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【ネタバレあり】横溝正史・戦前シリーズ!長編「真珠郎」を紹介

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横溝正史先生は戦前・戦後と活躍された作家です。戦後は金田一耕助の作品が当たったためか、そちらの事件を多く書いておりましたが、戦前では別の探偵、由利先生シリーズを書いていました。吉川晃司氏主演で一度ドラマ化していました。このメンツで真珠郎見たかったな~~~~~~~~~!!!!!!!!!でも原作を忠実に再現すると由利先生の出番全体の五分の一になるし
わりと混乱しがちなのですが「蝶々殺人事件」「真珠郎」は由利先生シリーズです。そして「仮面劇場」も由利先生……というか、三津木くんシリーズ。

「真珠郎」は3回ほど実写ドラマ化していますが、全て金田一耕助モノにすげ替えられています(横溝先生の許可あり)。椎名や由利先生の立ち位置をまるっと金田一にするケースや由利先生の立ち回りを金田一にするなど様々です。椎名の下の名前が「椎名耕助」なので名前を変えられていることも。ただ一番最初に古谷一行さん主演でドラマ化した「真珠郎」は狂気と妖艶が入り交じった作風を再現しているため、個人的におすすめです。みんなのトラウマ。

ゆきんこ

表題作以外では「蜘蛛と百合」「薔薇と鬱金香」「炮烙の刑」を紹介しています。

仮面武闘会は仮面舞踏会ですね
目次

「真珠郎」のあらすじ

私、椎名耕助は、大学の同僚・乙骨三四郎とともに避暑を兼ねて信州へ旅行することになった。だが、N湖畔に立つ鵜藤家の一室を借りた私たちが、そこで恐るべき殺人事件に巻き込まれることになろうとは!「悪」そのものを結晶化したような美少年・真珠郎。
「血の雨が降る」と不気味な予言を口にする謎の老婆。巨匠・横溝正史が耽美的作風の頂点を極めた戦前の代表長編『真珠郎』登場!
他に由利・三津木コンビが活躍する「蜘蛛と百合」「薔薇と鬱金香」「首吊船」「炮烙の刑」の四編を収録した怪奇ミステリ傑作編!

あらすじより

ドラマによっては下記の登場人物が大きく変わっていることがあります。特に一番最後に実写化した「神隠し真珠郎」にいたってはオリジナルキャラが半数を占めていたり何故か岡山だったりで原作改変が酷い。いや誰だよお前ら。

登場人物作中での活躍
由利麟太郎(由利先生)私立探偵
志賀司法主任警察担当
椎名耕助X大学の講師。乙骨と一緒にN湖畔にいってから連続殺人事件に出くわす。彼がメイン。
乙骨三四郎X大学の講師。椎名の知人でN湖畔に旅行に出かける。由美を妻にする。三番目の被害者
鵜藤鵜藤家主人。半身不随。最初の被害者。真珠郎を作り、由美を壊した元凶。
鵜藤由美鵜藤氏の姪。美人。鵜藤の死後は乙骨と結婚する。二番目の被害者。
老婆N湖畔にきた椎名達を追い払おうとした老婆。真珠郎の実母(山窩の女)。四番目の被害者。
真珠郎椎名達が出会った美少年。悪の塊とされ動物の首を切るのが趣味。一連の事件の犯人とされている。実際は椎名達と出会う前に死んでいる。人間バチルス。
降旗伊那子真珠郎の異母妹。白痴。腕に北海道の痣がある。乙骨夫婦に利用されて身代わりで殺される

はじまりは大学講師の仕事で疲れていた椎名が空を見上げ雲を「ヨカナーンの首」だと思ったことからです。同大学の別講師の乙骨に肩を叩かれ我に返った椎名は「雲を見ていた。あの雲はヨカナーンの首に見えないか」と乙骨に尋ねると、乙骨は「僕はらくだに見えますよ」と冗談交じりに返します。これが全ての始まりだったとは知らずに。
数日後乙骨は椎名に声をかけ、避暑でN湖畔にいかないかと誘います。涼しい場所なら執筆もはかどるでしょうと。乙骨に段取りをお願いしたのち、二人は温泉を楽しみKという宿場町で羽を休めました。その後見知らぬ男にNにきませんか、と誘われまた別の男からN湖畔で泊まる場所を貸し出ししたいと言うので、そちらに向かうことに。泊まる場所は鵜藤という元医者の中年の男と、彼の姪の由美だけがいる元妓楼の春興楼です。

