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【ネタバレあり】横溝正史・金田一シリーズ!短編集「七つの仮面」を紹介

七つの仮面は金田一耕助の短編集のなかでも最も数が多く、7作品が収録されています。「七つの仮面」「猫館」「雌蛭」「日時計の中の女」「猟奇の始末書」「蝙蝠男」「薔薇の別荘」です。表題作が「7」だから収録作品もそれに合わせたとか? いやいやそんな……ねえ?

ちなみにどの作品も単独での映像化には恵まれませんでしたが、「雌蛭」のみJET先生作画の漫画があります(「悪魔が来たりて笛を吹く」に収録)。名探偵・金田一耕助シリーズで「薔薇の別荘」は「神楽太夫」と一緒に『悪魔の仮面』として、「雌蛭」は「蝋美人」と一緒に『白蝋の死美人』として合体してドラマ化しているからです。

ゆきんこ

あとどの作品も犯人解明解決が一瞬で笑う

目次

七つの仮面

私が聖女ですって? 娼婦に成り下がった、それも殺人犯の烙印を押されたこの私が……?
気品に満ち、美しく清らかだったミッション・スクール時代。確かに聖女と呼ばれるにふさわしい時期もあったーーーだが、醜い上級生りん子に迫られて結んだ忌まわしい関係が私の一生狂わせた。卒業後も執拗に付きまとう、りん子。やがて、あの恐ろしい事件が……!!
表題作ほか六篇を収録した傑作事件ファイル

あらすじより

短編集では時々見かける手記タイプの話です。「聖女」と呼ばれた女性・美沙が綴る彼女の周りで怒った忌まわしい事件。金田一が出てくるタイミングが「そこかい!」と思いました。なんで貴方そこにいるんだ。
最後の行動で「えーーーー!?」となりました。

登場人物作中での活躍
金田一耕助私立探偵
美沙聖女と呼ばれた女性。彼女の手記で話が進む。様々な男と関係を結んだ。
山内りん子美沙に執着する女性。高校時代、美沙と一夜を超えて以来彼女と関係を持つ。服毒自殺する
江口万蔵著名な彫刻家。美沙の顔をモデルにした彫刻『聖女の首』をつくって出展する。美沙と関係を持つ
中林良吉美沙に誘われて関係を結んだ男。だが見合いの女性と結婚した。
伊東慎策美沙に誘われて関係を結んだ男。転落死する。

話の途中で、江口万蔵がとあるものを作成していた事を知り怒り狂った美沙に殺害されます。そのまま逮捕されて裁判になりますが、中林の擁護や弁護士の言葉で万蔵の奸智に利用された哀れな女性と情状酌量の余地があると判断されて、執行猶予付きで刑務所に入ります。出てきた彼女ですが、前科持ちの彼女を雇ってくれるところもなく、また様々な人間に仕込まれた体故に、美沙は娼婦になったのです。

七つの仮面の犯人

伊東慎策をマンションから突き落とした犯人は山内りん子です。そして山内りん子を服毒自殺に見せかけて殺したのは美沙です。美沙は全てを手記にとどめると、首を吊ります。

表題の七つの仮面は、万蔵が美沙の顔をモデルに作った彫刻「聖女の首」他「接吻する聖女」「抱擁する聖女」「法悦する聖女」「悪巧みする聖女」「血塗られた聖女」「縊れたる聖女」のことです。それは寝所の行為の時を含めた彼女のあらゆる表情に近く、コレを見た美沙は万蔵に対して殺意を抱き、帰ってきた彼をナイフで殺したのでした。

七つの仮面の犯人の動機

りん子が伊東を殺したのは動機は、美沙を庇うためです。高校時代から美沙に狂信的愛情をもち、盲目信者になっている彼女は美沙の為なら何でもやります。美沙がマンションの玄関に降りた所で、伊東を突き落とします。

りん子の盲目かつ犠牲的行為に美沙は感謝どころか彼女に対して恐怖します。そして彼女を生かしておけぬと確信し、りん子と一緒に自殺をしましょうと誘います。そして彼女のみを殺して密室トリックを作って部屋から逃げます。

猫館

日暮里の目と鼻の先の上にある古館「猫館」でおこった事件。戦前では写真館だったその館は戦後様々な噂をもつ、妖しげな屋敷となっている。その館には三年前から「ドクトルハマコ」という名札が貼られていて、なんと猫が十二匹も住んでいた。ちなみに昭和三十五年設定なので、病院坂の首縊りの家の生首風鈴事件(昭和二十八年)より後の事件である。

