拶に立ち寄った。そこで磯川警部は耕助に、無気味な死仮面にまつわる話を聞かせた。東京で人を殺し、岡山に潜伏中の女が腐爛死体で発見されたが、その現場に石膏のデス・マスクが残されていたというのだ。帰京した耕助は、死んだ女の姉の訪問を受けるが……。巨匠幻の本格推理に逝去直前に発表した「上海氏の蒐集品」を併録、昭和59年刊行の角川文庫版を復刊。

「死仮面」あらすじ

時系列としては「八つ墓村」の後の話。金田一が八つ墓村のお礼の件で岡山県警によってから事件が始まります。なお横溝先生は八つ墓村と死仮面を同時連載していましたが(しかも八つ墓村のほうが連載開始が早い)、死仮面の話が終わったあとも八つ墓村の連載は続いていました。

登場人物作中での活躍
金田一耕助私立探偵
磯川警部岡山編での金田一の相棒。警察枠。
野口慎吾岡山市の美術商。奇妙な告白状を残す。留置場に護送される時に海に飛び込んで行方不明。正体は川島圭介。
山口アケミ(葉山京子)野口の情婦で生前に自分のデスマスクを取ってと強請って病死。全国に指名手配されているキャバレー。その正体は山内君子。
川島夏代参議院議員で川島学園理事長。デスマスクを受け取る。三姉妹の長女。心臓が弱い。遺言状を残す。
上野里枝夏代の秘書。デスマスクを持って金田一に依頼。三姉妹の次女。
山内君子里枝が持参したデスマスクの主。行方不明。三姉妹の三女。すでに殺されている。
加藤静子三姉妹の母親で「駒代」という名妓。娘の性が違うのは異父姉妹のため。親子だと名乗らないことを条件に君子と夏代に引き取られる。絞殺未遂で錯乱状態に陥る
白井澄子川島学園の生徒。寄宿舎で生活。夏代に目をかけられ彼女を尊敬している。夏代の落し子(父親は不明)。
川島圭介夏代の養子で川島学園教師。
跛の男川島学園寄宿舎に現れた謎の男。圭介を襲い、澄子や里枝の命を狙い、静子の首をしめる

ドラマ版では川島学園に関係する半分近い箇所がオミットされています。澄子と夏代、圭介の関係や、犯人が行った東京と岡山の一人二役トリックもほぼありません。

「死仮面」のネタバレ

「あいつらはなかなかうまくやったんですが、ただひとつ大きなヘマをやらかした。それはね、この金田一耕助というメイ探偵を、事件の中に巻き込もうとしたことです。あいつらはね、できるだけボンクラ探偵を連れてきて、そいつの証言で、犯人はあくまで君子さんのために復讐しようとしている、野口慎吾という気ちがい画家だということにしようしたんです。そこでどこかに頭の悪い、薄野呂の、ボンクラ探偵はいないものかと物色したあげく白羽の矢を立てたのがこのぼくだったんですよ。ところがこの金田一先生たるや、あいつらが考えているほどボンクラじゃなかった。つまりあいつらは、まんまと飼い犬に手をかまれたというわけですな。あっはっはっ!」

死仮面 P148~149

※※※「本陣殺人事件」「獄門島」「八つ墓村」といったでかい事件を解決した後の話です※※※

「死仮面」の犯人

川島夏代を心臓発作で事故死にみせかけて殺し、白井澄子を絞殺しようとした犯人は川島圭介と上野里枝です。川島学園寄宿舎に現れた「跛の男」は二人一役で演じていて、圭介が怪我したときは里枝が跛の男を演じています。遺言状が公開され全財産が白井澄子に相続されることになった夜、二人は彼女の住む寄宿舎を火事にして澄子の頭を風呂敷で包んで首を絞めて殺そうとしますが刑事に捕まり未遂に終わります。

そして行方不明の山内君子を殺したのは川島夏代です。君子をあやまって殺した夏代は彼女の死体の隠し場所に窮し、死体を完成間近の川島学園の春子刀自銅像のコンクリート台に押し込んで隠します。しかしその死体が発見されないか気になって気になって仕方ない夏代は無意識に夢遊病を発し、完成した春子刀自の銅像の周囲を回るのです。

「死仮面」の犯人の動機

夏代の養子になった圭介と夏代の異父妹・里枝は恋人同士だが、その事実を夏代に知られてしまった。夏代は圭介と里枝の恋仲を許さず、圭介の養子縁組を取り消そうと考えた事がきっかけ。里枝は夏代が、自分が生んだ落し子の澄子に甘かったことに対して血を分けた妹である自分たちに辛く当たり苛めたことで憎悪が芽生えました。