Nに向かう乗り合い自動車に乗り込むと途中で怪しげな老婆に出会います。その老婆はNに向かうな血の雨が降ると終始わめき散らします。運転手も車掌も彼女を知っているようで「Nに住む害はない女だ」と言っていました。そして目的地についた椎名は湖畔で美しい天女のような女性を目にします。彼女が鵜藤由美でした。

最初の被害者

春興楼の内部を案内してもらったり、この屋敷の妓楼時代の伝説と聞いていた椎名と乙骨は夜、柳の下で妖艶でおぞましい美しさの美少年の姿を見ます。翌朝、鵜藤氏と食事をとっているときに美少年の話をすると、鵜藤氏は唖然とした顔になり馬鹿な、馬鹿なと呟いてました。由美が身振り手振りでこの話はここまでにしてほしいというので打ち切った後、椎名はこの美少年はこの一家においては禁忌の存在だと感じます。

乙骨たちと湖でボート遊泳をしていると突如天の災害が。水が荒れ椎名達はボートにしがみつき旋回しながらなんとか安定を保ちます。やれやれと安心した矢先、春興楼の展望台に鵜藤氏と美少年の姿が見えました。鵜藤氏は不自由ながらも椎名達に助けを求めていますが、声が届かず椎名たちは見つめるばかりです。椎名がよく見れば鵜藤氏は頭から血が流れているのが見えたので助けに行こうとすると再び地響きが。展望台から屋根に鵜藤氏の体が転がり、美少年も後を追います。そして持っていた刀で腹ばいで藻掻いていた鵜藤氏の首を背後から落とし、彼の体は屋根から落ちて雑草に隠れました。展望台を覗いた由美にもその刃は向き、彼女の髪を掴んで引っ張っていったのです。

ボートから春興楼に戻った椎名と乙骨は倒れている由美を発見します。断髪されて肩に傷がありますが命に別状はありません。乙骨の指示で救急キットを取りに向かうとき、由美が意識を取り戻します。そして彼女は「ああ、真珠郎!」と叫びます。由美は泣きながらも鵜藤氏を探すといい、三人で鵜藤氏の体が落ちた場所を見るもそこは血だまりが残っていました。ただ引きずった後があるので真珠郎がその体を引きずってどこかに持ち去ったと考えます。

引きずった先の丘に向かう途中で老婆に遭遇します。由美は老婆にこれまでの経緯を説明し、真珠郎と鵜藤氏を見なかったかと聞けば老婆は見たといって逃げ水の洞窟を指さします。そして鵜藤氏は生きていないと由美に言います(そりゃそうだ)。洞窟は入り組んでいて入り口は二つ。提灯を持ってくると乙骨・老婆と椎名・由美の二チームに分かれて洞窟を進みます。途中で乙骨の浴衣が見え、彼が土に倒れているのを発見します。乙骨を起こす前に由美が悲鳴を上げました。提灯の明かりの先には首のない鵜藤氏の体が水に突っこむように倒れていたからです。
直後気味の悪い声が洞窟内に響き、老婆がボートでやってきます。椎名は老婆に話を聞こうとしますがぎょっとして本能的に離れます。その老婆の顔は真珠郎だったのです。

ボートで笑っていた真珠郎はふと無表情になると、丸い物体を取り出して椎名たちに見せます。由美はショックのあまり、それが何かわかる前に気を失ってしまいました。椎名は意を決して真珠郎が見せた物体を見ると、それは鵜藤氏の首でした。真珠郎は鵜藤氏の首をぐるぐると回した後、飽きたようにそれを水に捨ててしまいます。そして椎名達をおいてボートでどこかに向かいました。由美が起きたので乙骨を見るとまだ息はあるので担いでボートに乗って入り口に戻ります。鵜藤氏の体は後日誰かにお願いしようと決めたのですが、外は豪雨でした。

意識を取り戻した乙骨は椎名たちから事情を聞きます。椎名は由美に後を任せて豪雨のなか鵜藤氏の体を見に行きますが、その途中で彼らを春興楼に誘った男、織本に出会います。椎名は織本に事情を手身近に話すと駐在に行ってほしいと依頼して、一端戻るとそこでは乙骨と由美がイチャついていました。乙骨曰くもともと好き合っている仲で婚約もしていると弁明します。