登場人物作中での活躍
金田一耕助私立探偵
ドクトル・ハマコ(本名:賀川波満子)女占い師。最初の被害者。奇妙な状態で発見される。
黒猫唯一殺害されている猫。
糟谷天民山陽寺の住職で山陽幼稚園の園長で猫館の大家
古谷磯吉戦前の館の持ち主。卑猥な写真館をやっていたが、裸パーティの最中死亡。
佐藤阿津子ドクトル・ハマコの内弟子。事件後行方不明。三人目の被害者。
辻本咲子ハマコの下女。二人目の被害者。
佐伯幸造ハマコの身元保証人。保守党の議員。一年前に死亡している。
上条恒樹猫館の裏のアトリエに住む絵師。妻とハマコに交流があった。
松崎喜美子山陽幼稚園の保母

「ところでこの家はずうっと昔からあなたの家でしたか」
この質問は金田一耕助から出されたものである。金田一耕助もこの質問のなかにあのような重大な意味が秘められていようとは、そのとき夢にも気づけなかった。

猫館 P82
猫館の犯人

犯人は松崎喜美子です。行方不明だった佐藤阿津子の遺体が山陽寺の落ち葉溜めから見つかった直後、彼女は服毒自殺をします。女性一人で人間一人を運ぶのは難しいため、糟谷が手を貸した可能性が高いものの、全く無関係の下女の老婆の辻本まで殺害しているのを見て、憐憫の気持ちも消え失せたとされます。

猫館の犯人の動機

喜美子は遺書を残さなかったため、動機は彼女以外の関係者の言葉から推測されます。猫館の元々の持ち主の古谷磯吉が残した女性の卑猥な写真を元に、ハマコが喜美子を揺すっていた為、彼女を殺さなければ自分は一生柚須されると思ったから。

上条がまだシベリア抑留されている昭和二十五年頃、妻の冴子は解放感から古谷磯吉主催の秘密パーティに参加していました。ただ古谷が頓死した昭和二十六年、同時に上条も戻ってきたのでパーティの件は秘密になりました。しかし古谷はパーティに参加した女性の卑猥な写真を撮り、揺すりのタネにするつもりでした。その写真を賀川波満子が発見し、写真の主の冴子を見つけて揺すり、冴子は自殺します。そして喜美子もそのパーティに引き込まれ、知らぬうちに写真を撮られて賀川波満子に揺すられていたのでは、と。

ただ自殺した喜美子の部屋で女性の写真が一緒に焼かれていたため、彼女が新たな脅迫者になる可能性も高かったのです。

雌蛭

金田一耕助が洋服に変装する&多門が登場する!!!!!!
これだけでも珍しい短編です。あと名前が六平太なのはまだ設定が固まっていなかったからかな、と。

登場人物作中での活躍
金田一耕助私立探偵。今回洋装で変装する
多門六平太クラブ「K・K・K」の用心棒。金田一に傾倒する前科有りの男。君はもっと出番があってもいい
立花慎二流行作家。全身を硫酸で覆われている。最初の被害者。サディスト。
河野健太昌子の愛人。現場からあるものを盗む
立花昌子慎二の妻。先月入籍。二人目の被害者。
立花繁子昌子の妹。実は殺されている
田辺泰子立花の前妻で金田一にハンディバッグを撮ってきてほしいと依頼した女性。三人目の被害者
雌蛭の犯人

立花慎二・立花繁子・田辺泰子の三人を殺した犯人は立花昌子です。昌子は自分の身代わりに何の関係もない妹の繁子を立花と一緒に殺しています。泰子は別れた立花の手紙によって呼び出された時、あの凄惨な現場を見て逃げ出したときにハンディバッグを部屋に忘れたことに気がつき、金田一にとってきてほしいと依頼します。ですがその直後に昌子に殺されてしまいました。

そして殺した泰子を埋める作業を河野が行い、昌子が見張っていましたが多門が後ろから河野を羽交い締めにしたのち、突き落とします。昌子は河野を助けようとするも失敗し逃亡しますが捕まります。なお昌子は泰子を埋めた後は河野も殺す予定だった模様。

雌蛭の犯人の動機

立花慎二の遺産です。また立花が自分の蛭のような性格に嫌気が差して、かつての先妻・泰子とよりを戻すと言ったことで女としての魅力で泰子に負けたと嫉妬と憎悪をたぎらせました。ベッドで殺した後、わざわざ硫酸を全身や局部にかけたのはその為です。

最初の硫酸死体を見た河野が、あれは昌子ではないと気づいたのは肉体関係をもつ人間ならわかる特徴が女性の方になかったため、昌子ではないと見破ったからです。

「雌蛭」はココに収録!