君子殺害が里枝と圭介にバレると二人は夏代をじわじわと追い詰めるため、デスマスクや野口という架空の存在を作って心臓が弱い夏代を翻弄するのでした。

「死仮面(デスマスク)」の正体

川島夏代および岡山県警に元に送られたデスマスクの正体は、山内君子です。彼女のデスマスクの作成元は川島学園地下室であり、野口慎吾の告白状の通り岡山のマーケットではありません。
そもそも野口慎吾という美術商は架空の存在で犯人の川島圭介が演じた一人二役です。圭介は7月~9月に明石で開かれた高校の講習会に参加しています。講習会は3日講習、4日休みのスケジュールになっていて、明石~岡山までは日帰りで移動できる距離。圭介は休みの期間は下宿先を後にして岡山で野口を演じていました。野口と生活していた女は最初から存在せず、死体は公園から拾ってきたホームレスの女です。

君子は3ヶ月近く逃亡し職を転々とした末、母親や姉が気になって戻ってきました。そのとき夏代に捕まり彼女から拷問に近い折檻を受け続けた末についに死んでしまいます。拷問した地下がペンキ塗りたてで、君子の死体がぶれて彼女の死に顔がペンキの床に張り付きデスマスクとなったのです。

「上海氏の蒐集品」

昭和三十三年頃、この地域に住み着いた画家の上海太郎氏。年を重ねる事に様変わりしていく地域に心を痛めつつ空虚な日々を過ごしている。ひょんなことから出会った近くの村の少女、古池亜紀と交流を深めていき、彼女の両親の物寂しい話しを知っていく。古池亜紀の成長を見守る。金田一耕助が登場せず、上海太郎氏の視線で物事が進んでいく。

登場人物作中での活躍
上海太郎画家。蒐集品を持っている。終戦後陸戦病院で目覚める以前の記憶が一切無い。
小説家名前は不明。上海氏の面倒を見ている。
古池亜紀上海氏と親しくなる少女
古池信太郎亜紀の父。戦争で亡くなっている。類と結婚後も三人以上の浮気相手がいた
古池類亜紀の母。信太郎を憎み彼の写真や絵画を焼いてしまっている。複数の男と関係を持つ。最初の被害者
現場監督古池亜紀の愛人。地域の工事担当。
保険勧誘員古池類の愛人。二十歳以上年が離れている。二人目の被害者。

昭和33年頃の高度成長期、父親を知らない少女と、愛人を連れ込む母親、団地に用地買収など、金田一シリーズでは「白と黒」「病院坂の首縊りの家」ぐらいしか見かけない昭和中期の話が出てきます。林が切り倒されて団地に変わっていく寂寥感、物寂しさを味わえます。読了後の清涼感は人に寄りますが、私はうーんとなってしまって感じませんでした。もやもやとしたやりきれなさを感じます。亜紀の完全一人勝ちだし。

「上海氏の蒐集品」の犯人

古池類とその愛人・保険勧誘員を殺害したのは古池亜紀です。そして彼女に頼まれた愛人の現場監督がアリバイ工作を行います。そして上海太郎氏は一連の行動を見ていて現場監督ともみ合った結果、鉄筋タワーに身体をぶつけ、落下した巨大なバケツに身体が飲み込まれて骨が砕け死んでしまいます。
後に、その現場監督も別の建築現場で足を滑らして転落死してしまいました。

現場監督と古池亜紀は愛人の関係で、亜紀に頼まれて類とその愛人の保険勧誘員を殺して金品を奪い、勧誘員の死体を地中に埋めて犯人に仕向けます。そして死体の上にコンクリートのビルが建つことで、警察は保険勧誘員の影を追い続けるよう仕向ける予定でした。上海太郎は亜紀からの誘いを断りましたがもし誘いに乗っていれば現場監督の位置に自分がいただろう、だから彼を止めなくてはいけないと考えたのです。
天涯孤独になった亜紀ですが、父親のいとこに引き取られ、有名な大学に入ります。

「上海氏の蒐集品」の犯人の動機

自分が自由になるためには母親を殺すしかないと考えたため。上海太郎は亜紀の事を思い、彼女を庇おうとしました。

上海太郎は記憶喪失ですが、おそらく戦死した古池信太郎では無いかと示唆されています。彼の面倒を見ていた小説家が上海太郎の形見で受け取った絵馬に手形と25歳未年と書かれていて、上海太郎氏の指紋と確認すれば一致すると記載。古池信太郎は召集された時25歳で羊年でした。もし亜紀の誘いに乗っていたら、近親相姦ルートでしたね。危ない危ない。

「死仮面」のまとめ

「死仮面」は金田一耕助シリーズでは珍しく希望に満ちた終わり方になります。スキャンダル連発で学園の名誉は地に落ちたも同然ですが、澄子たちがきっと直せるだろうと。でもこの死仮面のきっかけというか全ての元凶は川島夏代なので仕方ないといえばそうなのですが。そろそろ感想記事も多くなってきたので、時系列順に並べてみたいですね。

画像はこちらよりお借りしました

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