真珠郎日記

椎名は由美に真珠郎について尋ねます。由美は二人を真っ黒い牢獄のような蔵に案内しています。見るだけでうっと気分が滅入る蔵に、真珠郎は生まれてからずっと監禁されここで育っていました。社会性や道徳、規律から切り離され一切の「悪」の教育を施され、愛や善とはほど遠い憎悪・呪詛・復讐・残虐・陰謀と行った負の感情のみで育ったのが真珠郎だと彼女は言います。この蔵を作ったのは鵜藤氏であり、彼は真珠郎を気狂いのように育てて世間に復讐するつもりだったとも。真珠郎の両親は代々発狂者と殺人者を出し続けた旧家の父親と手癖が悪く無節操な山窩の母親でした。

鵜藤氏が世間に復讐すると決めたのは、世間から苛烈なバッシングを受けたからです。由美の話では鵜藤氏は20年前、医科大学に勤めていましたが恩師の細君と不倫の関係になっていました。恩師の教授は愛する妻と別れ、鵜藤氏に妻を渡します。しかし鵜藤氏はサディスティックの性癖を持ち、妻を甚振り尽くしたため耐えきれなくなった妻は自殺しました。彼女が自殺した事を知った恩師も後を追って自殺します。これに世間が大激怒し、鵜藤氏は相応の非難を受け、地位も名誉も剥奪されて湖畔に押し込まれました。明らかに自業自得なんですがね。鵜藤氏は世間への憎悪をもち「人間バチルス」「人間ペスト菌」を作って復讐しようと企みます。それが真珠郎です。由美は椎名に「真珠郎日記」という鵜藤氏が真珠郎の成長を細かに書き続けた日記を見せました。その日記は数十冊もあるのです。

嵐が収まった翌日、警察は春興楼に駆けつけます。警察の捜査にかかわらず、真珠郎の行方もわかりません。なにより鵜藤氏の胴体は事件が解決した後も最後まで発見されませんでした。警察は鵜藤氏が残した真珠郎日記を見て唖然とした模様。由美がくるまで鵜藤氏に仕えていた「じいや」が真珠郎の生まれについて語ります。そしてじいやは真珠郎が鵜藤氏を殺したを知ると、そういう風に旦那様(=鵜藤氏)が真珠郎に教え込んだのでしょうとおびえていました。

椎名は帰京することを決めますが、乙骨はこの春興楼に残ると話します。由美一人では大変だろうからと。警察の指揮を執る志賀司法主任と挨拶しつつ事件について話します。水が溢れていて洞窟を捜索するのは難しいと話しながら、警察は重要参考人の老婆の行方を捜しています。直後、警察数人で山から下りてきた老婆を捕まえて連れてきますが、椎名はこの老婆と初めて会ったと話します。最初の自動車のとき、丘で出会ったとき、その両方ともこの老婆は顔が違い、身長も違うと。
由美は椎名を呼び止めて二人っきりで話そうと提案します。椎名は色々話していくうちに由美が乙骨に恐れを抱いているのではないか、自分ではダメなのか、まだ間に合うと伝えます。堰を切るように由美に告白する椎名ですが乙骨をsageたために彼と婚約した由美は激怒。話を中断して「貴方を見送るのはやめます、いずれ東京で会えますわね」と皮肉を言いつつ去ってしまいました。

N湖畔での事件を知っているX大学の同僚は皆気を遣ったり元気づけようと椎名に色々話します。乙骨が由美を娶り辞表を出したことも知られていました。椎名は定期的に乙骨や由美に手紙を出していましたが、乙骨からの返事があるのに対して由美の返事がありませんでした。そして二人が東京の吉相時に引っ越してきて通知が遅れて済まないという手紙が届きます。憂鬱で寂寥感に苛まれている椎名は、会合を自動車で帰ったところ、真珠郎の姿を見ます。驚きのあまりクッションから体が飛び跳ねたほどです。椎名は運転手に何か告げていましたが最終的に真珠郎の姿を見失ってしまいました。