日時計の中の女

「猫館」のような、以前は誰かの持ち主だった屋敷を巡ってのお話です。金田一にはサドマゾ夫婦が多い気がする。
改築のため目立つ日時計を移そうと、鳶職人たちが丁寧にゴミなどを除去していたところ、人間の髪の毛が絡まり一人の鳶職人が悲鳴を上げた。そして詰め物を除去して外すと、中からミイラ化した女性の死体がでてきたというもの。

登場人物作中での活躍
金田一耕助私立探偵
田代啓子(旧姓:堀)ミイラ発見後、自分が狙われているノイローゼにかかってしまう。田代の糟糠の妻。自殺する。
田代裕三大ベストセラー売れっ子作家
松並可南子啓子の友人で田代裕三の従姉妹
堀晶子啓子の一番下の妹。金田一に「姉の言うことはくれぐれも信用するな」という。今回の被害者。
神保晴久この館の以前の持ち主。大地主の次男で道楽で絵描きをしていた。サディスト。
鶴代神保晴久の正妻
須藤珠子晴久のサド精神を満足させた女性。三ヶ月後めぼしい宝を持ち脱げする。日時計から発見されたミイラ。
井出田代夫婦の住む館のお手伝い。この土地に詳しい
日時計の中の女の犯人

晶子を殺した犯人は啓子です。ただし彼女は遺書を残さず自殺しました。「間違い殺人事件を演出するつもりで間違って妹さんを殺してしまったのではないか」とは金田一の言葉です。ただ作中でも何故晶子が殺害されたのか謎のままで、晶子も裕三の妻の座を内心狙っていたのではないか可能性がある、という事で終わります。

日時計の中のミイラに関しては、戦前の事件の事なので全く無関係というかカモフラージュにされました。啓子は本来可南子を殺すつもりで、犯人は自分と間違って可南子を殺したと伏線を張っていました。

日時計の中の女の犯人の動機

動機はミイラが見つかってから啓子が強いノイローゼにかかり、かつ裕三と可南子の関係を男女関係でいつか自分の妻の座を奪ったり、二人で共謀して自分を殺害するのではないかと強迫観念を持ち怪しんだことにあります。しかし裕三の作品のアイディアの多くが可南子のものであり(そこから肉付けするのは裕三の役目)、彼がプライドからそれを誰にも言わなかった事で関係がこじれてしまったのです。

猟奇の始末書

先輩の三井に誘われて彼の別荘にやってきた金田一。そこは男女の逢い引きでも有名な洞窟があり、そこでいちゃつかれるのがかなわないから今度起きたらこの矢で脅してやると三井は弟子に話していました。望遠鏡で覗けばボートには招待していない女性・堀口タマキが矢で射貫かれて死体となっていました。
過去があまりわからない……というか、友人知人が殆どいない金田一の数少ない先輩の話です。

登場人物作中での活躍
金田一耕助私立探偵。
三井参吾洋画家。実家は金持ちで別荘を建てる
堀口タマキナイトクラブで働く女性。三井の愛人。今回の被害者。
坂巻潤子ナイトクラブで働く女性。
小坂一枝達三の妻。
小坂達三金田一の先輩で三井の同窓。私立大学の助教授
可南三井の死んだ妻
猟奇の始末書の犯人

犯人は小坂達三です。彼は金田一に遺書に近い手紙を送ると、ボートの上で妻と共に矢で自殺します。

タイトルの割にそこまで猟奇的ではないんだよなあ

猟奇の始末書の犯人の動機

妻の一枝を奪われた達三による三井への復讐です。三井は妻が死んだ後(もしかしたら生前からの可能性もあり)一枝と密かに通じていてかつ本気でした。その関係のカモフラージュにタマキが選ばれていました。