東京での目撃

明日は必ず乙骨たちの吉祥寺に行こうと決心する椎名ですが、乙骨が痺れを切らして椎名に会いに来ました。新婚生活を満喫しているとおもいきや乙骨はどこか疲れている様子で、その原因が椎名にあると話します。またあくる日、椎名は大学で電話を受け由美より銀座のS堂にいるから会いませんかと誘われます。2ヶ月ぶりに出会った由美は少々やつれていて肌も荒れていました。由美に寄れば椎名は満州で仕事を立ち上げるみたいだから忙しい模様。由美は真珠郎を映画館で見たと話して椎名と一緒に映画館に向かいます。外国選手を歓迎するニュース映画の写真に、乙骨夫妻が写っていました。そして乙骨と由美を見るように後ろに真珠郎がいました。椎名は以前自分が真珠郎を見たことも告げます。そして真珠郎が東京にいて自分達をロックオンしている事実を受け止めた椎名は、由美からも「夜は一人で歩かないように」「知らない人の誘いに乗らないように」と忠告を受け、約束してほしいというので約束します。

椎名の家に何度か訪問する壮年の紳士がいました。何故か彼が来る頃椎名は留守で、嫂(あによめ)が応対していました。その紳士は白髪で七十歳かとおもいきや四十代と話します。由美との約束を思い出した椎名は知らない人とは会わないようにしてるんです、と冗談交じりに話しました。その紳士は話したいことがあるから椎名に直接話したいと言っていて、またもや椎名がいないときに訪れます。彼はこれから信州に向かうとのことで嫂に名刺を渡しました。その名刺には「由利麟太郎」とありました。

二人目の被害者

クリスマス、椎名は乙骨夫婦に招待されてパーティを楽しみました。椎名も乙骨も酒を初めて飲んだためか、酒に酔ってゲロってしまい椎名は泊まることに。座敷ではなく洋室書斎の床に蒲団を引いて寝た椎名は深夜、喉の渇きとずどんという音で目を覚まします。何もないので落ちついた所、絹を裂くような由美の悲鳴が聞こえます。椎名は飛び起き、ドアに突進しましたがドアに鍵がかかっている事に気がつきます。彼は由美と乙骨の名を呼びながら必死にドアにタックルをかましますがびくともしません。由美の悲鳴や物を投げる音、足音が聞こえます。

鍵穴を覗くと真っ赤に染まった真珠郎が由美を掴んでいるところでした。由美の表情は恐怖で歪んでいて、椎名は一刻も早く助けなければと部屋を見ますが、この部屋は鉄格子がはめられて窓から出られません。鍵穴から見える由美と真珠郎から目を離さず、由美は乙骨の名前を呼び続けます。椎名の声に気がついた由美はよろけながら洋室に向かってきますが、真珠郎が彼女の肩を掴んで放り投げます。転がった由美は座敷のほうに向かいますが、真珠郎によって後ろから刺され、絶命します。真珠郎は絶命した由美の体を引きずって庭からどこかに行ってしまいました。

茫然自失状態の椎名でしたが理性を取り戻し、洋室から脱出しようと悪戦苦闘します。椅子で殴っても椅子が壊れる頑丈な扉。窓の鉄格子の片割れがぐらついているのでなんとかこれを外して、外に出ました。椎名が見た乙骨家はあまりにも酷い有様でした。座敷は血まみれで乙骨も倒れていますが死んではいません。洞窟の時といい悪運強すぎですね。
椎名は隣家の瀬川弁護士に事情を説明して由美と真珠郎を探しに行きたいので付いてきてほしいとお願いします。瀬川氏の細君はやめた方がいいと止めますが、瀬川氏は拳銃とシェパードのネロを連れて椎名と向かいます。瀬川氏も真珠郎の姿を見たと話します。乙骨家の後ろの杉林に足跡があったのでネロに嗅がせて足跡を追ってみるのはどうだろうかと提案。雑木林を抜けると引きずった痕と女性の着物の切れ端があり、井の頭公園に付けばネロが吠えて瓢箪が縊れたようなコンクリートの橋に向かいます。ネロは明らかに敵意をむき出し何度も吠えて、雪をかくと下から女の足が見えます。かけつけた瀬川弁護士と椎名は雪をかき分けると由美の着物が見え、乙骨の妻の由美だと言います。しかしその体にはかつての鵜藤氏同様首がありませんでした。

乙骨は全身に傷があるものの致命傷になりうるものはありませんでした。事件のショックのあまり、椎名は大学に行かなくなりました。家で由美の幻影を追っています。ですが椎名の所を訪れた由利麟太郎――――由利先生によって椎名の活力は回復していき、事件に対しての興味と興奮、失い欠けてた生活感が戻っていったのです。
由利先生も春興楼に向かい最初の事件や真珠郎について調べ、多くの事実を発見しました。真珠郎の父親・降旗三郎がどんな人間であったかも。なお乙骨が由美を好きなのは関係者全員察していて、志賀司法主任も理解しています。由利先生は銀座のS堂で見たときに察したようです。

由利先生は、椎名たちが最初に真珠郎を見た場所の「柳」は、じいやがいるときにはなかったものだと言います。そして真珠郎の姿を見た、と話したとき鵜藤氏が驚いた事。おそらくあの柳は鵜藤氏が植えたものだと確信し、では何故あの場所に柳を植える必要があったのか。この疑問が非常に興味をそそり由利先生を事件に駆り立てたのです。一つの仮説を立てた由利先生が彫ってみれば柳の下から人間の遺骨が出てきました。

三番目の被害者

由利先生は椎名と接触しあれこれ話しますが、椎名の自主性を見ているようであまり多くの真実を語りません。彼の中ではほぼ解決しているのですが、渦中の椎名の理解力が乏しいようではいけないみたいで。入院していた乙骨は退院すると吉祥寺の家を売り払い別のアパートに住んでいます。精神的にやさぐれてギラギラとしていますが、由美の敵を取って真珠郎を捕まえたい様子。しかも乙骨は真珠郎を見たと話し、次に狙われるのは自分だから椎名に近寄らないほうがいいと彼を心配します。かつて由美がいったように「満州で友達と仕事をやるけどこんなことになったから延期したい」と話していました。

翌日、椎名は由利先生に乙骨との事を話します。乙骨が真珠郎を見たと知った由利先生は乙骨の身の危険を心配します。これまで真珠郎が姿を見せると惨劇が起きたため、乙骨が危ないと。更に乙骨から椎名宛に電話がかかっていると嫂から連絡があって受話器を取れば、受話器の先で何かが倒れる音やプスッと刺す音が聞こえたのち「乙骨三四郎は死んだ、私の名前は真珠郎」と椎名を嘲笑う声が聞こえたのです。
降りてきた由利先生に肩を叩かれて理性を取り戻した椎名は電話の内容を話します。由利先生は警察に電話して幾度か問答した後、椎名と乙骨のアパートに向かいます。アパートの受付嬢に草色の洋服を着た人間が来なかったと聞けば、確かにそういう姿の色白の華奢の人がやってきたと答えます。二人は鍵のかかっていない乙骨の部屋に入り、乙骨の死体を目の当たりにします。他の二人とは違い首は切られていませんでしたが、体中傷だらけで顔もめちゃくちゃに切り刻まれていました。

真珠郎の血縁者

警察は乙骨を殺害した犯人を椎名だとはなっから決めつけ、執拗に取り調べを行います。それに待ったをかけて助けたのが由利先生。そもそも真珠は由美が殺されたクリスマス以降姿を見せていません。電話をかけてきたといっても果たしてその声は真珠郎の声なのか証明できるのか、と。何故か椎名に真珠郎を目撃させて強く印象づけるようじゃないかとこぼします。

その後、椎名は由利先生に誘われるまま、N湖畔への旅行に向かいます。宿屋では、由利先生があらかじめ呼んでいたのか真珠郎の血縁者を知る青年がいました。彼の話では真珠郎の父親とされる降旗三郎には妻子がいて、妻は光子、娘は伊那子といいます。聞きたいことはこの降旗伊那子だろうといい、彼女は降旗家の血筋らしく白痴で荒々しく口数もあまり多くありませんでした。五、六年前に母親の光子と一緒に降旗家を出奔した後の情報がなく、青年が人づてに聞いた話では諏訪で糸取り女工をしていたがそれもすぐにやめてしまい消息不明になっているという話です。由利先生は真珠郎の写真(春興楼にあった写真)を青年に見せ、伊那子の面影があるか尋ねると、伊那j子はこんなに綺麗な着衣と佇まいはしていないしこれは男性だといいつつ、でもよく見れば目元と口元が彼女に似ているといいます。伊那子の身体的特徴を尋ねれば、左腕に北海道の形をした痣があると青年は断言しました。