蝙蝠男

緑が丘付近で起きた事件です。受験勉強中の高校生原口由紀子の視点を中心に。由紀子の窓からは日月荘というアパートの窓が見えるため、気晴らしにアパートの窓を見ることも。由紀子の位置からはとある女性の部屋が見えますが、どういった女性なのかわかりません。しかしある日謎の蝙蝠男によってその部屋の女性が殺されてしまいます。その一部始終を由紀子は目撃していました。

登場人物作中での活躍
金田一耕助私立探偵。
原口由紀子受験を控えた高校三年生。蝙蝠男の殺人を目撃する
リリー梅本日月荘に住むストリッパー。今回の被害者。
坂崎卓造ナイトクラブ・ローズマリーの支配人。リリーのパトロンの一人
波野圭市銀座の宝飾店ナミノの主人。リリーのパトロンの一人
吉野隆吉上原産業の重役。リリーのパトロンの一人
白井克子日月荘に住む女流デザイナー
蝙蝠男由紀子が目撃した男。リリー梅本を殺害する
蝙蝠男の犯人

リリー梅本を殺したのは坂崎卓造と白井克子です。坂崎はリリーに会いに日月荘に出入りするうちに白井と懇ろな関係になっていました。

リリーは彼女の部屋で殺されたのではなく、ローズマリーの支配人部屋のベッドの中で殺されました。由紀子がみた蝙蝠男による殺害は白井がマネキン相手に演じた一人芝居であり、由紀子が目撃するのも織り込み済みでした。

蝙蝠男の犯人の動機

ローズマリーが麻薬密売の中継地点になっているのをリリーに知られて坂崎が揺すられたからです。ただどうして坂崎と白井の共犯関係に金田一が気づいたのかは謎とされています。

薔薇の別荘

戦後の女傑・吉村鶴子によって集められた彼女の親戚たち。鶴子には子供がいないため、もし彼女がなくなれば遺産はどうなるのかが問題視されていた。そのメンバーには金田一もいた。しかし主催の鶴子がいつになっても登場しないため、加藤朝彦と堀口三枝子は彼女の部屋に迎えにいく。鍵穴から覗いた部屋では吉村鶴子が倒れていた。

登場人物作中での活躍
金田一耕助私立探偵。
吉村鶴子薔薇の別荘に住む戦後の女傑。糖尿病とリュウマチで車椅子生活を送る。子供がいない。今回の被害者。
堀口三枝子鶴子の女秘書。元キャバレーダンサー。自分の死んだ父親が鶴子の最初の旦那で、本人の知らないところで養女になった
加藤朝彦鶴子の妹の忘れ形見。本邸に住む。
浅井みゆき鶴子の妹の忘れ形見。本邸に住む。
杉本隆吉鶴子の腹心の部下で事業を代行している。鶴子と愛人関係にあった
戸田達蔵鶴子の亡夫の兄。
古河幸子鶴子の亡夫の姉。達吉という旦那がいる。
川辺千代子鶴子の亡夫の姉。良介という旦那がいる
小森峯子戦前から鶴子に仕えている女性。別荘の管理を任されている
鍋井賢蔵鶴子の顧問弁護士
児玉健鶴子の手紙で呼び出された青年。鶴子の落とし子。
薔薇の別荘の犯人

吉村鶴子を殺害したのは加藤朝彦、そして小森峯子です。小森は糖尿病患者の鶴子にインシュリンを注射して昏倒させた後、鶴子と同じガウンや格好をして顔を見せないように倒れます。驚いた三枝子が鍵を取りに行っている間に、昏倒した彼女を朝彦が絞殺します。

薔薇の別荘の犯人の動機

動機は吉村鶴子の遺産目当てでしょう。また小森は以前鶴子の心情を害してクビになるところを詫び状を書いてなんとか回避しています。その事で恨みつらみがたまっていたのかもしれません。

朝彦は三枝子が鶴子の養女になったことや児玉健の存在を知らなかったため、ほぼほぼ無意味な殺人だと称されています。

七つの仮面のまとめ

とても読みやすい短編集ばかりでしたが、事件解決が由利先生なみのハイスピードでびっくりしました。この短編集で好きなのは雌蛭ですが、展開も含めて面白かったのは表題作の七つの仮面です。あと猟奇の始末書はタイトル負けしてると思いますし、猫館はそのタイトルの割に内容がヘビーでした。薔薇の別荘、救いがあってよかったなあ。

短編集はこちらから

今回も画像はこちらよりお借りしました

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