ゆきんこ

このあと、椎名は由利先生とともにN湖畔に向かいます。そこで「真珠郎」と相対し事件が締めくくられます

「真珠郎」のネタバレ

ここから先は真珠郎のネタバレを含みます。犯人は服毒自殺し、全ては犯人が残した遺書によって判明します。対応的に由利先生はN湖畔に行って志賀司法主任と調べた辺り(由美が殺害されたクリスマス)で犯人が解ったんじゃないかなと。

「真珠郎」の犯人

鵜藤・乙骨三四郎・降旗伊那子・老婆を殺した黒幕は鵜藤由美、共犯者の乙骨三四郎です。鵜藤を殺したのは伊那子(真珠郎)で、老婆を殺したのは乙骨です。伊那子は真珠郎の異母妹で降旗家の血筋の通り白痴でした。伊那子を操れるパートナーを探していた由美は乙骨と出会います。伊那子は乙骨に抱かれてすっかり言いなりになります。
乙骨は由美以上に狡猾で、伊那子を処分することやその後の身の振り方も提案しました。

椎名と由利先生に見破られた由美は椎名にひな人形の中の手紙(遺書)を読んでほしいと告げて底なし沼に身を投げます。椎名の直感通り最初の自動車に乗り込んだ老婆は由美が、丘で出会った老婆は伊那子が、それぞれ変装していました。

「真珠郎」の犯人の動機

自分の人生を狂わせた鵜藤を殺害するため。3年前鵜藤氏のところに引き取られた由美は真珠郎の存在を知ります。ただ真珠郎は病弱になっていて半年後に亡くなります。この時点で鵜藤氏は由美を第二の真珠郎にするつもりであり彼女を壊しました。体を癒やしながら地下室で犯罪書を読む日々を送る由美は鵜藤を殺す決意を固め、彼への憎悪と呪いが蠢く様は正しく第二の真珠郎だったのです。
乙骨を殺したのは、二番目の事件の時に自分が死んだ存在になることを渋った由美の理由を乙骨が見抜き嫉妬に狂って椎名を殺すと彼女を脅した事がきっかけです。由美は乙骨を生かしておけないと決めました。伊那子は口封じ、老婆を殺したのは特に語られていませんでした。完全とばっちり。

由美によって最大の失策は自分が椎名を心から愛してしまったこと。もっともっと早く出会っていれば、と……その後悔と淡い思いが手紙に綴られています。

「真珠郎」の正体

真珠郎は鵜藤氏の野望によって降旗三郎と山窩の女の間に生まされた子供です。人間バチルスを作って世間に復讐する野望を持った鵜藤氏によって真珠郎は地下で徹底的な悪の教育を受けます。しかし育て方が悪く真珠郎は弱っていき、鵜藤氏が野望を果たす前に死んでしまいます。その死体は鵜藤氏と由美が埋めます。

作中で出てくる約九割の「真珠郎」は彼の異母妹である降旗伊那子です。二番目の事件は狂言で鍵穴ごしに椎名に襲われていることを見せつけるだけでしたが、伊那子は由美に殺され首を切られて由美の着物を着せられて公園に運ばれました。

ちなみに真珠郎を称した言葉に「人間バチルス」がありまして、バチルスとは細菌、とくに「桿菌」が有名な意味ですが、別の意味として「社会に害をなすもの」というのがあります。

椎名耕助の役割

由美が計画した殺人計画は真珠郎を目撃する善良な第三者の存在が必須です。姿をみて殺害現場も目撃させて警察も信用できる人間。それに選ばれたのが椎名だったのです。

最初と二番目の事件のとき姿を見せていた真珠郎が、三番目の事件では乙骨の口から語らせて電話越しに喋るという間接的な方法をとったのは、既に真珠郎(伊那子)が死んでいるためです。三番目の真珠郎は由美ですが、由美の姿を椎名は知っているため姿を見せることができませんでした。

蜘蛛と百合

美貌の青年・瓜生が何かと曰く付きの噂がある淑女・君島百合枝の周辺を探った結果、恐ろしい犯罪の証拠を見つけたと友人の三津木に話します。百合枝を探った男が既に二人死んでいて、自分も三人目の犠牲者になるのかも、と冗談交じりに言います。彼と別れた三津木は不思議な男とぶつかりますが、その直後殺されている瓜生の姿を発見。三津木は由利先生にお願いして君島百合枝の過去を調べてもらいつつ、彼女と接触します。瓜生の愛人の伊馬とり子も彼の敵を取ると豪語し百合枝の身辺を探りますが、何かを伝えようとして殺されてしまいます。三津木は百合枝の妖しい魅力に惹かれ、由利先生から離れてしまいます。

登場人物作中での活躍
由利麟太郎(由利先生)私立探偵
三津木俊助S新聞社の探訪記者。百合枝の毒牙にハマる。
瓜生朝二美形。プレイボーイ。最初の被害者。
君島百合枝蜘蛛三と半ば無理矢理結婚させられた女性。三ヶ月間の逃避行の末に子供を妊娠するが死産。蜘蛛三の遺産を受け取る。接近する男を誘惑する。
伊馬とり子瓜生の愛人。二番目の被害者
蜘蛛三百合枝の旦那で執念深く彼女を愛する男。自宅の蔵からほぼ出ることがない。金持ちの息子。三ヶ月間の逃避行の末に満足して自殺したと言われる
蜘蛛と百合の犯人

瓜生朝二・伊馬とり子を殺した犯人は君島百合枝です。百合枝は理性を取り戻した三津木を一旦は帰すもその後男装して三津木を殺そうとしますが、後を付けていた由利先生に正当防衛で射殺されます。瓜生が死ぬ前に三津木に「既に二人行方不明の男がいる」と話していることから、百合枝は瓜生・伊馬以外に二人も殺害していると思われます。

彼女の屋敷の地下には、鎖に繋がれてベッドに寝ている蜘蛛三がいました。ほぼ醜く痩せて蜘蛛のような。彼は囚人では無く、百合枝によって甲斐甲斐しく介抱されていて普通に生活をしていました。百合枝が死んだことを由利先生から告げられた蜘蛛三は、彼女の後を追うように死にました。なお蜘蛛三は百合枝の婚約者を殺害しているため世間に出ることができません。そのため投身自殺を謀ったと見せかけてここに住んでいました。

蜘蛛と百合の犯人の動機

由利先生曰く「この女は気狂いだったのだよ」ということや、百合枝の犯罪の証拠を掴んだための口封じでもあります。

百合枝は表向きは蜘蛛三を憎んでいると話しますが、実際は逆です。3ヶ月間の船の上での生活で性情もすっかり変えられてしまいました。由利先生はそれに適応した彼女を化け物と称します。

薔薇と鬱金香

昭和十二年。曰く付きの事件に巻き込まれながらも開場式を行う東都劇場。招待された由利先生と三津木は、同じく招待客の鬱金香夫人を見つけます。三津木は、鬱金香夫人こと磯貝弓子のかつての良人・畔柳博士が5年前に殺害された事件を話します。弓子のいまの良人・磯貝半三郎は人気小説家、今回の戯曲の作者は誰だとスタッフに聞いていました。戯曲「歌時計鳴り終わるとき」は夫婦の不倫の話で、細君が若いツバメと逢い引きする方法が時計が奏でる歌でした。それを見た弓子は顔面蒼白状態ですが、直後火事だという声が聞こえました。

登場人物作中での活躍
由利麟太郎(由利先生)私立探偵
三津木俊助S新聞社の花形記者
磯貝弓子(旧姓:畔柳)鬱金香夫人(マダム・チューリップ)。美人。薔薇郎と逢い引きしていた
磯貝半三郎著名な小説家。弓子への愛が深い。左手の小指の先がない。
大利根舟二戯曲「歌時計鳴りおわるとき」の作者。その正体は薔薇郎。
畔柳慎六有名な弁護士&法学博士。薔薇郎に殺されている
薔薇郎今業平と称されたレコード歌手。畔柳殺害の懲役で15年刑務所に。昨年秋亡くなっている。
堀見三郎半三郎に金を無心する書生。畔柳家に在籍していたことがある。
薔薇と鬱金香の犯人

畔柳慎六を殺したのは磯貝半三郎です。当初、畔柳殺害で捕まった薔薇郎は、畔柳を弓子が殺したと思い彼女を庇うつもりで刑務所に入りました。何故なら薔薇郎は真犯人の磯貝によってアヴェマリアで呼び出されて犯人に仕立てられたからです。
乳母から全てを聞いた薔薇郎は磯貝に決闘を申しこみ、片方に毒の入ったグラスを同時に飲みます。磯貝は直後に震えて倒れて死にました。ただ薔薇郎は毒ではなく乳糖をいれていました。磯貝の死は良心の呵責と精神的苦痛ではないかと言います。

薔薇と鬱金香の犯人の動機

磯貝は畔柳の妻の鬱金香夫人こと弓子に惚れていて、あらゆる手を使って彼女を自分の妻にしたいと考えていたからです。
薔薇郎と弓子はさながらロミオとジュリエットのように薔薇郎の花園で毒を飲んで自殺しますが、薔薇郎の乳母が毒をすり替えて睡眠薬にしていました。この薔薇郎の花園は薔薇とチューリップで構成されていて、これは薔薇郎の乳母が丹精込めて育てています。このばあさん、名前ないくせにキャラが濃い。

薔薇郎と弓子は不倫していて逢い引きの合図が枕元においてある歌時計の「アヴェ・マリア」でした。畔柳は殺される前に磯貝の指をかみ切って、歌時計に投げ入れました。その小指が内部で鍵となりアヴェマリアが途中で止まってしまっていました。

ゆきんこ

「薔薇と鬱金香」の終盤は金田一耕助シリーズにも流用されています。証拠がある場所。

炮烙の刑

今をときめく俳優・桑野貝三は又従姉妹の瀬下葭枝に呼び出されて、彼女の良人の瀬下直人が桑野と葭枝それぞれに手紙を送りつけたことを知ります。葭枝宛の手紙は「お前が手紙の通りに動かないと自分は殺されるかもしれない、桑野以外に見せないでほしい」と、桑野宛の手紙は「お金を受け取ったら指定の場所で待っていてくれ、男達に逆らわないでほしい、自分の命がかかっている。葭枝は茶房で待っていてほしい」というもの。桑野は瀬下のような男はもっと困らせた方がいいが葭枝が悲しむからと、仕方なく引き受けて指定の場所に向かうのです。

登場人物作中での活躍
由利麟太郎(由利先生)私立探偵
三津木俊助S新聞社の花形記者
桑野貝三日東映画のスター俳優。作中の被害者。
瀬下葭枝貝三の又従兄妹。良人から奇妙な手紙をもらう。貝三の事が好き。大体お前のせい。
瀬下直人葭枝の旦那で画家。二人に手紙を送る。
降旗珠実貝三と相乗りした渋谷のホステス
炮烙の刑の犯人

一連の事件の犯人は瀬下直人です。つまり自演のお芝居。瀬下直人を攫った男達や貝三に薬を持った珠実を含め、この話に出てくる貝三・珠実・瀬下以外のメンバーは全て瀬下が雇った人間です。

そのため瀬下が男を殺害した事件も、木の義足の男も、彼が見知らぬ事件に巻き込まれているというのも全て狂言。貝三が三津木に相談しようと瀬下に話したとき断ったのは、彼が介入して全てが狂言だと貝三に発覚するのを恐れたからです。

炮烙の刑の犯人の動機

瀬下は、葭枝が毎日貝三の事を書いている日記を読み嫉妬が爆発。貝三と葭枝をアトリエの地下に閉じ込め二人を殺そうとしますが由利先生と三津木が助けに入ったおかげで命が助かります。何も知らない貝三に対して実は全部知ってて貝三と一緒に死にましょうと私貴方と一緒なら、と悲劇の女ぶる葭枝がひっじょーに面倒くさい女だと思いました。そもそも貝三、葭枝が好きだと言ってないから完全に状況を利用した葭枝の無理心中なんだよな。

瀬下は一つの絵画を完成させて死んでいました。自殺ではなく興奮による心臓麻痺だろうと由利先生は話します。その絵画は暗い背景で鉄鍋に煎られて藻掻き苦しむ真っ裸の貝三と葭枝の断末魔でした。小さく「炮烙の刑」と描かれていました。

真珠郎のまとめ

今回は角川文庫ではなく扶桑社の「昭和ミステリー秘宝」の真珠郎でした。この文庫本の帯紹介はぷいぷい作家綾辻行人先生です。とても素敵な紹介文です。ただ「首吊り船」は下記の短編集に収録しているので気になった方はこちらもどうぞ。由利先生たちの長編だと残りは「蝶々殺人事件」かな。真珠郎を除く他の長編作品は復刻されているか怪しいので。

「真珠郎」のオマージュ元のひとつ「エジプト十字架の謎」も読みました。「顔のない屍体」の身元は誰かということや、どうして首を斬る必要があったのか、Tの意味は、などなど盛りだくさんでした。

実はネタバレしてる表紙

今回もぱくたそからお借りしました

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